口がない? 第753話・2.15

「........」突然の異変に気付いたのは起きてから10分後のこと、いつものようにベッドから目覚めて起き上がるときに、両腕を大きく伸ばして声を出すのが一日最初の日課である。
 ところが今日は違った。目が開いたけれど声を出そうという気が起きない。ただ両手は伸ばしたが黙ったまま。そのときには単純に前の日が疲れているだけだろうと思っていたが、さて出社しようと化粧台の前に立ったときに異変に気付く。そう口が無くなっていたのだ。いったいどういうことか? それを声に出したくでも出ない。口がないから声どころかその行動に移ることが出ないのだ。

 そもそも口がないなんてことは生まれてから一度も経験がない。だからいつもなら声に出すことが出せないでいる自分が苛立った。もう今日は会社に行くのを止めようと思ったが、ここで大きな問題が発生した。電話をして仮病を使うにしてもそれすらできないこと。会社に連絡できないならメッセージということを考え、スマホを手にした。
「原因は何にしよう。そうだどうせなら」頭の中で自分自身への問いはできるようで、自分で決めた結論。「口が無くなった」と書いて会社にメッセージ。当然すぐに返信が来て「バカにしているのか!」と、明らかに怒っている内容だ。

 私がそれならばと、自分の顔を鏡越しから撮影してそれを送ると。その返信の内容は最初完全に驚いている。しかし、その下には「それ合成だろう」と言ってきた。私はさらに返信。「わざわざこんな面倒な合成なんか作って送るか、もし適当な仮病を使うならもっと簡単にする!」と書いてやった。ついに返事はなくなった。

 そうなると逆に不安になる。「会社の人、本気で怒っている。ていうかこれで首になったかも」私は不安になった。もし首になったらどうしよう。別の会社に行ってもいいが、この状況では書類審査や筆記試験で合格しても面接でアウトなのは間違いない。口元をマスクで隠すのはともかく、面接となれば挨拶と自己紹介が必要。現状ではそれができない。もしかしたら、そういう病気を持っている人、あるいは障がい者となるかもしれないが、果たして、いきなり変わった私のこんな姿みんな見たらどんな表情するだろう。

 私はもう一度鏡を見た。やっぱり変わらなくて口がない。私はこれからどうなるのだろう。不安から悲しくなってきた。するとどうだろう目からは涙が出てくる。さらに鼻水も出始めた。なのに口では何もできない。声に出して泣きたくても声が出ない、口の部分が動かないのだ。
私は虚しさまで起こり、そのままベッドで寝た。するとどうだろう虚しさのあまりずいぶん泣いたから、そのままあっという間に記憶をなくしてしまう。

次に目覚める。私はどのくらい寝ていたのかわからない。でも不思議といつもと同じように目覚めの腕を伸ばす。そしたらびっくり。声が出た。「え?」また声が出ている。私は慌てて手鏡を見た。するとちゃんと口があるではないか。「あれって夢!」私はそう思って、時計を見たが、もうお昼過ぎ。
「どういうこと、夢じゃなくて現実に一時的にあったこと」私は頭が混乱した。というより会社にどう言い訳するかそのことで悩む。

 悩んでいるうちに、一瞬記憶が飛んだかと思うと、またベッドから目覚めている。同じような両腕を上げるしぐさをして声も出た。鏡を見ても口がある。でも違うもの。それは時刻が朝になっている。「ということはさっきのまで夢」私は安心したが、日付を見てもっと安心した。今日私のシフト休みの日だ。「じゃあ二度寝しよ」私は一瞬、次に起きたときに口が無くなっていないように願ってしまおうとしたが、すでに意識は遠のいた。


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