見出し画像

赤いバッグ 第733話・1.26

「ヒナタ、ちょっとまって」「アカリ何よ?」ヒナタが立ち止まり後ろを向くと、後から歩いていた親友のアカリは、赤いバッグを手にしていた。「これあなたのでしょう」手に持っていたバックは、確かに先ほどまでヒナタがもっていたもの。しかし、ヒナタは首を横に振った。
「確かにそれは私のバッグだったわ」「だから、はい!」アカリがヒナタにバッグを差し出すが、ヒナタは受け取るのを拒否。
「なんで?なんで受け取らないの」「だから言ったでしょう。私のバッグだった。つまり過去形よ」「か、過去形って、今は違うってこと!」アカリの声が大きく、攻撃的になる。対照的にヒナタのトーンは低め。

「そうよ、今はもうそれ、私のではないわ。厳密にいえば、所有権を放棄したと言ったらいいのかしらね」とクールな視線をアカリにぶつけた。
「つまり、もういらないから捨てたってことかしら」アカリの質問に、軽く口元を緩め白い歯を見せるヒナタ。
「これ結構したんじゃないの」「たしかに、一応ブランドものかしらね」「ええ、もったいないわ!」「でも、見つけて手に入れたときに得た感動が、もう今の私には残ってないの。だからもうそのバッグは私にとっては不用品よ」「それだったら、売ったら? ネットオークションとかで」アカリは詰め寄るような訴えるように声を出すが、ヒナタは利き手から人差し指を立てると左右に振った。

「オークション、面倒ね。もうその必要もないわ。あなたが欲しければどうぞ、差し上げるわ」そういうとヒナタは前を向き歩き始めた。アカリは、バッグを見る「ちょっと、ねえ。そしたら中身は何も?」
ヒナタは歩くのを止めると「当り前よ。よく見てごらんなさい。私が必要なものは何も入ってないわ。そのバッグをどうするかはアカリに任せる。私、この後用事があるから、じゃあね」
 ヒナタはヒールの靴の音を鳴らしながらそのまま立ち去って行った。

「ヒナタのおさがりか。それはどうかしらね。まあ、いいわ。好きにしてよいというのなら、一時的に預かってそれこそ私がネットオークションに出すか、誰かに差し上げるかしましょうかね」
 アカリはため息をつくと、ヒナタのものだったバッグを家に持ち帰った。

ーーーーーーーーーーー

「さてと」家に帰ったアカリは、ヒナタのものだったバッグの中身を確かめる。「大丈夫ね、財布もカードもそういうのは言ってないね」と一通り確認すると、一枚のカード上のものが入っていた。「なにこれ」アカリが見ると、左上に日付と都市の名前が書いてありその下に「レース」の文字、真ん中には「単勝」と書いてありその横にカタカナの名前のようなもの。さらにその横には100円という金額名がある。

「これは何?」アカリは気になって調べると、これは勝馬投票券という言われていものと分かった。つまり競馬の馬券である。
「ヒナタ競馬してたの?」アカリはヒナタの意外な趣味に驚いた。「これ、でも、もう終わっているわね。当たっているのか調べてみようかな」
 アカリは、ヒナタがバッグに忘れていた馬券のレースを調べた。そして目を大きく見開く。その馬券は当たっていて、それも配当が22200円という万馬券。
「いいのかしらこれ?確か『私が必要なものは』って言ってたから、これいらないとも思えるし」
アカリはヒナタに言うべきか勝手に払い戻しに行くかしばらく悩むのだった。


https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 733/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#赤いバッグ
#親友
#馬券
#眠れない夜に

この記事が参加している募集

#スキしてみて

524,761件

#眠れない夜に

69,099件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?