見出し画像

つくってみた 第1158話・5.3

「必ず歩いてやる」私は目の前の信じられない状況を見てつぶやいた。目の前は不思議な状況になっている。なんといっていいのかわからない。説明のできない状況なのだ。

「もしかして夢?」私は体をつねってみた。だが痛い。夢ではないようなのだ。「どうやって歩くの?」私は突然広がっている目の前の現実を受け入れたくなかった。

 見ただけではとても歩けるような状況にない。歩くべき地面の色が見たことがなく、またどのくらい固いのか、実際に踏んでみないとわからないのだ。ここで石ころのひとつがあればそれはわかるのかもしれないが、そんなものはどこにも落ちていない。それに目の前は白い湯気のようなものが見え隠れする。熱いのかもしれないし、逆に冷たいのかもしれない。

 私はごく普通の靴しか履いていないし、踏み込む勇気がなかった。「でも、歩くしか」私は勇気を振り絞って大きく利き足を前に出した。そして。

ーーー

「どう、私がつくってみた作品はこんな感じよ」私は自分の作品の発表を終えた。ここは文芸のサークルで、あるテーマで物語をつくって、発表する場だ。
「歩く」というテーマでメンバーで、それぞれが発表をするのだが、今回私は最初だった。

 歩くテーマで私が考えてつくってみた不思議な物語に、他のメンバーは唖然として固まっている。「やりすぎたかな」私は恥ずかしさのあまり思わず顔を赤らめてしまう。

「あ、はい、では次」我に戻った先生の掛け声で、私が座り2番目の子が立ち上がったが、何も言わない。「あ、あのう」としか言わずだまったまま。
「考えていないの」「...…」困った先生は3番目の子を指名した。だが「...…」立ち上がったが何も言わない。

「おい、おい君も何も考えてないの?」先生は不機嫌そうだが、3番目の子も何も言わないまま。「じゃあ次」という具合に先生は順番に指名するが、不思議とだれも何も言わない。10人いるのに私以外誰もこのテーマで何も考えていなくて、つくってないようなのだ。
「ちょっと、あまりにもひどいわね。なんでこのテーマで考えているのひとりだけ!」先生は怒ったが、みんなうつむいたまま何も言わない。私の考えた作品があまりにも奇抜過ぎたのか、みんな発表する気を失ったようだ。

 すると先生は突然黙って私をにらむ。
「え、ちょっとこれ?」どうも今回の発表会は私が台無しにしたような空気が流れている。先生はずっと私をにらんでいた。周りの子はみんなうつむいて黙ったまま。この空気に私は怖くなり、立ち上がって「ご、ごめんなさい!」と大声で謝ると慌てて教室を出る。
 後ろで先生が何か喚いたかのように見えたが、私は振り返ることなく走って逃げた。もう逃げるしかないと思って。

「ああ、私が最初でなければ」私は走りながら考えた。そして我に返る。「あれ?」私は目を疑った。教室を出て廊下を走っていたはず。だがいつの間にか校舎を出ていたようなのだ。校庭を歩いているが、どうも様子が変なのである。「な、なんか、あれ?」私は空を見た。

 いつもの晴れた青空でも曇りのどんよりした天気でもない。見たことのない色が空を覆っている。「え、え」私は急に全身に寒さを感じた。慌てて下を見たが特に変化はない。ただ空だけが不気味なのだ。

「ま、いいか、こんな時は帰ろう」私はそのまま校庭から門に向かう。こうして校門の外に出ようとしたその時、私の足は自然と停まった。
「こ、これって...…」私は次の言葉が出てこない。なぜならば校門の外は一面何もない地平が広がっている。それだけではなかった。その地表の色そして雰囲気と形は、私がさっき物語で思い浮び、発表した光景そのものだったのだ。

「え、あ、えええ?」私は目を疑い何度も瞬きをしただが何も変わらない。「これはすべて夢」と思ってやはり体をつねる。同じであった。痛いまままるで、自分自身で創作していた世界に自分自身が迷い込んでしまったようなのだ。
「え、ここを歩けって...…」私は今更ながら後悔した。あんな不気味な世界を考えなければ、そしてそんなものを発表しなければこんな目に遭わなかったのかと。でももう遅い私は自ら考えだしてしまった不思議な世界、これ以上一歩も先に歩けない世界を考えて構築してしまったのだ。

「こうなったのが私のせいなら」私は覚悟した。「必ず歩いてやる」そう一言つぶやくと利き足を大きく上げると、最初の一歩を踏みだそうとする。見たこともない謎の色で満ちている地面に向けて足をゆっくりと前に突き出すようにおろした。

ーーー

「以上です。どう、私がつくってみた作品はこんな感じよ。今回は、ひとひねりして先生やサークルのみんなも登場jん物として使いました」こうして本当の私の作品の発表が終わる。私はひとつの物語を発表したらみんなが驚いて空気が悪くなり、慌てて逃げたら、私が考えた物語の世界が目の前に再現されたという物語をつくってみたのだった。

 そして私の発表を聞き終えた先生とサークルメンバーの反応を伺ったが...…。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A旅野そよかぜ

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 1157/1000
#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#つくってみた

この記事が参加している募集

スキしてみて

つくってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?