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宇宙SF 第1085話・1.21

「さて、きょうはこんなところかな」私真理恵は、コスモスファームという農園を経営している。今日も朝から新たに種をまく。まだ撒いたところなので、今回はどういう結末を迎えるのかわからない?なんて言ってられない。プロの農家として結果を出すの。でも今日は午前中で農作業は終わった。今日は午後は久しぶりに街に出る。彼一郎とデートをするためだ。

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「あ、ごめん、街に出るの久しぶりだから」いつもの農作業とは明らかに違う。街に出て着飾った格好に身を包んだ私は、駅前で大学で働いている研究者の彼を待った。
「おう、いいよ。ちゃんと作業できたか」「うん、冬の種まいたよ」という会話のあと、ふたりのデートは始まる。
 今日は彼の方が宇宙をテーマにした面白いスポットができたからという理由で私を誘い出した。

「ここだ」駅から歩いて10分くらいのところにそれはある。
「プラネタリウム?」見た目はプラネタリウムだ。普段は畑の横にある家で天体観測をしている者としてはプラネタリウムは人工的。わざわざ出かけてまで行くようなところとは思えない。
「単なるプラネタリウムではないんだ。プラネタリウムの空間で宇宙戦争が楽しめるゲームができるらしい」「ゲーム?」私は目を疑った。そんなもののために呼び出したことに正直がっかりしたの。

「そんな顔するなよ」と彼は言い訳をする。「これうちの大学が監修したんだ」「へえ、それで?」彼は大きくうなづく。
「天体の事をもっと知ってもらおうということで開発したんだ。子どもたちには、ゲームがいちばん興味を持つだろうしね」
「でも...…」私はやはり不満だ。子供が楽しむゲームなんか大人の私にとってはつまらないだろうし、そもそも私はゲームなどやらない。もっぱら植えた作物がどういう風に育っているのか?その行く末を見るのは一種の育成ゲームのようなものかもしれないけど。

「これ、子供だけでなく大人も楽しめるんだ」と彼はいう。とにかく大学で監修したものだから一度私に体験してほしいというの。彼は哲学の研究者なのに私と同じ天体観測が趣味。だから大学のそういう研究者との接点もある。おそらくそのあたりから私に体験してもらうように言われたのだろう。

「わかった。せっかく町にきたから。その代わり後で」「わかっているよ。おいしいものだろう」そういうと彼は口を緩ませた。

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 こうして建物に入る。今回は監修者の大学枠というのがあるらしく、私たちはそれを使い無料で入れた。
 中はプラネタリウムそのもの。普段はプラネタリウムの上映もあるらしい。ただ座席の横に何か置いてある。私が手に取ると「それはレーザー銃だ」と彼は横で行った。
「つまりこれで」「そう、画面は宇宙空間になって敵が現れる。俺たちは宇宙船の乗組員という設定で、画面に敵が現れたら撃ってっていくんだ」
得意げに彼は語る。「でも、こんな大人数で?」
「そういうことだ。ひとりでやるようなゲームはいくらでもある。だがこれはみんなで協力して一斉に強敵を撃つようになっているんだ。その撃つ相手はエイリアンとは限らない。例えば宇宙船に接近する隕石の場合もある」

 彼は熱く語るが、私は正直どうでもよかった。「このゴーグルをつけて」どうやらVR空間とかそういうもののようだ。
 こうしてゲームが始まった。館内ではブザー音を鳴らしなにか緊急的な様子を演出している。乗組員と称する声が「敵が来た!」と、発狂したような声をだす。つまり私達に敵を打つように指示をする。そのあと画面上には緑色した気味の悪い生き物が多数映し出された。「え、エイリアンだ!」の声と同時にレーザーが一斉に発射される。目の前のエリアンはレーザーが当たると、気味の悪い声を出し、わめきながらやがて死んでいく。その直前にエイリアンの体から紫色の液体が出てくるからかなりグロテスク。

 そのあとは宇宙空間の解説が入った。私たちは土星の近くにいるという設定になっているらしい。見ると大きな土星が見え、その輪も和というより小さな石の塊が浮いているような演出になっている。しばらくは土星と輪。さらにその周りをまわっている土星の衛星の解説が続く。
ところが突然ブザー音が聞こえたかと思うと、「緊急事態発生!離脱せよ」の声が聞こえる。「またエリアン?」と思っていたら、今度は違った。土星の輪を形成している一部の石が宇宙船に向かって降り注ごうとしているという。それを撃たないと宇宙船がぶつかって破壊されると言い出した。
 今度は画面上にいくつもの石が現れ、やがてそれが大きな岩となって正面に迫ってくる。ここでも先ほどと同じレーザー銃があてられる。やがて岩は大きな爆発音を出すと粉々に砕け散った。

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「どうだった?」「ま、まあ、楽しめたわよ。ああいうの好きな子供だったらいいと思う」45分ほどのプログラムが終わった後、私は本音を言った。ただこのゲームはなかなか凝っていて、椅子が激しく揺れたり上がり下がりすることがある。より臨場感が味わえたというわけだ。
「そうか、俺は童心に帰って必死で撃ったよ。おかげで指がつったかもな」と言って指を自分でマッサージしている。「やっぱり宇宙はSFの世界ね」と私はつぶやいた。彼は苦笑いをしている。

「ま、いいわ。次は?」「わかっているよ。おいしいもの食べよう。近くに口コミの評判の良い店があるんだよ」と彼は嬉しそうに白い歯を見せる。

 というわけで、これ以降私は彼の手をつなぎ久しぶりのデートを楽しんだ。



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