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人間として 第728話・1.21

「もうすこしで完成だ。フフフ、この瞬間を待っていたんだ」地球上では、エイリアンと呼ばれている地球外生命体は、地球人つまり人間の形になるまでの最後の段階に来ていた。

 この生命体は、いわゆるアメーバー状の形をしていて渦を巻いているのが特徴。そして自由な形に変身できる。そこでこの生命体は地球人、つまり人間の形に変身しようとしているのだ。

 名もなきこの生命体は、遥か彼方の星からやってきた。それも自らの意思でやってきたのではない。あるとき生命体は自分の住む星でもひときわ高い山の上にいた。「頂上まで来たぜ、やったー」と喜ぶ生命体。ところが、その瞬間、大地が大地震に見舞われた。星の単位での衝撃が走る。どうやら生命体のいた場所のちょうど反対側にそこそこ大きな隕石が激突したらしい。その衝撃により、生命体のいた山の頂上付近が、押し出されるように地上から上昇、そのままロケットのように星を抜け出し、隕石として遠くに飛んでしまったのだ。

「ええ!どうなるのだ?」生命体は何もできないので、苦肉の策として冬眠状態となった。彼らの生命体はいったん冬眠状態となれば、寿命の更新が止まる。つまりその状態であれば、何千、何万年と生命を維持できた。そして呼吸や食事をとる必要もないので、宇宙空間を長期にわたって浮遊しても影響ないのだ。

 こうしてどのくらいの期間が過ぎたかわからない。ところが突然つかまっていたそれまで冷えていた隕石が、急に熱を帯びたかと思えば、強い力で引っ張られる。「うん?」ここで長い冬眠から生命体が目覚めたとき、直後に強力な衝撃が走った。「な、何?」
 どうやらある岩に衝突したらしい。生命体の星は出たときには、半径数十メートルはあったが、このときは半径数メートルにも満たない。そのためか衝撃は思ったほど強くなかった。
「ここは......」生命体はどこかの星に不時着したことはわかったが、ここはどこかわからない。答えを明かせば生命体がつかんでいた隕石が、地球の大気圏に突入し、そのまま地上に落下したのだ。

 これが前世紀であれば「宇宙から飛んできた謎の生命体が、地球を滅ぼしに来た」ということになるのだろう。だがこの生命体はそんな意思はない。というよりもこの後どうするか戸惑うばかり。
「これは食えるな」いつの間にか地球上にいる小さな虫を捕まえて、食べる生命体。そしてアメーバーの状態で移動しているうちに、あることに気づいた。

「そうか、あの生命体がこの星の主のようだ」生命体は人間を数日間観察して得た結論。そして「あの形に変身すれば、この星で生きていられる」と考えた。この生命体は身体はアメーバー状であるが、知的能力は高い。自由に変身できる能力を持つことから、記憶力は抜群で、遠くから人間の様子を見ながら、その形をインプット。そして自らの記憶上に情報を蓄積した。

「よし、やってみよう」ある満月の夜、生命体はついに決断した。今までは人間に分からないように陰に隠れて生活していたが、人間になることでその必要はない。そして記憶をよみがえらせながら、アメーバー状の体をどんどん変化させていく。

 まずは足からスタートさせ、次に両手を作る。もちろん指は5本あることも理解しているから忠実に再現。指に爪があることを忘れていない。ただ実際に触れていないために。肌や爪の固さは想像の範囲で行った。

 こうして生命体が変身を続けると、驚いたことに横たわった人がいるように見える。裸ではあるが、おなかを抑えて足を少し曲げた状態。見え方によっては寝ているのか、おなかが痛くて苦しんでいるのか、いずれかの姿に見えるのだろう。やがて首から上もでき始めた。顔が形成されている中で、口が作られ鼻、そして目もできてきた。残るは頭のみ。この時点では頭の部分が生命体本来の渦巻きのアメーバー状で残っている。もしここで人が見たら、脳みそが破裂して倒れている人に見えるのかもしれない。

「あと少し」残る頭の部分を丁寧に変身させていく。この光景は、本来頭を形成しているが、見た目はその逆。生命体本来の形である渦巻きが、人間の頭にどんどん吸い込まれるように小さくなっていくのだ。そしていよいよ点のように小さくなり、完全に渦巻きは消滅。そこにいるのは、横たわっている地球人そのものである。

 生命体は目を開けた。「よし、できた見事だ。これでおいらも、ここに住んでいるNingenとして扱われる、ふうこれで昼間堂々と動けるな」生命体はそう喜んだ。

 だがいくら形が人間そのものに整っても、問題はまだ山積みだ。まずはコミュニケーション。言語が通じるかどうか、あるいは地球人の文化をどの程度この生命体は享受できるのか? 
 いやいやそれ以前の問題があった。まずは服を着ることである。今のままの裸の状態では行動できない。していたら警察に捕まってしまうだろう。ではどうやって人間の衣服を調達するのか?そしてその衣服の正しい着方とはどうするのか?? 

 地球外生命体は、実は難問が山積みであることに気づかず、ただ喜んでいるのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 728/1000

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