面白い体験 第971話・9.22
「ああ、トイレで考え事をしてしまった」私は時計を見た。気が付いたらトイレに入って15分も経過している。
「ずいぶん長く検証されていたんですね。再現率はどうだったでしょうか?」トイレに出ると、トイレの前にいた女性に質問を受けた。
私は「え、あ、あれ」今考えていたことが何だったのか思い出そうとしているときに、質問を受けたためだろうか?次の言葉が出ない。
「どうしたんですか?」
「あれ、あ、ああ、そ、そうだったわ」ようやく私は頭の中の整理がついた。この数時間でのギャップはまだ完全に整理できていないが。
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これは半日前のこと。私は海の見える港に来ていた。すでに朝の漁が終わった後で、漁船が多く停泊している場所。もう人は誰もいなくて、いるのは海の上を自在に飛び回っている海鳥だけだ。
「なんだか毎日が退屈ね」私にはお金があった。
私は親の記憶が全くなく施設で育ったが、2年前に父親が生きていることが判明する。呼び出されたので私が会いに行くと、その父親とはとんでもない資産家。
だがすでに重い病に伏していた父親が私を探したわけだが、ほかに資産を継ぐ者がいないからということで、私が娘として認知されると同時に資産の相続者となる。
父との再会後3か月で父は他界し、私は24歳にして大資産の相続者となって、父の残した屋敷に住み始めた。だが、金持ちになって喜んだのは最初の半年ほどである。働く必要もなく毎日遊んで暮らしても到底使い切れないほどの資産。私は何もしなかったが、何もしないことが飽きてくる。
だが屋敷には召使がいて、彼らに言わせると私が大金持ちだから外に出ると危険だという。だが私はこの窮屈な世界に限界が来たので、とりあえずしばらく生活できるお金としばらく留守にすると置手紙を置いて家を出た。
「金があれば幸せとは限らないのかも」私は旅に出て2ヶ月感じたことがこれかもしれない。日々お金を稼いで日々の生活を送っている人からしたらとんでもないぜいたくな悩みだと思われているだろう。だけどこれが本音だった。
「何かもっと面白いことないかな」私は海を眺めながら声に出して呟く。
「面白いことをお探しですか?」突然見知らぬ声。
「誰?」慌てて私が振り向くと、同じ年くらいの女性。だが彼女の服装やいでたちが説明のしようもないほど奇抜、この世のものとは思えない。
「初めまして、私は遠いところから来ました。何か面白いことを探しているようですね。ならばと声を掛けました」
「......」私は声が出ない。突然話しかけてきた女性のいでたちにも圧倒されたが、私がついうかつに発した言葉を、しっかりと聞いていたことに少し鳥肌が立つ。
「あなたは、いったい。旅行者?」私の質問に女性はわずかに頭を下げ。「旅行者と言われればそうかもしれません。私は、あなた方の言う宇宙人です」と答えた。
「え、ええ!」私は必死に笑いをかみ殺す。不思議なことをいう女性だと思ったが、この女性の存在がある意味私にとって良い暇つぶしになる気がした。だからもう少し話を聞くことにする。
「この星のあるものを再現したので、今から私の星に来てもらえませんか」「星って、まさか宇宙船とかUFOがあるの?」私はこの女性はもしかしたら天才肌の芸術家のような気がした。自らを宇宙人と言って私の前に突然現れたのだ。もしかしたらこの女性を相手にすると、本当に面白いことが待っているかもしれない気がする。
「よくわからないけど、私ほかにやることないし、いいわ」と承諾した。こうして奇抜な女性の後に付いていく。女性は漁港から少し歩いた森の中に入る。ここはふつうだれもはいらなそうなところ。私が木の中に入ると突然開いているドアがある。
「この中に入ってください」私が入ると座席があった。「ベルトしてください一瞬だけ揺れます」
「その、あなたの星までどのくらい?」「すぐです。ここから150万光年先ですがワープしますので」
直後に大きな揺れ、私は慌てたが本当に一瞬だけで終わった。「つきましたどうぞ」
「え?もうついたの」私は首をかしげる。女性はドアを開けると先に出ていく。私も後をつけて出ていくと。
「え? ここは......」私は思わず口の前に手のひらを持ってきた。見たことのない世界が広がっている。
女性が言うには、いまある博覧会の準備中で、人が住んでいる宇宙中の星のあるものを再現するのだという。それがトイレ、私に地球のトイレの再現率を見てほしいと言い出すのだ。
「こちらです。私、地球で何度も見たものを総合して再現しました。本物の地球人の方ならご存じでしょう。本当にあっているかチェックしてもらえませんか?」
こうして目の前にあるトイレに入った。ドアの中にあるのは紛れもないトイレ、というより他の星ではどんなトイレなのかわからないから、私が見てもトイレはトイレにしか見えない。
「すぐに出ても」私は水が流れるところとかいろいろ試したが、やはり再現率は高い。「あとは座り心地かな」と思い座ったところ、頭の中でいろんなことが浮かんでは消える。こうしてしばらくトイレで考え事をしていたのだ。
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「あ、トイレ、見事に再現していると思うわ」私は正直に答えるとその女性は嬉しそうに笑顔を見せる。
「ありがとう、そうしたら帰りましょうね」と言うと、先ほど宇宙船?の停まっていた方に向かう。その宇宙船は彼女の星に来ても森の中に停まっている。
「はい、戻ってきました。今日はお付き合いくださりありがとう」「うん、なかなかできないことだし面白かったわ。こちらこそありがとうございます」
私は素直に礼を言って別れる。ここで「あ、星の名前を」と思い、慌てて振り返って彼女を探したがもうその姿はなかった。
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