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炎からの使者? 第827話・4.30

「隊長見てください、炎から人影が見えます」「で、人影の数は?」「3体が確認できました」
 現場は緊迫していた。未曽有の事件が起きたのは昨日の明け方である。未確認の巨大な物体がある岬近くに落下。その影響で火災が発生した。周囲の森が次々と焼けているのだ。

 この事件が起こるさらに1週間前、事件の予兆があった。「これは地球軌道に突入するぞ」
 天文台からの発表で世界は激震が走った。直系10キロ以上はあるような小天体が、地球に向かっているという。
「確かこのクラスの小天体が6600万年の白亜紀末期に激突したという記録がある」「所長、それは恐竜が絶滅につながったもの」「そうだ副所長。落下すれば滅亡の危機となる急いで予想軌道を計算せよ」「所長、これはギリギリ地球に来るかどうかですね、関係部署に至急!」
「うーん、天体の軌道を変えて地球から離すしかあるまいが...…」

 こうして世界に緊迫が走る。だが事件の3日前に天体そのものは地球軌道からずれることが判明した。それでも月軌道との間に入るわけなので、相当近づくことは確か。何らかの影響がないか、さらに注視している。

 事件の1日前、天体の一部の破片が飛び散り、それが地球に向かう見込みと判明した。想定の大きさは10メートルほど。本体突入ほどの致命的なことはないにせよ、その大きさでも都市に衝突したらその都市は致命的な打撃を受けるだろう。
「可能な限りの防御を」何ができるかわからないまま軍は戦闘態勢に入った。隕石落下に備える。こうして小さな隕石は大気圏に突入した。その隕石は大気圏内の圧力により爆発し分裂したもよう。やがてその姿がレーダーから見えなくなった。だがその中のひとつの破片だけが地球上に到達したようで、それが今回の火災事件を起こしたのだ。

「現場に急行せよ」軍の出動命令が出たため、軍の一隊が現場近くにむかった。同時に消防隊も駆けつけ消火に当たる。だが相当高熱を発しているのかなかなか消えそうにない。
 こうした中、隊員が見つけたのが人影である。その人影が事件に巻き込まれたのかどうかはわからない。少なくとも落下地点は自然に囲まれた岬で、自然保護区となっており、一般人が入れるようなところではなかったのだ。

「隊長、もしかしたら異星人の可能性はないでしょうか?」炎の中の人影を発見したのとは別の隊員が隊長に報告した。
「可能性はある。念のため専門家にも来てもらう方が得策だ」

 炎はまだ消えない。そして人影らしい姿。それは第一発見者のほか隊長たちも確認した。「隊長、女性のように見えますが」「うーむ。確かにな」
 先方も地球の軍隊を見て警戒しているのか、炎の中から出てくる気配がない。「彼女たちはこの炎でも耐えられるというのか...…」隊長はうなる。そして隊員たちに、不測の事態に備えいつでも攻撃でいる体制を指示した。

 30分後に専門家が到着。幸いにも炎にいる人影はまだ見える。専門家は何か良く分からない機械とパソコンを持ってきて、火の中にいる人影相手にコンタクトを試みた。「向こうにいるのは女性でしょうか?」隊長が質問する。「そうとは限らん」と専門家は隊長の質問にそっけなく答えると、何らかの信号を炎に向けて発信。
「うーむ、反応がない。我々の方法ではコンタクトできぬ相手なのか...…」
 横にいた隊長はさらに質問をした。「どのようなコンタクトを」
「うん、来た目的だ。私の目算では、目の前の人影はおそらく地球に向かっていた天体に住んでいた生命体ではないだろうか?分裂した隕石というのは宇宙船だったのかもしれない。しかし、こちらから呼びかけても何ら反応が無いようでは...…」
「あ、危ない!」ここで炎がとつぜんひろがって、軍に向かって炎が飛び散った。あわただしくその場を撤収する軍。訓練の行き届いた軍は機敏な動きのために炎を避けることに成功。幸いなことにけが人はいない。
「コンタクトを取った結果、炎が広がるとなれば、敵対的行動か」隊長は心の中でうなった。
「攻撃準備を行え。人影に対して水をかけろ!」最前線にいる軍の隊員は、消防隊からホースをうけとった。
「な、何を、まさか水を!」隊長の動きに目を白黒させる専門家。「はい、今向こうからの炎の広がりは、敵対的行動とみなされます」「し、しかしまだ攻撃かどうかはわかりませぬぞ」
 専門家は抗議するが隊長はそれを一蹴した。
「いえ、このままでは何もできません。実際に我々からのコンタクトは拒否したではありませんか。かくなる上は火を消すことです。その後、火が消えた状態で改めて相手と」
 
 専門家の制止を振り切り隊長は号令をかける。一斉にホースからの水が、炎の生命体向けて投下された。
 勢いよく水が投下されたのが幸いしたのか、炎は一気に衰退。周辺地域の炎は消し去られた。
「い、いない」消し去った後に先ほどの人影も消えている。「炎のような高温でないと生息できない生命体かもしれなかったのに...…」と残念そうな専門家。
 だがもはや消滅した以上何もわからない。やがてこの周辺の炎は消防隊によりすべて消し去られた。残されたのは黒焦げになった森の姿。

「何も無いようだ。撤収しよう」隊長の命令で軍は撤収した。その後何か事件が起こったとか、人影が見えたという報告もない。
「あれは本当に人影だったのか?」現場にいた軍の隊員たちは、単なる幻覚ではとの結論に達した。





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