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線路を歩くよどこまでも 第740話・2.2

「まだまだ歩くわ。線路は続くよどこまでもよ」異国にひとり旅をしているツインテール姿のバックパッカーの女性は、線路を歩いていた。
 実は2年半前に日本を出てから大陸に来て、いろんな国を放浪しながら旅をしている。ある意味旅のプロフェッショナルと言えるのだろう。

 だから一般的な旅をしてもつまらないと感じ始めていたのが、昨日の朝のこと。「今日は急ぐわよ」いつもならゆっくりと起きるのに、町を去ろうと思うと早く起きる。あわただしく身支度を整え、宿の人にあいさつをすると慌てるように宿を出た。次どこかに移動しようと考えていたが、どこにいくかまでは考えていない。
 女が町を歩いていると目の前に踏み切りがある。「そうねこの街まで鉄道できたもん」女はそれを思いながら踏切を渡った。そのときふと「これ歩いてみたら面白いかな」と女は思った。

 日本ならすぐに問題が起きそうだが、ここは異国の途上国。だからあまりそういうことにうるさくないようで、列車が通らないと近所の子供たちが遊び場にしてしまうほど。ここで女は踏切を越えずに線路沿いに進路をとった。反対側にはステーションの建物が見えたからその逆方向。

「この風景は来る時見ていない。だからもっと先に行けるのね」女は気軽に線路を歩く。線路は単線で電化もされていない。あるのは線路と枕木だけ。そのうえこの線路には列車は1日数本しか走らない。だったら線路沿いに歩いても面白そうと女は考えたのだ。

「下手な道を歩くより線路を歩けば、迷わずに先に進めるわ」女はそう思いながら、ひたすら枕木を左右の足で越えていく。1時間、2時間と時間が過ぎていくと、当然列車が姿を見せる。だがディーゼルの列車の速度は遅い。「来たわ」女はすぐに、線路から離れ、列車が通り過ぎるのを待つ。線路の左右には草が生い茂っているから。そこに隠れて列車が過ぎるのを待つ。列車が過ぎれば、また線路に戻って歩く。この繰り返し。食べ物は非常食を1週間分持っているし、トイレを草むらの中でも特に生い茂っているところでするから平気だという、本物のつわものだ。背負っているバックの中には寝袋もある。実際に昨夜も線路近くの草むらの中で、一晩明かした。

「ふん、砂漠やジャングル、高い山を歩いた時と比べれば、平気平気、勾配もそんなにないし。数時間歩けば、売店があるの。食料や水も容易に手に入るのね。もっとシビヤなことを期待してたけど、むしろ拍子抜けね」と余裕たっぷりとした女の表情。でも、いくらサバイバルにたけていても飽きることには弱いようだ。いい加減この線路を歩くことが、つまらなくなっていた。
「次に大きな町があったら、そこで線路歩きをいったんやめようかしらね」

ーーーーーー

 それから歩くこと数時間、そろそろ太陽が沈もうとしているのか、空がオレンジ色に染まってきた。
「さて、もうすぐ夜か。となると寝る場所を確保しなきゃね」と女が思っていたら、遠くに駅の建物が見える。
「そうか、そういえば家が増えてきているわ。それにここ、鉄橋」女は下が道路になっていた鉄橋でも平気で歩く。もしここで列車が来たらひとたまりもない。だが女は川の鉄橋も含め、列車が来る前に鉄橋を乗り越えている。

 やがて別のところから線路が見えてきた。この線路と合流するようだ。「あっちの方向も明日行ってもいいかしら。でも、もういいかもね」
 ちなみに女が見つけた駅は、おそらく15駅目のようだ。
「さて、と、あれ?」女は駅に来て目を疑った。見たことのある駅。そう線路を歩くことを始める前に降りた駅そっくり。「あ、名前も同じ。ってことは」女は駅を過ぎて少し線路を歩く。そして確信した。「これ実は環状線で、私一周したのか」

 あえてスマホなどの電源を入れずに、旅をしていたから今自分がどこを歩いているのかわかっていなかった。なぜならば、その方が旅のだいご味が味わえるから。
「ということは、もう一度今夜はあの宿ね。戻ってきたらびっくりするかしら」

 女は昨日の朝まで滞在していた宿に向かう。そして到着すると「部屋開いていますか?」と現地語で話す。宿の人が現れる。「驚くかな」と女は思った。確かに一瞬驚いた表情をしたが、それ以上に笑顔になる。
「あれ、不思議、そうか戻ってきたからね」と、思っていたら、違っていた。後ろから持ってきたものがある。
「え、あ、わ、忘れ物!」女はこの宿で忘れ物をしていたことに、今まで気づいていなかった。

「すごい!もし環状線じゃなかったら忘れ物取りに来れなかった!」女はそういって喜ぶ。忘れたものは帽子。女はツインテールの髪に帽子をかぶり、3日前と同じ部屋に入るのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 740/1000

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