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1111 第658話・11.11

「壮観だな。1が4つも揃っていると」目覚まし時計のアラームで、僕は目覚める。そして1が4つ並んでいる日付を確認した。同じ数字が並んでもせいぜいふたつ。11月1日や2月22日のように3つ並ぶ日もあるが、4つ並ぶ日は1年で唯一この日だけ。「なら1が並んでいるのを連想していることをやろう」これは僕が数日前から考えていたことであった。

 時刻は午前11時10分。この日仕事が休みの僕はゆっくり起きることにしたが、わざとこの時間にあわせたのはその1分後のため。「11時11分だ!」思わず僕は感動のあまり鳥肌が立つ。もちろん11秒になった瞬間を見逃さない。

「さてと、今からやることは」僕は昼ごはんとして麺を湯がいた。湯がく前に麺を4本取り出して並べてみる。細長いから立に延ばせば1に見えた。「それを4つ並べると1111だな」次に持ってきたものは、もやしである。「これも麺と同じだけど4本並べればそうなるな」誰も聞いていないのにひとり言をつぶやきながら、僕は湯がいた麺の上にもやしを入れる。そしてスープを浸せた。
「いただきます」と僕は箸を用意するが、なぜか2セット。「どちらかが月で、どちらかが日」そう言って並べる。「よし日のほうの箸を使おう」
 こうしてようやく食べ始めた。

「うん?これって!」僕は食べながら気づいてしまう。11月11日というより単純に1を連想しているものが多いと。「だったらペンを並べるとか、ポッキーとプリッツだっけ。そういうのを並べるのも同じじゃないか!」
 僕はこれ別に1月1日でもいいのではと思ってしまった。とはいえ新年早々することではないが。

 でも僕は、とっておきの「1111」があった。ご飯を食べ終えて、しばらくしてから外に出かける準備をする。そしてここからが本番。そのために一工夫。和服を着る。それも高級な西陣織だ。
「成人式のときに着た和服。西陣織とはそのときは驚いたけど、応仁の乱の日が11月11日とはなんと良いことだ」
 僕は歴史が好きだから応仁の乱で西軍だった山名宗全らが堀川よりも西の場所に陣を構えたから西陣という地名があって、そこが織物の発祥の地だから西陣織という名前の由来とか。そんなのを聞けば聞くほど面白いと思っている。

 こうして久しぶりに和服にそでを通す。着かたなどは昨日までに何度も動画でチェックしている。だから無事に着こなせた。専門家から見れば間違っているかもしれないけど。「そして、下駄だよ!」僕はこの日のために、勢い余ってネット通販で下駄を買ってしまった。「下駄は1じゃなくて間違いなく1111だ」僕は新しい下駄の裏を見る。下駄の裏は確かに11の形をした歯(出っ張り)があった。「それが左右で1111間違いなし」

 こうして下駄を玄関に置く。いよいよ下駄を履いてみた。初めて履く下駄の感覚は不思議だ。足の親指とほかの足の間にあるくぼみに、鼻緒を挟むのは、ビーチサンダルなどで慣れている。それでも足を上げたときに少し違和感。サンダルや草履とは違って歯がついている分、少しだけ重みを感じた。「よし出かけよう」僕はドアを開ける。しかしこのとき瞬時に後悔した。今は11月。昼間でも風が冷たくなっている。こんなときに素足で下駄を履いたのだ。それは寒いに決まっていた。
「えっと、足袋なんてあったかな」そもそも成人式のときに来た和装。「もう記憶が曖昧だが、冬に着たということは、足元も冬仕様のはずだ」そう確信した僕は、必死に探してみる。でも探した甲斐があった。「見つかった。足袋だ」

 という事で足袋を履いて改めで出かけることにした。予定より2時間遅れでの出発。「今日は4つの棒を探すぞ」僕は当てがあった。そこに目指す。そこは高台になっているところ。そしてそこから眺めると、僕はニヤリと口元が緩んだ。
「左にあるのが、富士の湯、あの遠くにうっすら見えるのが、市井温泉、それから右にあるじゃなくて、すぐそこの煙突が寿湯、それで右の極楽共同浴場か」実は僕の住んでいる町は、銭湯が多く残っている。だから銭湯の煙突を4つ同時に見える場所に来たのだった。
「これも厳密には1でもいいんだろうけどさ」僕は寒くなってきた。体を震わせながら高台を降りる。そして結局体を温めたくなったので、そこから一番近くにある寿湯でひと風呂浴びた。

「あ、気持ちよかった。さて、もう夕方だな。よりあそこだ」僕は、湯上りに酒を飲んで帰ることにした。と言っても長くいるつもりはない。ほんの1時間程度。そしてそれに最適な場所が、立ち呑み屋だ。
「1を人と見立てて1111が立ち呑みか、よく考えるなあ」僕が来たときはまだ夕方の早い時間。だから誰もいない。「これじゃあ1だけどいいか」そう言って立ち飲み屋でビールを飲んだ。
 簡単なつまみを頼んで、最後は日本酒の燗酒まで飲む。予定が長くなり1時間近くいて店を出だ。外はもう暗い。「結局他の客はいないままか」少し残念に思っていたら、驚いた。入れ違いで入ってきたのは4人組。もちろん僕はここでその4人が暖簾の前で立っている姿。提灯の赤い光に照らされていた。ここで1が4つ並んでいる姿をチェック。こうして年に一度の1が4つ並ぶ日をマニアックに楽しんだ。

「これ、本当は認めたくないんだけどな。何が豚の鼻で11だ。いくらなんでも無理がある!」家に帰る前に、最後の関係がこれ。大好きな豚まんの店で、豚まんを買う。こうして、寒さのため体を少し震わせ、下駄を鳴らして帰った。


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