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単調な道


「絶景という風景にふさわしい」おいらは思わず唸った。レンタカーを数日チャーターした甲斐があったと喜ぶ。
 おいらは、広大な大地を走るという体験をしたのだ。しかしそのような感動は最初の数時間ほどの気持ちに過ぎなかった。

 だって同じような風景が、続くことが多い。つまり飽きて来たのだ。それ以上に、一直線の道が多い。だから短調な時間を費やしているものだと途中で、嘆きの気持ちをもちつつあった。

 一直線のの道。本当は非常に走りやすい。でも何もなかったように見える。本当はそんなはずはない。だけど繰り返し続く風景は、まるで先に進んでおらず、あたかも同じところを迷いながら閉じ込められているかのよう。

 短調な道は退屈だけなら、まだ良い。そして一交通機関の乗客として、その風景を呆然と眺めていられる立場であっても同じである。
 でも今のおいらポジションは違った。借りた車を操作するドライバー。それは油断が許されない。短調な道はより厳しい危険と隣あわせ。
 徐々に迫りくる、恐ろしいもの。睡魔が襲う。それに負けると命に関わる。この大地では、常にそんな状態だから、短調な道には抵抗があるのだ。

 そしてむしろ不快に感じたこともある。牧草地が広がるある牧場の前に来たとき。天然の芝を優雅に過ごす、ジャージー牛が運転席から見える。だが牧歌的なそのイメージとはかけ離れた世界。独自の異臭が、車の窓の中から入り込む。そして車内がしばらく臭いのだ。

 そんな途中での疲労もあるときに、一気に吹っ飛んだ。それはホテルに着いたとき。「ああ、酒が飲める」と、おいらは思わず顔が緩んだ。飲むものはビールからスタート。それにしても不思議だ。道を走るとき違い、単調に見えがちなはずなのに、同じものを飲んでいる。
 さらにである。その日の道のりが、短調であっても、なぜか思い出になれば、不思議と楽しい。そして記憶から呼び覚ますと、懐かしく感じて仕方がない。

 おいらは、この旅を通じて、ふと思った。人間の性格は、実は単調なものに過ぎないのではと。ホテルの展望風呂で体の疲れを癒し、そして寛ぎながら頭の中から滲み出ていたのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 276

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