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女性とのすれ違い 第783話・3.17

「うん?あそこに誰かいるのか」俺は地下道を歩いていた。長い地下道は人のいるような場所ではないが、俺はそもそも沿いう場所を好む人種だ。この日も、誰も歩かないような延々と続く地下道を歩いていたが、遠くから突然人影が見えた。

「こんなところに人がいるのとはいったい。念のために」俺は警戒態勢を引き、全身が力んだ。このようなところでまさか人がいる。それも全く動いていない。まだ相当な距離があるが、俺の見立てでは、その人物は壁に背中を持たれるような体制で立ったまま動かないのだ。「こんなところで人を待つ...…。それはありえない。もしや」

 俺は歩きながら短時間でいろいろな可能性を考えた。まずは俺に対して敵か味方かということである。俺は特に特定の組織に属しはいない。だからいきなり恨まれて命が狙われることはないはず。だが、それとは限らない。それは俺に対して直接的な敵対関係でない場合でも。ある第三者が絡んでいて、結果的にその三者が俺に対して敵意を持っているとしたら、俺の命の保証はない。逆恨みの可能性もある。

 俺は歩きながらさらに考えていた。考えながらも歩くのでその存在からは少しずつ近づいている。ここで俺はある特徴がわかった、見た目であるがどうも女性のような気がした。だが俺は女性とわかるとより警戒した。女性の殺し屋の方が相手が異性と思って警戒を解く。
 その一瞬のスキが命取り。俺はあえて気づかぬふりをして歩く。だが先ほどと比べて歩く速度を半分の速度に抑えている。少しでもこの目の前で待ち構えている存在が何者であるか、そして何の目的があってそこにいるのか、俺が明確に確認するまでは...…。

 次に俺が考えた可能性として、俺の味方というのがある。だが俺を味方と思うような存在が今までにいただろうか?俺は常に一匹狼。単独で行動をとるタイプだ。ま、仮に先ほど同様に第三者が絡んだ場合、俺の知らない間に味方がいてもおかしくはない。だがこれに関しては別に頭の中で整理する必要はないだろう。なぜならば味方であれば、俺があれこれ考える必要がないからだ。

 俺はさらに歩く、女性は立ったまま動かない。まるで人形ではないかと思うくらい。「もしや」俺は次の可能性としてこの女性は人形もしくは絶命しているのではと考え始めた。前者であればなぜこれがこんなところにあるというのだ。
  
 実は3日前にもこの地下道を歩いている。その時には壁伝いに人形はない。「もしや人形型の時限爆弾ではないか?」となれば、俺は走らなければならない。いや止まった方が得策か。今は知ったとしてもおそらく俺が最接近したころに爆発してしまうかもしれない。


 今からその距離までは30メートル。俺は引き返すことも考えた。だがそれが本当に正しいのか。そもそも時限爆弾であるという証拠がない。もし時限爆弾であれば、ドラマや映画のシーンでありがちな時計の秒針が刻む音がするはずだ。現時点でこの地下道で俺の靴から発する音以外何も聞こえない。俺は足を止める。だが秒針の刻む音は聞こえなかった。
「さすがにそれはないな」ここで俺はわざと腕時計を見た。これはこの時点でもし相手が、すでに俺のことを気づいていたときに、突然足を止めたことで、俺が警戒しているというのを相手に悟られないための策であった。

 もはや純粋な味方でもない限り、俺はこの存在と最接近したときの対策を練らなければならない。俺は手で帽子を押さえ前傾姿勢になった。いよいよ女性が近づいてきた。もう10メートルほどだろうか。相変わらず女性に動きはない。「死んでいるのか」もしそうだとすれば、俺は別のことで頭を悩ませるだろう。死んでいるかどうか確認したいが、安易に女性に触れば指紋が残り、俺が殺したと疑われる。かといって死体を放置してそのまま通り過ぎるのが正しいか?頭の中であれこれ考えながら、俺はいよいよ女性に近づいた。
「横隔膜は動いているだろうか?」俺は帽子を手に置きながらも視線を女性の胸からおなかのあたりにかけて照準を絞った。いよいよ女性と最接近。俺は最大限の緊張が走った。何か仕掛けてくるかそれとも...…。

 俺はついに女性の前を通り過ぎた。最大限の緊張の瞬間である。だが、やはり女性は動かないし、横隔膜が動いているかどうかもわからない。俺はそのまま何事もないように歩いた。今度は先ほどと違い歩速が早い。足を少しずつ速めながら俺は背中に緊張が走る。このまま走る方が得策か、いや逆に何もしない方が安全か。
 同時に俺は振り返ってみたかった。女性がどう出るのか。もしくは何もしないかということについてである。だがそれはしないままひたすら歩いた。果たして女性との距離がもう50メートルくらいになっただろうか?振り返るべきか否か。俺は悩みながらもようやく振り返ってみることにした。
「一瞬だ。一瞬だけだ」俺は心中で叫びながら緊張が走る。そしてついに振り返った。そのとき俺が見えたのは...…。


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シリーズ 日々掌編短編小説 783/1000

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