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レベルアップしたいこと 第1153話・4.22

「考えただけでも鳥肌が立つ」私自身にレベルアップがなされたのか、ある日を境に奇跡的なことが起こったようだ。私は仲間とは違う高機能な知能を得た。「私にこの知識がなければ、危うく大切な人を殺めかねなかったな」
 私はライオンである。人からは百獣の王と呼ばれ、猛獣の中の猛獣と呼ばれる存在だ。だがそれは人が勝手にそのように名付けたものだろう。本来の我々ライオンとしての行動は、ただ食欲の名のもとに、糧を得ているだけに過ぎない。その糧の得方が、いわゆる草食動物と違い、その動物を殺害して得るという手段である。これが人からすれば脅威と感じるようだ。

 ちなみに私は野生種ではない。物心がついた時からある人の家で住んでいる。いわゆるある家庭の「ペット」なのだ。
 私の主は周りからは変わりもの扱いを受けているような気がしている。その理由は広い意味での私の仲間ではあるが、私よりもはるかに小さな「猫」をペットや家族同様に生活する人は数多くいるだろう。だがライオンをペットにするような人はそう簡単には見つからない。
 私は主さんとはそのレベルまでのコンタクトを取ったことがないからわからないが、何ゆえ百獣の王といわれる私と一緒に生活するという道を歩んでいるのだろう。そればかりは私はわからない。

 だが主さんである人は、私に対する愛情を持っていることは、私は深く理解していた。主さんは笑顔で私が食する餌を与え、また私のボディーを撫でてくれる。主さんはいったいどこで学んだのかはわからないが、その撫で方がうまく、私はいつも非常に心地よい思いをした。だから私も主さんに対しては愛情のようなものを持っている。

 だがある日、主さんへのお礼をしようとしたときのことだ。私が主さんに急いで近づいた時に、主さんが驚いた表情をしたかと思うと、慌てて私から離れてしまった。主さんが非常におびえた表情をしていることを覚えている。それは私が今のようにレベルアップして知能を得たから理解したことだったが、当時の私は意味がわからなく苦悩したのだ。
「なぜ、なぜ主さんは私を避けている?私のことが嫌いになったということなのだろうか?それとも私が主さんに嫌われるようなことをしてしまったのか?だけど何もしていない。私はただ主さんへの愛情のために近づいただけなのに...…」

 だけど、主さんが私のことを嫌っていない理由はわかったのは、私が睡魔に襲われ夢と現実のはざまの意識の中いた時だ。突然私をやさしく撫でてくれた。私は心地よく、そのまま夢を見て、主さんと遊んでいるシーンが頭の中に浮かんでくる。そして目覚めたとき、目の前にいたのはあの恐怖におびえた主さんではなく、今まで通り優しく私に対する愛情を注いでくれる主さんに戻っていたことだ。

 私は主さんに嫌われていないことを理解したが、主さんが私を見ておびえた表情をするような行為を慎もうと思った。だがなぜあの時、主さんがおびえたのだろう。私はそのことの真の意味を知りたいと、常に頭をひねって考えていた。実はそれが結果的に私自身の知能がレベルアップすることにつながったのだ。

 ある日私は、突然大きな眠りから目覚めたような不思議な錯覚を味わった。そのときである、私は今まで理解できなかったことが急に理解できる。  
 気が付いたら私は、人が作ったであろう看板に書かれている文字の意味がわかるようになっていたのだ。
 さらにこれは不完全だが、主さんが他の人と会話をしている内容すらも理解できるようになっていた。

 その時だ、あの日、主さんがおびえた本当の理由を知ったのは!

 私が住んでいる場所のすぐ近くにはテレビがある。主さんはそのテレビを見ながら嬉しそうな表情をしたり、悲しそうな表情をしたりしていた。レベルアップする前の私にはまったく理解できない。いったいなぜその箱のようなところの画面に映っている動画を見て主さんが様々な表情を見せているのか理解できなかった。

 だがレベルアップし、知能が飛躍的に上がり、人の言葉がわずかながら理解できるようになると、テレビの内容も必然的にわかるようになる。そんなある日、主さんの斜め後ろでテレビを見ていたが、その時に衝撃的な映像が流れた。それはクマを飼育していた人がいて、生まれたてのときから飼育している人と共に生活していたというよう内容である。まさしく私の置かれている環境に近い。ところがある日クマが突然主さんを襲い、主さんを致命的な大けがを負わせてしまったというのだ。主さんは意識不明の重体で救急車に運ばれたが、残されたクマは警察官により射殺されてしまう。

「これは!」私はその時なぜ主さんがおびえたのかその理由を理解した。私は百獣の王であり、猛獣の中の猛獣である。私が物心をついたばかりの小さな子どもであれば、主さんのほうが力があり問題ない。
 だが私が成長すると、何時しか体力で主さんを越えてしまう。こればかりはライオンという生命体の宿命としか言いようがない。そして今の私は、もはや主さんの手におえないほどスピードや力において上回っている。
 私はただ主さんへの愛情から主さんを見つけて猛スピードで近づいたが、あれは主さんからすれば、私が主さんを餌と思って襲ってきたと思われたのだろう。

 これは考えただけでも鳥肌が立つようなこと。不本意だがそれが現実なのだ。私は以前よりレベルアップしたが、人と会話がコンタクトできるほどの知力までは持っていない。今は私が本気を出さずに大人しくし続けることが主さんとの幸せを享受し続ける唯一の方法なのだ。
「いつか、さらにレベルアップすることができれば」私はその人が来ることを待つことにした。

 私がレベルアップしたいこと、それはつまり人と対等にコンタクトが取れるレベルにまで知能が上がることだ。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1153/1000
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