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魔法少女「彩花」2「脱出」

こちら の続きです。

「あれここは?」魔法少女の彩花は目を覚ますと、見たこともない風景。壁も床もそして天井もすべて白一面の空間にいた。

 彩花はかつて高校生の文化祭で演じた魔法少女の格好。高校生の頃の顔立ちで髪型はツインテールでピンクのリボンで結ばれている。口紅で塗られた唇も耳につけてい丸いイヤリング。さらにはボディーラインがわかり、ところどころに光るものがちりばめられている、そのワンピースもすべてピンク色だ。そしてスカートの部分はやけに広がっていて、ヒラヒラしたものがついている。下は白いタイツを履いてピンクのヒールを履いていた。

「意識が戻ったか」頭の中から彩花とともにいる声。
「まさかこの段階では、勝てる相手ではなかった」と続いた。「勝てる相手ではない?」「忘れたのか。お前の倍の背の高さのある巨人」
「あ!」彩花は何かを思い出した。普通の会社員だった彩花の前に現れた影。その影は彩花の中に突然憑依し彼女を魔法少女に変身させた。
 そしてそのまま連れてこられた犯罪都市ツルン。街の中で現れる敵を男の声の指示で魔法を駆使し次々と倒す。だが突然、それまでとは桁違いに強い敵と出くわした。

「教えてもらったあらゆる魔法を出しても全く反応なく、ただ笑っていたわ。その笑いが終わった瞬間。突然目の前が真っ暗に... ...」
「格が違いすぎたようだな。その巨人に連れさらわれて、この白い空間の中に閉じ込められたようだ」
「そこまで知っていて、途中であなたは助けてくれなかったの?」「無理だ。お前の肉体と一体化しないと力が出せない。気を失った状態では、何もできないんだ」
「役に立たないわね。どうするの!」不機嫌そうな彩花。

「もちろん脱出したいが、さてどうしたものか?」
「それにしても、ここ広いわね。とりあえず手掛かりがないか歩いてみるわ」
 彩花はそう言うと立ち上がり、とりあえず歩き始めた。どこまでも続く白い空間。あまりにも広く閉じ込められているような気がしない。
「一体どれだけ広いのかしら。でも他に方法がないし」どのくらい歩いたのだろうか? 突然頭の中の声。「おい、あの先だけ黒い点が見える」「え! あ、本当ね。行って見ましょう」

 彩花は点の方向に歩いていくと。それが徐々に大きくなり、穴になっているのがわかる。
「あ、ここだけ穴?でも後ろは」彩花が見たがその穴は、宙に浮かんでいるかのようにそこにだけあった。
「異空間の入り口かもしれない。むしろここがツルンとは異空間。穴には入れそうか」

「え、ここに入るの!」彩花は驚きの表情をするが、ほかに手立てはない。「よし、わかったやってみる」ここで両手を穴の部分に持つ。すると穴が広がった。
「あ、広がる。それなら入れそう」と言って両手で引っ張るように思いっきり穴をあけた。彩花が入れるくらいまで広がる。そしてそのまま中に入ると一転して薄暗い空間。しかし先ほどのただ広いだけの白い空間と違い、洞窟のようなところになっているようだ。

「出口があるかも」と彩花は歩いていく。
 すると「おい、そこの女?」と男の声がする。
「誰? やばい。見つかったかしら」「わからない。彩花とりあえず戦闘モードだ」

「おい、ワシはお前の敵では多分ない」「多分ないって?」彩花が首をかしげて声のする方向を見た。するとやがてシルエットが見え、黒い影が動いているのがわかる。上には銀色の帽子のようなものがついていた。

「おい、女。ワシはナポレと申すもの。数十年ここに閉じ込められている」「え。十数年」
「頼む、頭についている、帽子を取ってくれ」「帽子を取るの?」
「その帽子で、ワシの術が封じられているんだ。女、頼む取ってくれ」

「これってよくありそうなパターンな気がするけど」と一瞬彩花は考えた。
 だがすぐに「とってもいいけど女と呼ぶのはやめてくれる。わたしには彩花という名前があります」と語気を強めた。

「わ、わかった。彩花殿、取ってくれ」
 彩花は銀色の帽子に手をかけようとするが、突然手のひらに激痛が走る。

「え、あ、あち! なに高熱?」手を見ると手袋が破れていて、そこから見える手がやけどをしていた」
「おい、魔法を使え。まずこの前教えた回復の魔法で、その手を!」
「あ、はい」彩花は回復の魔法を自らの手にかけると、やけどは消え、元の綺麗な白手袋に戻る。
「ということは」彩花は左手のブレスレッドについている赤い突起物を押す。するとそこから無数に粉のようなものが出てくると、やがて杖になる。

「よし、それでは」と杖を影の上についている銀の帽子に向けた。
「シャット!」と呪文を唱えると光の粒子が帽子にぶつかる。しかしそれで何の効果もない。
「ならば クオット!」今度は青い炎が銀の帽子を襲う。だが同様に効果なし。
「ええ、どうしよう。あと使える魔法って」「ん?たしかナポレと言ってたな」とは頭の声。
「あ、あのう。あなたの名前ナポレさん」「そうだ。ちなみワシの祖先はフランス皇帝ナポレオンだ」
「... ...」彩花は突然、想像以上のことを言われ固まった。

「よし、思い出したぞ。ナポレに対してのみ有効な魔法がある。それを唱えろ」「ナポレ専用?」「詳しい話は後だ。『ナポレフレン!』と唱えてみろ」

「あ、あああ」彩花は杖を三たび帽子に向ける。そして「ナポレフレン!」と唱えると、杖からシルバー粒子。煙のように細かい粒子が帽子を襲う。そしてしばらく帽子の周りを漂っている。
「さっきとは少し違うけど、でも効果なさそう」困った表情でため息をつく彩花。

 ところが突然その部分が強力に光ったかと思うと、突然帽子が消滅した。そして次に地鳴りような音が続く。「うぉおおお!」ナポレの雄たけびが続くかと思うと、突然巨人が目の前に現れた。

「え、あの巨人より大きい」彩花はナポレの巨体を見て体の震えが止まらない。
「彩花殿ありがとう」巨人はしゃがみこみ彩花の目線で礼を言った。「え、ああああ、どういたしまして」
「どころで、ひとつ質問だが今日は何日だ?」「え、さ、さああ」彩花は首をかしげる。「彩花、今日は2月26日だ」と頭の声。
「あ、えっと2月26日だそうです」
「そうか、やっぱり!」ナポレは嬉しそうにに口元を緩める。

「2月26日は脱出の日。我が先祖ナポレオンがエルバ島に流刑されていたが、そこから脱出して再びパリで復位した。その脱出した日のことだ。うん、ご先祖様と同じ。うーん数十年ぶりに体がみなぎる。これだこれだ!」ナポレは再び大声で雄たけびを上げた。

「よし出るぞ。今からワシは指輪になる。それを空いている指につけてくれ」とナポレが言うと、突然目の前に霧のようなもの現れた。そしてナポレの姿が見えなくなる。

 数秒後に霧が晴れると、黄金の指輪が落ちていた。「彩花殿これを!」指輪からナポレの声がする。「あ、はい」彩花は指輪を拾って開いている指にはめた。
「出口はワシの術を駆使すればわかる。今からこの指輪から光が出るので、その方向に進んでくれ」指輪からナポレの声。すぐに指輪から光がでてくる。
「わ、わかったわ。ナポレさんの言うとおりに行きましょう」

 暗闇の洞窟は、ナポレの光によりずいぶん歩きやすくなっている。途中で穴が分かれていても、光が方向を示してくれるので安心だ。

 そしてついに遠くに白い点が見えてくるかと思えば、明らかに自然光。出口のようだ。
「やったぁ! 出られる」彩花は少し小走りに出口のほうに向かう。こうして出口に出ると、強力な日差しが彩花を襲う。「ま、眩しい!」

「お前よく出口がわかったな。あの時にとっとと始末すればよかったようだ」突然後ろから聞こえる声。
 彩花が少し慣れた目でその方向に視線を送ると、そう閉じ込められる前に全く歯が立たなかった巨人だ。巨人はそのとき同様に余裕の笑みを浮かべている。
「ああ、どうしよう逃げなければ」「無理だ。逃げてもすぐ捕まる」と頭の声。「彩花殿、ここはワシに」次は指輪からのナポレの声が聞こえた。

「ど、どうしたら」「指輪を敵のほうに向けなさい」
「あ、はい」彩花はナポレの指輪を巨人のほうに向ける。

 するとそこから光のようなものが浮き出てきて、その巨人よりもさらにでかいナポレの体が現れた。それを見てそれまでの笑みが無くなり、真顔になる巨人。

「う、こんな使いを出すとは... ...」巨人はファイティングポーズをとる。
 ところがナポレのほうに余裕の笑みが浮かんだ。そして彩花のほうに振りむくと「私を助けた恩人、彩花殿。私の力をお見せしましょう」とつぶやく。

 振り返ると、巨人が走ってナポレに迫る。しかしナポレは右手ひとつでその巨人をぶっ飛ばす。圧倒的な力の差である。
 巨人は顔色が変わった。しかしナポレはゆっくりと歩くと右手を巨人にかざすように向ける。そこから緑色の光が発せられた。瞬時にして巨人は黒焦げになってしまう。

「ああ、あああ」彩花は声が出ない。「終わりました。ではいきましょう」ナポレはそう言うと、その体が指輪の中に吸い込まれるように入って行った。
「おお、ナポレ。伝説の戦士が仲間に加わったぞ」頭の声がささやく。

「え、あ、な、仲間なの。すごい! よろしくお願いします」と彩花は指輪に挨拶をする。すると指輪はそれに反応したかのように一瞬光るのだった。


「画像で創作(2月分)」に、ハゲのタイタンさんが参加してくださいました

 カクテルの代表格に対して否定的な視点で味わうバーボンウイスキー。その琥珀色に夕日のオレンジを投影しながら口に含むと、蒸留酒の苦みと熟成されたコクのある旨味がします。頭の片隅から浮かんでは消えることを繰り返す喜怒哀楽の時間。そんな情景が味わえる詩は、まるでウイスキーのCMに登場しそうな、渋みある男性の雰囲気を感じ取りました。ぜひご覧ください。


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シリーズ 日々掌編短編小説 402/1000

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