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 ぶどう酒を呑みたい 第822話・4.25

「うーん」私はワイングラスに入った赤い液体を口に含んだ。ブドウの香が鼻に通じる。口の中に広がるブドウの香り、口の中にある下に感じるブドウの甘い味覚、やがてその液体はのどを通じて胃に流れていく。そののど越しも良い。
「これはおいしい。でも私の望んでいる物とは違うのよね」
 私は液体をすべて飲み干しグラスを置いた。飲み干したものはぶどうジュース。

「気分だけでもぶどう酒のと思ったけど、しょせんはジュースね」
 私は大のワイン好き。ワインなら赤でも白でも、ロゼでも、スパークリングでも基本的には問題ない。だけどぶどうチューハイとかはダメ。つまりワイン以外のアルコールが苦手なの。

 いま私は急にワインが恋しくなったの。それは今、私が主体的にかかわっているプロジェクトの仕事が忙しくて朝から夜遅くまで仕事三昧。帰ってきたらすぐ寝てしまう。それでもここが自宅ならいつもワインを常備しているから、寝る前に味わうこともできるでしょう。
 
 ところがそうではなく、今は会社内で缶詰め状態のプロジェクト。考えてみたら自宅には10日以上帰っていない。
「最近ワイン飲んでないわね」ここはホテルじゃなくて会社の上層階にある社員寮の空き部屋を借りている状態。残業で仕事が遅くて日付が変わるくらいだから、結局建物内での往復ね。
 そのうえタチが悪いのは会社があるのは、町から少し離れているの。本当に何も内容ところ、スーパーとかも離れていてるから、夜になったら何もなくて外に出ようと思えない。
「コンビニすらもないんだから」と、思わず愚痴たくなるわ。ただコンビニの代わりといってはなんだけど、会社内には売店がある。そこにはアルコールはないけど、ジュースは売っていた。そう、ぶどうジュースもね。

「あれ、なんで、これがあるの?」ここで私が無性にぶどう酒を呑みたいと思った理由を説明するわ。なぜか今、寝泊まりしている寮の部屋にあったのよ。ワイングラスが。「前の入居者が忘れたの??」
「なら、気分だけでも楽しめそうだし、やってみよう」と、今日売店でぶどうジュースを買ってきたというわけ。だけど無理無理、ジュースは逆立ちしてもしょせん酒にはならないわ。

「アルコールがないから酔えないのは確か。せめてぶどう酒ならでは、味わいだけでも感じられたら」まだ、ぶどうジュースは半分残っている。
「暗示とかやってみようかしら」私は考えてみた。そこでグラスにぶどうジュースを注ぐ。それから私は目をつぶった。そして心の中で静かに念じた「目の前にあるのはワイン、赤ワイン、そう、ぶどう酒よ」

 これを10回ほど繰り返して念じたかな。それから目を開けて飲んでみた。そしたら「あれ、これってぶどう酒」って気が本当にしたの。でもやっぱりぶどうジュースよね。ぶどう酒ならここで2杯も飲み干したらちょっとほろ酔い気分になるけど、ジュースだとそれはない。いくら自己暗示をしても、そうならなかった。
「残念ね」私はため息をついたけど、仕事で疲れてたからすぐ眠れたわ。

ーーーーーーーー

「さ、久しぶりね」あれからさらに10日、私はようやくプロジェクトの仕事が一段落したので、久しぶりに自宅に戻ってきた。
「やっぱり自宅の空気はいいわね」明日は久しぶりの完全オフ。いえ、明日だけではなくて、プロジェクトの仕事がピークの間、ずっと休日出勤してたから、その代休をまとめて数日取れるの。となれば、やはりぶどう酒を呑まないといけないわ。

「うーん、コルクを抜くのっていいわね。ジュースとは違う。ああ、この香り、これよ」私はワイングラスにぶどう酒を入れる。なみなみと注がれたぶどう酒を見るだけで早くも酔った気分になった。
「久しぶりに頂きまーす」誰も聞いていないのに独り言をつぶやいて口に含む。そして飲んだ。「あれ?」私の舌がおかしい。「味がぶどうジュース?あれれ」
 私は確認してみた。でも確かにボトルの裏を見ると品名に「果実酒」と、書いているし、しっかりアルコール度数まで表記していた。
「でも味が、ぶどう酒みたいにあっさりしている。あれ?」
 私は、再びワイングラスにぶどう酒を注ぐ。「まてよ、暗示する。いや、これってぶどう酒よね。なんで本物の酒にそんなことするわけ」
 と思ったけど、やっぱりやってみた。

 私は目をつぶった。そして心の中で念じた「目の前にあるのワイン、赤ワイン、そうぶどう酒よ」と10回ほど繰り返す。
 それから目を開けて飲んでみた。確かにこれはぶどう酒の味。だけど私、一気に飲んじゃった。だからかしら、いきなり2杯飲んだから急に目の前がぼやけてしまったの。
「ふわぁとする。ああこれは間違いなくぶどう酒だ」私はそう実感したけどその日は、急に眠くなってそのまま寝ちゃうのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 822/1000

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