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週末の10月1日 第617話・10.1

「あれから3年か」私は3年前の今日10月1日に、地方から都内に引っ越して東京都民となった。それも賃貸ではなくて、土地付きの家を買ったの。もちろん23区じゃなくて遥かに西。すぐ目の前に山があるところだから、そんなに驚く金額じゃなかったわね。
「あの日は今でも忘れられないわ」律の問題とかいろいろあったけど、引っ越し後、何事もなくこうやって同じ場所に居続けられていた。
 私はコップに残ったコーヒーをすべて飲み干すと、感慨にふける間もなく出かける準備を整える。

 私の職業はデザインの仕事。一応自宅が仕事場となっている。昨日のうちに新作のデザイン案ができたので、今からクライアントの会社に出向かないといけない。近眼なのでいつもはメガネをしているが、打ち合わせのときは、コンタクトをつける。それから出かけるときには、一応デザイナーらしいファッションをして、軽く香水もつけた。

 こうしてノートパソコン片手に家を出る。玄関のポストを見ると乳がん検診の案内が入っていた。私はそれをポケットにしまう。そのまま駅に行き、電車に乗って都心に向かった。
「ずいぶん外国人が多いわ。それに結構な年齢」途中の駅で乗ってきたのは白人のお年寄り。国際高齢者と言うべき人であった。

「さてと確定拠出年金の配当は今どうなっているかしら。ダーリンのための福祉用具はまだ無理みたいね」周りに聞こえるような大声。
 私は目を閉じていたが、その声が気になって目を開くと、驚いたことに先ほどの白人の声。「日本語がネイティブだ!」見た目は完全な白人だが、もしかしたら日本生まれかもしれない、と思うほど違和感がない。 

 私はその人のことが気になったが、乗り換えの駅に到着したから電車を降りた。先ほどの白人はまだ乗っている。私はさらに乗り換えると、今度は少し変わった電車に乗った。それは都電荒川線。今は東京さくらトラムという名前になっているけど。

 そんなトラムに揺られること15分、ようやくクライアントの入居しているビル近くに到着。ビルの中に入ってエレベーターに乗り込むとネクタイ姿のサラリーマンがふたりが後から乗ってきた。私は後ろを向いていたが、彼らの会話が聞こえてくる。「先方は何か言ってたか?」「ええ、浄水槽の件なら問題なさそうです。ただ」「どうした?」
「あの人、大のお酒好きでしょう。来週の接待の場所は、やはり日本酒の専門店が良いでしょうかね」
「ああそれはな。あ、あとで」どうやらふたりの会社のフロア階に到着したようで、エレベータのドアが開くと、そのふたりは磁石に引き寄せられるように即座に出て行った。

 ちなみに私のクライアントは最上階にある。ドアが閉まって10秒くらいで到着。「失礼します」私が元気よくクライアントのオフィスの入口で挨拶をする。ちょうど日本茶を飲んでいた担当者が、立ち上がって私の方に来た。
 このままミーティングルームに移動。そこは展望の素晴らしい場所で、いつもその絶景を見るのが楽しみなの。
「さて、新しい醤油パッケージのデザインですが」そう言って私はデザインを担当者に見せる。担当者は真剣な目で私のデザインを舐めるように眺めていた。私はその横でこのデザインについて説明を続ける。「食文化を重視してイメージしました」
 担当者は何度もうなづき。「非常に良いと思います。さすがですね。これで行きましょう。後は上司次第ですが、僕はこれ行けると思います。このデザインなら国際音楽祭の場所でも違和感ありませんよ」と言ってくれた。

 こうして私は、ホッとしてクライアントのオフィスを出る。「あの様子ならよほどなトラブルでもない限り行けそう。良かった」私は安心したのか急に空腹になった。「何かないかしら?」
 私は近くのコンビニに入っ、てお気に入りの食物せんいが多く含まれたお菓子を購入。そのまま近くの公園のベンチに座った。
「そうか、今日は月初めだけど週末金曜日か。どおりで町が少しにぎやかだと思ったわ」私はお菓子を食べながら公園にいる人たちの様子を眺めた。ちょうど目の前に補助犬と一緒に歩いている車いすの人がいる。

 その人は犬に助けられながら、ゆっくりと私の前を通過した。でも私はその人を見てこう思ったの。「そうだ、今度は車いすのデザインをもっとカッコ良いのを考えようかしら」ってね。


 ※以下で見つけた10月1日の記念日を使ってみました。
(もっとあると思いますがキリがないのでこの辺りで)

法の日 土地の日 コーヒーの日 日本茶の日 日本酒の日 醤油の日 
ネクタイの日 メガネの日 デザインの日 展望の日 国際音楽の日
国際高齢者の日 福祉用具の日 補助犬の日 浄化槽の日 東京都民の日
香水の日 食物せんいの日 乳がん健診の日 食文化の日 磁石の日 確定拠出年金日 荒川線の日


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