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私の朝ごはん 第1129話・3.13

 車も走らない夜の道路は静かであった。いつも見ている目の前の道なのに本当に別世界のよう。もちろん人も歩いていないし何もない。本当にゴーストタウンだ。
 だが、よく見るとひとつだけその静けさとは違うもの。大粒の水滴が窓を濡らし始めている。そもそも夜中に窓を見たのには理由があった。空から轟のような音が、比較的長い時間聞こえたために思わず目覚めたのだ。

「春雷(しゅんらい)というものか」以前この話を聞いたことがある。春に鳴る雷は、寒冷前線の通過時に発生するそうで、特徴として雹(ひょう)を降らせるのだという。冬眠中の虫を目覚めさせるとも言われているが、この日の夜は虫どころか人間が目覚めてしまうほど迫力があった。

「水滴に見えたものは雹かもな」カーテンを閉めて再び横たわる。暫くするとまた春雷と思われる轟音が寝室に響いた。

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「さて、今日は」朝目覚めると最初に朝ごはんをたべる。今日は休みだったので朝に余裕があった。そのことに加え、夜中に春雷で目覚めたので、いつもよりも遅く起きたのだ。とはいえ、特に予定もないから起き上がって朝の身支度を済ませると、そのまま朝食を作る。

「今日の朝食は」何を作るのかは決まっていた。朝はたいてい粥を食べる。粥といっても米から炊くのではなく、ごはんから作る方法だ。さらに使用するものは分づき米といわれる玄米と白米の間のような米で、色は茶色をしていた。
 前日に炊いた分づき米のご飯を取り出す。
「昨日は普通のごはんだったから」これが前の日に鍋などを食べていればそれを使って雑炊をつくるが、今朝はそういうわけにはいかない。

 コンロの上には鍋があり、そこに水を入れておいた。そこにごはんを入れてから箸でほぐすとコンロを点火した。「弱火よりも、やっぱり強火のほうが好きだ」などと思いながら、コンロでは強火でいっきに加熱する。
 コンロからは動きはないが勢いを感じる青い複数の炎がすぐ上の金属製の鍋の下と接触し、自ら発する高熱を次々と鍋に伝えていく。鍋はそのまま自らの金属の上にある水とほぐされ、粒単位でバラバラになった分づき米に対してさらに熱を与えた。

 暫くは何事もない鍋であったが、やがて小さな泡がいくつも鍋の外についているのがわかる。さらにその泡がどんどん上昇を開始した。明らかに加熱が進んでいるのがわかる。「そろそろかな」と思っていたらその泡はあっという間に大きなものになり、激しく鍋の底から繰り返し上昇しはじめた。さらに湯面というべき場所が激しく波打ち始める。どうやら沸騰したようだ。

 慌ててコンロを操作して弱火にする。「えっと、あ、あった!」蓋を見つけた。今沸騰している鍋用のものではないから少し隙間が空く。だがそれポイントだ。この状態で蓋をしたまましばらく弱火にする。
「あまりトロミはつかないが」白米ではない分づき米だから、粥特有のトロミは期待できない。適当なタイミングで火を消した。
「15分くらい蒸らせばいいか」そんなことを頭に思い浮かべながら時計を見る。こうしておよその粥の完成時間を把握した。

「さてと、何があるかな」冷蔵庫を開けてみた。すぐに目に入ったのは梅干しだ。先日少し遠出でたときに、ある場所で販売していた梅干しを購入して降りた。これは添加物が入っていない昔ながらの梅干で粒も大きい。それからあと見つけたのは昆布。とりあえずおかずらしいおかずはないが、今日はこれで朝ご飯にすることにした。

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「そろそろだ」火を消してから15分が経過。すでに粥を入れるための丼を用意していた。ひとり暮らしということもあるだろう。茶碗を使うことはほとんどない。ひとりで食える量のごはんをお粥にして、それをどんぶりの中にすべてを入れる。トロミはそれほど気にならないが、見た目からして明らかに柔らかくなっているごはん。一部は茶色い部分がはげ落ちて、コメ特有の白いボディを見せている。粥の上に梅干し一個と昆布をのせた。最後にアクセントとして白ごまを入れると、特製の朝粥が完成。

「いただきます」一応手を合わせて粥を食べる。朝は忙しいときは仕方がないが、この日のように時間に余裕があると粥を作ることが多い。朝のまだ体が動き出したころということもあり、胃にやさしいこの朝食を食べると体が元気になる気がするのだ。
 こうして黙々と食べて10分もかからないうちに完食する。
「さて、今日はどうしようか」食べ終わって、粥づくりに使用した鍋と今食べるのに使った丼を洗いながらこの後の予定を考えるのだった。


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