縁結びのいいリンゴ 第652話・11.5

「さあ、いよいよ。私たちの月になったわ!」霜月もみじは、嬉しそうにカレンダーをめくる。苗字もそして名前も合わせたかのように、11月をイメージ。同じように娘も楓と紅葉の季節にぴったりだ。ちなみに夫はも秋夫だから似たようなもの。だから11月はこの一家はいつもの月以上にテンションが高い。

「ただいま!」ちょうど秋夫が仕事から帰ってきた。そして秋夫も今日はやけに嬉しそう。「あ、定時でお帰りなさい!」もみじが笑顔で玄関まで来る。すると秋夫は、大きなビニール袋をもらっていた。
「今日はリンゴをもらってきた」「リンゴ?この時期だったら柿なのに」
「いやそうじゃない。これは縁結びのお祝いなんだ」秋夫は靴を脱ぎ、自室に入った。そしてスーツから部屋着に着替えながら説明する。

「縁結びということは、会社の後輩か誰かの」「いや違う、実は俺の縁結びだ」ところがこれを聞いたもみじは、突然不快な顔になる。「ちょっと、どういうこと。私と楓がいながら、何よ、あなたの縁結びって!」
 突然不快になるもみじ、それに対して慌てて否定する秋夫。「まて、何を誤解している。違う、そうではない」
「どういうこと、縁結びって言ったら男女の縁という意味。私との縁は何なのよ!」もみじの怒りが声にまで伝わる。
「頼む話を聞いてくれ。縁結びでなぜ男女の関係と思う!」11月だというのに、秋夫の額から汗がにじみ出た。「え、いや、それは常識よ!縁結びの神様とかでお参りする際には、素敵な出会いとかじゃないの」

「だから、縁結びにはそれもあるが、それ以外もあるんだ!」必死に言い訳しようとしている秋夫、だがもみじは、まだ信用していない。
「じゃあ、あんたの縁結びの『縁』てなによ」「取引先だよ。半年かけてようやく契約が取れたんだ。俺が見つけた取引先」

 そこまで聞くとようやくモミジの吊り上がっていた目が少し収まった。「それって、会社との縁っていうこと?」「そうだよ。縁て別に恋愛だけとは限らなんだからな。粘り強く交渉を重ねたんだ。それがようやく実って今日、無事に契約締結したんだよ」
「なんだ、びっくりした。でも何でリンゴ?」「ああ、それは、取引先がリンゴの会社だからだ」「リンゴの会社って、まさか!あのスマホの?」

「違う、違う、本当のリンゴの会社。大きな農園をやっているところだって、そのリンゴの販売をうちの会社がやるんだ。それは、畑で取れたリンゴをお礼にとくれたんだ」「そういうことか」ようやく、もみじは笑顔を取り戻す。
「それだったら、そのまま、このリンゴを食べても仕方ないわね」秋夫から受け取ったリンゴの袋のなかをみるもみじ。
「どういうことだ」「え、縁結びでもらったリンゴだから、そういうのをイメージした料理かデザートに使いたいわね」

「おいおい、急にそんなこと言って、俺腹減ってんだけど」「いや、大丈夫。今日じゃないから。今日のご飯はもうできているわ」もみじの一言で、秋夫は安どの表情を浮かべた。

「さて、リンゴをどうしようか明日か明後日には、妙案が思いついたらいいけど」モミジはリンゴを見つめながらつぶやく。

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 こうしてもみじは、次の日から、リンゴをどうしようか考えたが、縁結びとの接点が見当たらず、何も思い浮かばない。
「困った」と悩みながら数日が経過。リンゴが徐々に熟し始めているのが分かる。「このままではまずい。うーん、仕方がない。もう、こうしよう」結局もみじは、熟したリンゴを砕き、リンゴのジャムを作った。

 そして翌日、トーストに手作りのリンゴジャムを塗って、みんなで食べる。娘の楓は口の周りを、ジャムで汚しながらも「おいちい」と嬉しそう。そして秋夫といえば、こちらも満足げの表情。「これ、美味しいな」
「そう、よかった。実はジャムにハチミツ入れてみたの。ちょっと砂糖が足りなかったから」「ハチミツか!」秋夫は、もうひとくち食べる。そして口の中を動かしたが、突然「そうだ思い出した」と大声を出す。
「あそこリンゴ農園は、確か花でハチミツを作っているんだ」「リンゴの花のハチミツ?」秋夫思わずく口元が緩む。

「そうリンゴの花だ! だったらそのハチミツとリンゴの実を使ったジャムを早速提案してみよう。それをうちが代理店として売り出す。よし決まった」と嬉しそうな秋夫。それを聞いたもみじも、リンゴは11月の物ではないけど、素敵な縁があったとばかりに、笑顔でリンゴジャムが塗られたトーストを口に含んだ。

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