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赤子転生 第761話・2.23

「ここは?」意識を回復した俺は、今どこにいるのかわかない。相当長く眠っていたのかもしれないが、あの激しい戦い。危険が付きまとう状況からこうやって安全なところまで来たようなのだ。
「しかしずいぶん久しぶりだな。このような柔らかい布団の上で寝るのは」

 俺が傭兵として外国人部隊に配属され、ある国との戦いに出たが、敵の部隊により仲間の多くを失った。生き残ったメンバーはそのままジャングルの中を駆け巡る。その数は10名もいなかった。
「あれは本当に地獄だったな。それと比べれば、なんと快適なところなんだ。いったい誰が助けてくれたというのだろう」

 俺は快適が良すぎる今の空間に浸っていると、ついつい眠くなる。思わず大きなあくびをした。「う、あくびとはなんとした油断。こんなゆっくりと過ごして本当にいいのか、助けてくれた人に礼を言わなければならないな」と俺は思ったが、また眠くなり、意識がもうろうとする。もうろうとした中で思い出すのは、ジャングルでの過酷な日々。

「だめだ、もうこいつは」逃げた兵士たちは行き先もわからず、暫くジャングルで過ごしたが、ここは摂氏40度近くにまで温度が上昇する。灼熱のジャングル、いわゆる熱中症のような状態で倒れたもの、あるいは誤って毒蛇にか余れて絶命したものが相次いだ。ひとり、またひとりと死んでいく。気が付けば俺と後ひとりの男だけとなっていた。

「おい、どうした!」「す、すみません、急にめまいが」ところがそのひとりもついに、歩いていたころをふらつくとその場でうずくまった。俺は嫌な予感がした。そしてその予感は見事に的中してしまう。その男はそのまま意識を失うと、やがて呼吸が止まった。
「何たること。あとは俺だけか」俺はすぐに倒れた兵の水筒を調べ、水が入っているのを確認すると俺はそれをもらい、水を一気に飲み干した。ジャングルの灼熱で味わう水、ぬるくはなっているがそれでも十分だった。
 こうしてついにひとりだけとなりった俺であったが、幸いなことに近くに洞窟を見つける。「ここで、留まるしかないな」俺は数日ぶりに洞窟の中にはいると、これまでと違った比較的安全な夜を過ごせた。

「うーんいつの間に寝ていたんだ。こんな緊張感のない起き方ができるとは」俺はジャングルでの体験を頭の中に浮かべつつも、混濁した意識を心地よく味わっている。ジャングルのことは過去のこと。今はもう安全な場所に来ているようだから全く警戒感が低下していた。
「とりあえず起き上がろう」俺は起き上がろうとした。とにかく俺を助けてくれた人に礼を言わなければならない。
「うん、ち、力が」俺はこのとき初めて異変に気付いた。力が入らない。起き上がって座ろうにも座れないのだ。「力が入らない、まさか」俺はこのとき敵に、捕らわれたのではという気がした。
「もしやしびれ薬か睡眠薬のようなものを飲まされて、クソ、でも、う」

 俺は体を起こすことはもちろん。寝返りすら打てない自分にいら立った。かろうじて手と足は動くようだ。それをバタつかせるのが精いっぱい。さらにバタつかせた手が偶然俺の視線に入った。「何!」俺は驚いた。手が退化しているのか非常に小さく丸まっている。爪があるような内容な状態。まるで赤子のようになっているではないか。

「いったい、これはどうなっているんだ」俺はジャングルの中にある洞窟にいたときを思い出す。「確かここに来る前は......」

 ある日の朝、いつものように洞窟を出た俺は獲物を探しに行った。洞窟を見つけてから1か月。俺はもうこのジャングルの住人になっている。どこに水場があり、どこに獲物になりそうなものがいるのかわかっていた。俺より先に倒れた仲間から次々と残っていた銃弾を抜き取っていたので、まだ獲物を撃ち殺すだけの銃弾が残っている。今日も銃弾を詰めた銃を片手に、獲物がいるスポットに近づく。ところがここで俺がミスを犯した。獲物に気をとられているうちに、足を滑らせてしまったのだ。
「あ、ああああ」俺は滑らせたところが崖となっており、そのまま体が下に滑り落ちる。「し、しまったあ」すでに手遅れ、俺は谷底に落ちてしまった。大木に背中がぶつかり、そこで止まったが、ほとんど日の入らない、鬱蒼とした場所。すでにここに転げ落ちるまでのダメージがひどく、全身打撲の状況であり、少しでも体を動かすと激痛が走る。

「い、痛い!」俺は痛いものの、顔が濡れているように感じたので、それをぬぐおうと手を顔に置いた。「こ、これは」俺は手でぬれていた顔を触り、手を見たときにがくぜんとした。手が真っ赤に染まり血まみれになっている。
 俺はしばらく唖然としたが、ここで不思議と記憶が薄らいでいくのが分かった。「あんなに眠ったのに、あああああ」こうして記憶が無くなった。こうして次に意識を回復したときがこの場所だ。

「少なくとも俺は助けられたのだろう。それで全身の傷は、治っている。でも、俺をこのように動けなくしている理由はなんだ。人体実験か?俺をどうしようっていうんだ」「ここはどこだ俺をどうする!」俺は思わず大声を出した。すると鳴き声のような声がでた。「声が出ない?まさか声帯をやられたか!」俺は一瞬そう思ったが、手がそこまでいかず、声帯の部分の確認のしようがない。そもそもやられたとしてそれはジャングルで足を滑らせたときのものなのか、その後ここに連れてこられたときに意図的にやられたのかそれすらもわからない。だが、しばらくして俺は気づいた。声が出るということは声帯はやられていないはず。
「声が出ているが言語化できない。いったいどういうことか」そんなことを思っていると、急に用を足したくなった。しまった、トイレはどこだ。俺は体を起こしてトイレを探そうとしたが、体は思うように動かない。すると急に強力な尿意を感じたかと思うと、そのまま漏らしてしまった。

「やってしまった」俺は、いつ以来かも思い出せないほど久しぶりにお漏らしをしてしまったようだ。だが俺の下半身につけられているものが吸収性が高いのか、尿を漏らしたことによる違和感はほとんど感じない。

ここで急にドアが開く音がした、俺は身構えた。と言ってもそれは意識上の話。ドアからは俺よりも1.5倍以上はあろうかと思われるふたりの男女。見た目はとても研究者や軍属とは思えない。どうみても民間人のようだ。
「あ、私たちの赤ちゃんが起きている!」「本当だしっかり目をあいているな」

「私たちの赤ちゃん!」俺はようやく気づく。つまりすでにジャングルでのことは前世の記憶だった。「そういうことか」俺は谷底で意識を失い死んだ。次に意識を持ったときには、転生して目の前にいる巨大な人の子供になっていたということ。
 俺は親の目を見て手で拳を作るポーズと取った。うまく拳は握れなかったが気合を入れたポーズはとったつもりだ。
 ここで「お前たちが、俺の親というわけだな。今後ともお見知りおきを!」と、言ったつもりだが、声としては笑い声にしかならない。だがそのふたりはそれを見て嬉しそうに笑う。

「赤ちゃんとはこういうものなんだな」俺は、新しい人生を生きる決断をした。


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シリーズ 日々掌編短編小説 761/1000

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