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研究成果 第749話・2.11

「どうだ。見たまえ、ついにできたぞ」「き、教授! ついにやりましたね」研究所には青く光り輝く幾何学模様。
 教授は長年の研究でついにある結果が出たことに、満面の笑みを浮かべている。教授を支えていた助手も目を輝かした。
「そうだ、君、早速だがこれを多くの人に知らせねばならん」「教授わかりました。ではどこに伝えましょうか?」

「そうだな」教授は腕を組んで考えた。「やはりマスコミでしょうか?新聞社にファックスかメールを」助手はさっそくパソコンのキーボードを叩こうとするが、それを教授は制止した。「まて、まだマスコミや新聞社は早い」「ど、どうしてですか?彼らは最も情報伝達がうまいんですよ」
「いや、まずは学界に発表した方が先決だ、そうすればマスコミは必然と姿を現す」

「しかし教授、学会は難しいのでは?でなくとも教授は」ここで助手は慌てて口をつぐんだ。「それ以上は言わなくてよい、君が言うことはわかっている。どうせあれだろ。私はあまりにも奇抜な視点で研究をするから、研究者たちの間からは完全に浮いた存在であると」
「え、ええ、ま、そ、そうなんです。だから頭の固いそういう連中らに、ギャフンと言わせられるのがマスコミではないですか?マスコミは珍しければ必ず食いつきます。そうすれば教授の研究成果は連中らからは相手にされずとも、世間の目は引くに違いありません」

「うーん、だけどな」教授は腕を組む。「確かにマスコミは、他の研究者教授連中よりも私の研究成果に飛びつく可能性が高い。だが、だがな、マスコミは時に権力者とつながっている可能性があるんじゃぞ」
「教授、一体それはどういうことですか?」助手は意外なことをいう教授に食いついた。

「例えば、その、例の教授連中。あの中には御用学者という輩もいる」「御用学者、ああ大物政治家につながっている」助手の語りに教授は何度もうなづく。「つまりだ、この研究結果をマスコミにリークしたとする。ところがマスコミが発表前に政治権力の握っている者から握りつぶされる可能性があるということ」
「そんな、それじゃあ」「君はまだ若い。十分あり得るだろう。頭が固いだけならまだよいが。私の世紀の研究成果に嫉妬を燃やす学者もいるはず。奴が政治家を利用してマスコミに圧力をかけてしまえば、元も子もない」
 教授はそこまで言うと軽くため息をつく。しばらく沈黙が流れた。

「だったら、これしかありません」助手は意を決して発言する。「何か名案があるのか」「SNSです」「ほう、匿名素人によるネットの力を使うのか」助手はうなづくと。
「たとえマスコミが権力者に牛耳られても、匿名SNSで拡散すれば、無関係に広がります。権力者たちは『デマだ』『陰謀論者だ』とさわぎたてるかもしれませんが、SNSは世界中とつながっております。急拡散すれば、止めることは不可能。マスコミもそれを見て動くかもしれません」

 教授は助手の言い分に何度もうなづくと「よし、とすればこうしよう。日本語だけを使うのではなく多言語で発表しよう」
「教授、賛成です。日本だと1億人ほどの人口で、その中でネットを駆使する人、さらにSNSの情報に食いつく人がどのくらいいるのか?そこまで考えるとなれば、おそらく相当限られてしまいます。これを世界に向けて発信すれば、その数十倍の人が同時にみますから、権力者など恐れるに足りません」と、教授以上に熱く語る助手。

「だろう、そうすれば外国の研究者が、私の研究を評価するやもしれん、日本の頭の固い研究者ではなく、最先端のほれ、アメリカの研究者の目に引けばもう日本の研究者は、何も言えんな」「では、英語で翻訳したものを用意しましょう。二か国語ですね」だが助手の提案に何度も首を振る教授。「英語だけでは手ぬるい。ここでは中国語とスペイン語も入れるべきだ」「なるほど、となればアラビア語とか、あと」「うんそうだ。今は翻訳ソフトもあるしな。それを使って可能な限りの言語を駆使して一斉にSNSで拡散するんだ」

「わかりました。となれば、教授、あまり難しい言葉は危険です。ひとつ間違えれば翻訳ソフトがでたらめに翻訳する可能性があります」あわただしくしゃべる助手の言葉に教授も同意。「わかった。できるだけわかりやすく簡潔に発表しよう。そうすれば、翻訳ソフトがデタラメに訳すはずもない」「はい、教授3つくらいの言葉に集約しましょう」

「わかった」教授は大きくうなづくと「今の内容はすべてメモをしているな」「もちろんです教授」助手の言葉に再度うなづく教授。
「よし、始めるぞ」「はい、拡散方法が決まりました。あとは計算通りに研究結果が出るだけですね」
 助手の言葉を聞きながら教授は青く輝く光に視線を送った。「今からこのボタンを押せば、化学反応がおき、この通りになる。私の研究成果が成功する瞬間だ」それを固唾をのんで見守る助手。

 つまりふたりはまだ研究結果をだしていない。青い光は予想されるレプリカ。研究結果を出す前に、それが実際にできてから慌てないようにリハーサルをしていた。そしてその研究結果をどの方法で人々に伝えるか、その打ち合わせも、ついでにしていたにすぎないのだ。



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