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私のストレス解消法 第1151話・4.19

「結局2時間かけたのに...…」山田は2時間もかけて走っていた。これが山田にとってのストレス解消法だからだ。いつもなら30分も走れば気分転換ができて頭の中がリフレッシュする。だが今回は違った。2時間も走ったのにストレスが解消していないのだ。
「だめか、いつもの手が使えないとは」公園内に入った山田はまだ少し息を切らせながら走るのをやめた。2時間も走れば呼吸も激しく、足も疲れているのに、肝心の目的が達せられない。
「今回はストレスを解消するのを意識しすぎたかなあ」走るのをやめて歩いている山田。公園内で休憩できるところがないか探してみた。

 ちょうど芝生に覆われているところが見える。天気は良いが、そういう時間帯なのだろうか?山田のほかには誰もいない。ただ白い猫が1匹寝ているのを見つけた。
「ふう、疲れた。でもストレス解消しないなぁ」山田は精神的なモヤモヤしたストレスを弾きづったまま芝生に仰向けに倒れる。ただ体力的には相当限界近くの状況であった。横になることでようやく硬直していたからだが柔らかくなった気がしている。
「走る以外のストレス発散法とかないかなあ」山田は頭の中に居座るモヤモヤと、それを排除したいことがないか、あらためて考えてみた。

「ストレスとは本来、応力(おうりょく)のことだ」山田の頭の中に誰かが声を発している。「誰だ?」山田は起き上がったが誰もいない。もう一度横になる。「これはある物体の内部に生じる力の大きさや作用を表現するための物理量なのだ」
「え、なに、何それ」山田は飛び上がったが誰もいない。芝生には白い猫が寝ているだけだ。
「ストレスの意味も分からずストレスを語るなということだな」「え、あ、あ、頭の中?」山田は混乱した。頭の中で誰かが山田に話しかけていたからだ。

「応力を英語でストレスという。そのことも知らずにストレスが溜まっているというのか?」
 山田に話しかける声、この声に答えたらどうなるのだろう。少し気味が悪い気がしたが、でもこれ以上この声が聞こえたら正直うっとうしい。思い切って山田は話しかけてみた。「そんなのよくわからないけど、おいらは溜まっているんだ!」
 すると「応力ベクトルとは、物体表面や物体内に仮想的な微小面を考え、その微小面に作用する単位面積あたりの力である」と声が聞こえた。
「何言ってんだ。意味通じねえよ!」山田は少し嫌味っぽく言い返すと
「学ぶ気がないようだな」と言い返してくる。
「学ぶ気なんかあるわけないだろ!おまえ、いい加減黙っておいてくれる。余計にストレスがたまるんだ」という山田は不快感をあらわにした。

「そんなに怒るな。ではこちらの意味のストレスではどうかな」謎の声に小ばかにされている気がするが、ストレスには別の意味があると聞くと山田はやけに気になる。「別のストレス?」「ハンガリー系カナダ人の生理学者。ハンス・セリエが唱えたストレス学説の話だがな」
 山田はがっかりした。別の話題だからもっとわかりやすい内容かと思えば、ハンガリー系カナダ人とかまた難しいことを言ってきた。わかるのはさっきとは話題のベクトルは違うことくらいだろう。
「ううううう...…」山田は頭が痛くなり思わずうなる。「そうか、どうやらこの言葉が君へのストレッサーのようになったようだな」謎の声は山田の返事にすぐ反応する。

「す、ストレッサー??」山田は意味不明な専門用語の羅列で、明らかにストレスが溜まってきているようだ。「つまり君に刺激を与えて起こる歪みに対する非特異的反応を与えてしまったということだな」
「たのむ、君はすごく難しい知識を知っていることはわかった。だからお願い、もっとわかりやすくいってくれ」山田はついに声に対して懇願する。

「つまり君にストレスを与えたということだ」今度はシンプルに声が答えた。「そういうことか、うん、あ、わかった」山田は何かひらめいたようだ。「つまりストレスの原因となる苦痛の元がストレッサーか、なるほどひとつ勉強になったよ」
 山田は自分自身の声に対して礼を言う。本当に誰もいなくてよかった。これを他の人に見られたら頭がおかしいと思われても仕方がないのだ。

 ところが、これを最後に声が聞こえなくなった。山田はつまらないと思ったが、「これが本来の状況だ」と、自分自身を納得させる。それから同時にそれまで抱えていたモヤモヤがすっかり解消していた。
「いったい何のストレス抱えてたんだ?」山田はもはやストレスの原因すら忘れている。走りながらずっと感じていたストレスが、謎の声から発せられたより強力な小難しいストレスを与えられたから忘れたのだろうか?

「ま、いいか、すっきりしたし帰ろう」山田は立ち上がり家に戻った。帰りも走って帰ろうと思ったが、その時ふと芝生に視線が入る。そこにはさっきからいる白い猫があおむけのように眠っていた。

「さっきの声って、まさかね」山田は心地よさそうに眠っている猫を見て、思わず笑う。そのあと走り出すのだった。




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