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ビーチに海洋生物が襲来したぞ! 第537話・7.13

「おう、いい天気。梅雨は明けたようだな」
 竜也は目の前に広がる海を見てほほ笑んだ。彼は海辺に来ていた。彼はとにかく海が好きで、年中海に行っているといっても過言ではない。春と秋はサーファーとなって波と戦う。冬になれば船で海の沖合にまで漕ぎ出すと、魚を狙うフィッシング。そして夏は海水浴で存分に泳ぐ。シュノーケリングを楽しむこともある。ただ彼の欠点はただひとつ。相手、つまりパートナーがいないこと。友達と来ることもあるが、主にひとりで海と遊ぶ。今日もひとりでビーチに来た。

 この日もいつものように準備体操を終えると、ビーチに向かう。浜辺の波は定期的に砂浜を濡らす。そして心地よい音をリズムを奏でるように流してくれる。遊泳禁止のビーチではないから波の大きさは知れていた。だがこの日は、竜也の他に海水浴客がいない。
「夏休み前だからかな。まあいいや、いなければこの広大なビーチは、独占状態。余計なことを気にせずに泳げるぞ」

 竜也は独り言をつぶやき海の中に入っていく。この海は遠浅であった。なかなか体が沈まない。どのくらい沖合に来たのか? ようやく肩近くまで水面が迫ってきた。
「ようし泳ぐぞ」竜也は泳ぎだす。

 最初は気持ちよく泳いでいた。だが竜也は少しずつ違和感を覚えるようになる。「この海の雰囲気がいつもと違う」そう感じて気持ち悪くなった。だが見ても上空は雲がわずかにある程度の青空。そして海は透明できれいなまま。波も特に変化がなく、いつもと何ら変わらない。だが第六感というべき何かが、竜也に違和感をもたらすのだ。
「気味が悪い、海にしょっちゅう触れているのに、こんな違和感は初めてだ。仕方がない、いったん引き上げよう」竜也はそう考えると、そのまま岸辺に向かって海の中を歩き出す。そして海を出て浜辺に戻る。首から下が海水に浸かったので、太陽の日差しに照り付けられて光っていた。だがそれがどうも違う。
「やっぱり何かが違うな......」違うといっても見た目は、透明な海水がボディーを濡らしているだけ。何の違和感もない。だがここでもやはり第六感だ。この不思議と感じる「嫌な気持ち」が竜也を覆う。
「わからない、だめだ。せっかくの海水浴日和だというのに、帰ろう」竜也はそう呟くと、ビーチの横にあったシャワールームで体を流し、服に着替えて、駐車場のある自らの車まで戻ることにした。
 そしてシャワールームから出ると、実はそれは正解だったことに気づく。なぜならば、ちょうど大学生くらいの若い男女のグループが10人以上もビーチに来た。『ナイスだぜい!』と、みんな熱い太陽と透明なビーチを見ながら歓声を上げている。

「よかった。あんな連中らが海で騒いだら雰囲気が台無しだ。俺の直感だな。帰ろう」竜也は自分自身にそう言い聞かせると、ビーチを見下ろす高台にある駐車場に戻ってきた。ここに来たときには他に車がなかったが、先ほどのグループのものと思われる車が数台増えている。
「さてと、帰りましょう」竜也は車のエンジンを入れて、車を動かす準備をすした。ここからはビーチのある海が見える。竜也は名残惜しそうに最後に海を見た。そのとき、竜也は海の遥か沖合に、不思議な光景を目の当たりに。「な、なんだあれは!」

 見れば海の水平線近くに大きな波がうねっている。「津波!」竜也は思わず車の中で叫ぶ。一瞬ビーチに降りて行ったグループが気になったが。「あれはビーチからでも見えるはずだ。急いで戻ってくるだろう」そう思い、そのまま駐車場を後にした。
 車内ではラジオを流した。「今日は1886年に日本標準時を制定した記念日です」とラジオDJからのゆったりした語りがながれていた。だが突然臨時ニュースが入る。ここで緊迫度のあるアナウンサーの声に変わった。
「現在海岸から巨大な波が押し寄せています。ただ不思議なことに地震があったという情報がありません。現在原因を調査中」と言っている。
「地震が来ていないのに津波だけ?」竜也は不思議だと思い、車を止める。 
 この場所からビーチの海は見えた。確かにおかしい動き。津波にしては速度が遅いし、特定の場所だけで起きている。波というよりも何かが湧き出てくるような白波が立っていた。中に何かがいるかのよう。それが確実に岸に近づいていることだけは間違いない。
「キャー」突然聞こえた女性の大きな声。「もしやビーチ!」竜也は気になって、ビーチに戻ってみることにした。ここからビーチの駐車場までものの2・3分である。車を大急ぎで走らせて戻ってみるが、突然通行止めになっていた。
「どういうこと?」通行止めにしている警察官が竜也の車に来る。「今この先は通行止めです。原因不明の津波が岸辺に迫っているため、危険です。生命尊重の方針より、申し訳ないですが引き返してください」警察官にそういわれるが、気になって仕方がない。やむなく車を止めてビーチ方向。すると、女性だけでなく男性の悲鳴も聞こえている。警察官もそれを聞いているためか、あわただしく動き回った。救急車や消防車などが次々と通行止めのゲートから中に入る。
「あ、あそこだ」竜也はいったん通行止めのゲートから引き返す。じつはそこから30秒ほど走ると、小さな駐車スペースがある。「あそこからなら状況が見えるはずだ」
 竜也は駐車スペースに車を置いた。ビーチとは反対側にもつ焼きの専門店がある。竜也は外に出た。そこは少し出っ張っている崖になっていて、ビーチが見える。するとビーチは跡形もなく海に埋められているではないか!

「ああ、ということはあの若者たちは......」頭の中で最悪の事態を想定した。竜也はここにとどまっても何もできない。諦めて帰ることにした。気になりもう一度ビーチを見る。砂浜が完全に消えて水の埋まったビーチ。埋まったどころか盛り上がっている気がする。「あの嫌な思いがあったのは、助けてもらったんだ」竜也は神や守護霊のようなオカルトのものを普段信じない。だがこのときばかりは、先祖のような未知の力を信じざるをえなくなる」「うん?」竜也は、再度盛り上がっているところを注目すると何かを見つけた」「生命体?」竜也は波の中に何らかの海洋生命体がいるのではと直感した。それは単体の巨大なものか、それとも複数で構成された塊なのかはわからない。
「もう行こう」竜也は車のエンジンを入れてそのまま帰った。

 そして自宅に戻った竜也テレビを入れると、やはりビーチの謎の波の事件の話題だ。大学生十数人のうち助かったのはひとりだけ。あとな波に巻き込まれて消えてしまったという。
「これは、何とも言えないなあ」竜也は、複雑な思いでテレビを見た。そして画面は生き残りのひとりが出てきて、当時の状況をおびえながら語りだした。
「海から生命体が襲来し、そして僕たちを襲ったんだ!」とわめくように言いだしている。「それは巨大なものですか?」「どんなもの」記者たちは質問するが、学生は目を向いて体を震わせて、これ以上はインタビューどころではなかった。

 ちなみにその時だけ波がビーチを襲ったが、30分後に何事もなかったように波が引き、いつもの状態に戻ったという。そして突然の惨劇でで生き残ったひとりが精神的におかしくなったと結論付けられ、津波のような大波に流されて残りは行方不明と扱われた。

 だが竜也は確信している。誰に言っても信じてもらえないだろう。だけどあの波の正体は、何らかの海洋生命体が襲来したのに違いないと。


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 ちなみに本文中の太字は7月13日の記念日です。


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シリーズ 日々掌編短編小説 537/1000

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