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宇宙を学ぼう

「拓海君、クリスマスって何するの?」
 中学3年生の尾道拓海は、近所に住んでいる幼馴染で、学校のクラスが別の今治美羽からのメッセージを受けた。
「え?何もしないよ。僕の家仏教徒だし、サンタクロースという架空の存在に興味ない。それに来年は高校受験が控えている。正月はともかく、クリスマスは勉強。どうでもいいや」と返信した。
 すると「ふーん、なんとなくつまらないね。やっぱり勉強かあ」
「多分そうなる。一応志望校があるから」「でも1日くらい、いいんじゃない。私実は高校受験とは別に、面白い勉強をすることにしたの。今度教えてあげる」

 そんなメッセージを受け取った拓海は、あきれたようなため息をつく。「あいつ何考えてるんだ。受験があるのに別の勉強って!」
 愚痴をこぼしながらも、内心では美羽が会いたいといってくれることがうれしかった。そこで『あいつからの要望』という口実で、クリスマスの少し前の日曜日。近所の公園で美羽に会うことにした。

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「ごめんね。勉強忙しいのに」「お互い様だ。で、別の勉強って聞いたけどなんだよ。美羽が将来目指している気象予報士か」
 拓海は幼いときにはあまり感じなかったが、最近美羽を見るたびに、別の不思議な感情を持ち始めていた。どうもそれが気持ち悪い。そのためか、ふたりだけで会うとき、拓海はイライラすることが多いのだ。 

「あ、それはもっと後。というよりこれよ。これなら拓海君と一緒に勉強できるかなって」と、美羽が持ってきた、黒いかばんから一冊のテキストを出す。「うん?天文宇宙検定。僕、それ初めて聞くなあ」「ねえ、これ気になるでしょう」

「ああ、宇宙は好きだよ。山のことと同じくらいに」「山!あ、火星のオリンポス山!」その言葉に思わず白い歯を見せる拓海。
「そうそう、よく覚えてたな。火星にある太陽系で最も標高が高いといわれている山。そうか宇宙の勉強はいいなぁ。でもこれやり出したら、せっかくの受験勉強が台無しだよ!」
「大丈夫よ、受験のほうが行き詰ったときに、息抜きでやったら。だってこの検定試験は、毎年11月らしいの。まだ11が月も先よ。とりあえず初めて見て、高校が決まってから本格的にやろうよ」

「で、どんな試験なんだろう」さっそく拓海は、持っていたスマホから早速この検定を調べてみる。すると次のような画面が出てきた。

天文学検定

「へえ、1級から4級まであるじゃん。どうせなら1級の天文宇宙博士がいいなあ」「ダメよ!」美羽が少し大きめの声を出す。
「何で?」「だって、1級は理工系大学ってあるもん。いくら拓海君が宇宙のこと詳しくても無理無理」
「あ、どっちにしても無理だ。これみろよ。1級を受けようとすると、2級の合格番号がいるんだって」

 美羽は拓海のスマホを軽く眺めて小さくうなづくと、テキストに視線を向ける。「私が手に入れたこのテキストは3級の星空博士向けなんだけど、拓海君はまさか2級」「そりゃそうだ。1級がダメならその下。僕が受けるなら銀河博士から挑戦だよ」「でも2級でもレベル高そう。高校生が学ぶ程度ってあるわよ」いつの間にか美羽はテキストを横に置き、自分のスマホで同じページを開いていた。
「いや、だってこれ受験するときはもう高校生だよ。美羽こそレベルが低くないか。星空博士って中学レベル」
「だって確実に合格したいもん。合格してから来年はその上よ」と美羽は少し視線が険しくなり、口元がふくれた表情。

「そう怒るなよ。でも、ありがとう。すごく気になった」「よかった。拓海君なら興味持ってくれると思ったから」美羽はすぐに笑顔に戻る。
「僕は無事に高校が決まったら真剣に勉強するぞ。確実に2級を取って次の年に1級を狙うんだ」
「ずいぶん気合入ってるし」「ああ、だって高校生の間に、天文学だけ理工系大学の知識があるって認定されたら、夢広がりそうじゃん。それから関係ある大学に行って、いつかそっちの道に進めるかも。宇宙飛行士とかも夢じゃないよ」

「まあ、拓海君素敵ね。私はまだ」「あれ?気象予報士は」
「どうなんだろう。本当にその道でいいのか、まだ気持ちが揺らいでいるのね」
「美羽はだめだなあ。でも気象も宇宙と多少関係ありそうだから、美羽が良ければ、僕勉強に付き合ってあげるよ」拓海はそう言うと自慢げに胸を張って口を緩めた。

「拓海君って、ほんと勉強熱心! だから私、好きなのね」この美羽の一言で一瞬、拓海の心拍数が突然早くなった気がする。
「あれ、いま『好き』って言わなかった」「え、ちょっと!いやん」拓海の一言に突然、顔を赤くして両手で顔をふさぐ美羽だった。


参考文献

こちらのアドベントカレンダーに参加してみました。

「読書と勉強」という非常に硬いテーマのアドベントカレンダーで、参加した後にどうしたものかと迷いました。
 その時に主催者の「コペルくんwithアヤ先生」さんが、私のアドベントカレンダーに参加してくださり、その際の記事に登場した「天文宇宙検定」というものを初めて知りました。
 天文学系は私の好きな分野で、これは「またとないチャンス」とばかりに、この資格試験に関するネタで創作してみました。


こちらもよろしくお願いします。

電子書籍です。千夜一夜物語第3弾発売しました!

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シリーズ 日々掌編短編小説 332

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