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もしも夢が叶わないなら? #月刊撚り糸   第654話・11.7

「そうか今日は立冬か、だからこんなに暗くなるのが早いのね」園代は頭の中でつぶやきながら町を歩いていた。午後5時を過ぎたのにすっかり暗くなっている。「立冬は一番暗い日だっけ、1日がすぐ溶けそうでいやだわ」思わず口に出す。それが聞こえたのか「違うよ、それは冬至」と声が聞こえた。「誰?」「園代、何暗い顔しているの?」声がする方を見ると、少し離れたところにいたのが親友の美恵子だ。

「ああ、美恵子か。いや1年が早いなあなんてね」「まあねぇ、最近は大きなイベントが終わるとすぐに次のイベントモードだしね。夏が終わればハロウィン。それが終わればもうクリスマスだもん。さっき行ってたショップなんてもうクリスマスソング鳴りっぱなしよ。一か月以上も先なのにね」
 いつの間にか美恵子は園代の横にいて一緒に歩く。「でもね、カトリックの国フィリピンは、ハロウィンの前からクリスマスモードよ」園代は反論。

「そうかぁ、うん、今年もフィリピンで英会話留学の夢が叶わなかったわね」「今は海外に気軽に行けないから仕方がないわ。来年こそは行けるといいね」園代は遠くに視線を置きながらため息をつく。

「でも、美恵子、もしさ『夢が叶わないなら』と思ったらどうする?」園代の質問に美恵子は突然不快な表情になる。「ちょっと! 園代まさかフィリピン留学の夢が、叶わないってこと言ってるの?」
「いや、そんなことないって。だけど可能性としての質問だから」園代は必死に言い訳。だが美恵子の硬い表情は変わらない。
「だからさ、そういう質問をしていること自体が、よくないと思うわ。園代、言霊って知っている」「コトダマ、聞いたことがあるわ」

 美恵子は園代に真顔になって話す。「言霊というのは、言葉に霊が宿っているという意味だけど、つまり発した言葉に力があって、結果的にその方向に事が動くようなニュアンスがあるの」
「うん」「だから『夢が叶わなかったら』なんて考えることがナンセンス。そんなこと言ってたら叶う夢も叶わなくなるわ。だから私はその質問にはノーコメント」

 園代は、美恵子に見事に痛いところを突かれた気がした。だから何も言い返せず、黙ったまま。しばらく沈黙の時間が過ぎる。

「逆にさ、もしも叶うならなら答えてもいいわ」「え、叶ったら? 例えばどういうの」
「そうねえ、もし叶ったら。私だったら現地で丸一日、日本語を話さない日を作りたいわ」
「日本語を話さない......つまり英語だけで過ごす一日ね」戸惑いながらの園代に美恵子は大きくうなづく。「せっかく高いお金払ってフィリピン留学しても、例えば現地の日本人とだけ話をしたら、結局楽な日本語に走るのね」「うん、」「それでは英語は上達しないわ。だから私は現地の日本人より、英語を話す人とできるだけ一緒に過ごしたいかな」
「うん、わかる。けど例えば英語でジョークとか言われて返せるかなあ」「それは」美代子の表情が一瞬変わる。「ジョークが理解できない。それは問題だ。もし頓珍漢な答えで返すと、場がしらける。うーん確かに難しい」園代の疑問に美代子思わずも黙ってしまう。

 また沈黙が流れる。しばらくして今度は園代が口を開いた。
「そうだ、いいこと思いついたわ」「いいこと?」「日本にいるうちからやろう」「園代、どういうこと?」いつしか園代の表情が明るくなり、美代子の方が戸惑っている。
「だから、アメリカンジョークとかを調べておいて、それをお互い英語でやり取りするのよ」「ほう」「それである程度慣れていけば、現地に行っても大丈夫じゃない」
 ここで美恵子も笑顔になり「園代、いいわそれ。それやろう。それをやりながら、フィリピン留学の夢をかなえるために頑張る。そうすれば絶対に来年以降にフィリピンに行ける日、叶うときが来るわ」

こうしてお互いが笑顔になる。そして、早速来週ふたりだけの英語タイムを作ることを約束した。


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シリーズ 日々掌編短編小説 654/1000

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