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オウムとインコ 6.15

「里美、小鳥飼ったんだってね」双子の片割れ美里は嬉しそうに里美の部屋に来た。「美里、なんでもう知ってるの? まだ誰にも言ってなかったのに」

「そりゃわかるわ。私とあなた別人格だけど、顔がそっくりな一卵性双生児。だからどこかつながってるのよ」
 美里はそう言って里美を見る。確かに同じような髪型と服装。どちらもほぼ無地の白いTシャツに同じような形をしたロングスカート。違うのは里美のほうが桜色で美里のほうは薄いパープル色しているというくらいか。

「一卵性双生児ね。なんとなくソーセージが食べたくなるわ。というよりお互い別人とは思えないのは確かだけどね」里美はそう言って笑う。

「で、何飼ったのったの?」「いやそれが......インコなんだけど、よくわからないの」
「よくわからないって何? インコなんでしょ」美里はさらに追及する。里美は視線を部屋の天井付近にぶつけながら考えるそぶり。
「うーん、なんて言ったらいいかしら。その頭ではなく、感覚的というかその、直感で見た目で選んだのだから、鳥の種類とか全然気にしなくて『これください』って言ったの。えっとなんて言ってたかしら......。」

「全く里美らしいわね。まあ種類じゃなく、その仔が可愛いかどうかだからいいんじゃない。でどこにいるのその仔は?」
「あ、持ってくる」そう言って里美は立ち上がり、バルコニーにかけていた鳥かごのゲージを持ってきた。

「あ、2羽いる」「う、うん、でも色がちょっと違うでしょ」里美の反応が少しおかしい。でも美里は気にならず。
「そうねえ、こちらは黄色いボディなのに頬だけ赤い丸い毛が付いているわ」美里は2匹のうち、ほんの少し体の大きい方を見る。
「あ、思い出した。それ、確かペットショップの人『オカメインコ』とか言ってた。でも本当はオウムの仲間なんだって」と里美は突然思い出す。

「へえ、かわいらしいわね。頭の先にトサカのような毛が立っているし」美里はしばらくオカメインコを眺めている。
「あ、こっちの小さい方はちょっと違うわね。トサカがないわ。たぶんメスね。さっきのほうはオスだと思うわ」と見る方は白っぽい頭に青いボディーが特徴。
 ところが里美は「あ、実はそちらは」と言いかけて一瞬口をつぐむ。

「どうしたの?」「いや、これはあの、買ったのじゃないの」なぜか里美の目が挙動不審。
「え、どういうこと? どうして手に入れたの。この子は!」美里が強めの語気と鋭い視線をぶつける。
「あ、あのう。それ部屋に入ってきたの」「え?」観念したのか里美は、戸惑いながら説明し始めた。

「私がこのオカメインコちゃんを買ってテラスに飾っていたの。それで最初のえさを上げようとゲージを開けたんだけど、閉めるの忘れてしまって」「え、よく逃げなかったね」
 驚いた表情の美里。里美は話を続ける。「うん。それでそのあと水を入れようと10分後にもう一度テラスにきたら、なぜかこの青い仔が入っていたの

「ていうことは、外からゲージに入ってきたの。「そう見たい。そういえば餌をものすごい勢いで食べてたわ」
「なるほど居候なのか。でももしこの仔がメスだったら、番い(つがい)になるんじゃない。オカメちゃんがトサカついていてオスなら、こっちは頭が丸っこいからたぶんメスよ」美里は何の根拠もなく、見た目だけでオスメスを判断する。

「あれ、ちょっとやばくない!」しばらく眺めていた美里が何かに気づいたようだ。どうやら小さい方が大きい方に対して何らかのプレッシャーを与えているうに見える。大きい方は端に追いやられ、真ん中には小さい方。つまり居候のほうがいた。少しでも大きい方が近づこうとすると小さい方が威嚇するのだ。「やっぱり、小さい方がメスで。早くも大きい方がしりに敷かれている。トサカついてるくせに」美里はそう言いつつも「でも小さい仔は外から入ってきたのね」と小さい声でつぶやいた。
「うん、後から来た仔が支配するなんて、買ってきた元の仔はかわいそう」里美も2羽の関係を気にしだす。

「ねえ、ペットショップに行こうか。専門家に見てもらった方がいいよ。でないと最悪」美里が横目で脅すような口調。里美はそれを見て何度もうなづき。「そ、そうね。それがいいわ」

ーーーーーー

 ふたりは、2羽が入ったゲージを持ってペットショップに向かった。
「すみません、この前この仔を飼ったものですが、知らない間に別の仔が混じって」
 里美が状況を説明する。ペットショップの店員は首をかしげながら
「勝手に混じった......そんなこと今まで聞いたことがないんですが」と戸惑う。
 それでもゲージを見たときには「あ、これ種類違いますね」と即答した。

「種類が違うんですか!」と美里の大声。「ええ、お客様が買われたのは、こちらの大きいオカメインコ。でもこの、紛れ込んだ......という仔はセキセイインコ。どこからか逃げ出したのかもしれませんね。

「ああ、餌に飛びついてたので」「ということは、おなかをすかせたんでしょう」
「じゃあ、オスとかメスでは? こっちトサカついているわ」美里の言い分を即否定するスタッフ。「違います。まずこれ、トサカではなくて冠羽(かんう)といいます。それと似たもの同士ですが、細かいところを見るとずいぶん違って別の種類なんです」
「そうか、オウムとインコだもんね」小さく独り言を出す里美。
「仮にオスメスだとしてもつがいになったり、子供が生まれたりはないはずです。それと」
 スタッフはまだ何か言い足りなそう。
「実はオカメインコは臆病な性格で、セキセイインコのほうが主張がしっかりしていまして、下手をするとオカメインコが」と言ってようやく口をつぐむ。
「ということは」「はい、飼われるのなら別々のゲージをお勧めします」

 ここで突然、青いセキセイインコが、大声を出した。「オーイ、オーイ」
「え、なに、里美『オーイ』だって」「え! 何なの急に」
 すると「あっ」と人の声。声変わり前と思われる、中学生くらいの男の子がふたりの前に入ってきた。
「オーイ!」子供はセキセイインコに声をかけると、インコは羽をばたつかせて反応。『オーイ!』と大声を出す。

「すみません。これ僕の飼っていたインコです」と男の子。「え、あなたのインコなの」驚く美里。
「はい、実は僕、油断をして餌を上げた後、ゲージを開けたままに気づかず、そのまま逃げられたのです。いくら探しても見つからないから、仕方なく新しい仔を飼おうかと」
「それが、里美のゲージに」
「ということは、この仔はお返ししないとね」と里美。
「お姉さん、ありがとう。僕の大事なオーイを預かってくれて」男の子は里美に頭を下げて礼を言う。

「じゃあ、ゲージは」「あ、持ってきてません」
「そしたら、君がゲージを持ってくるまで家で預かりましょうか」とペットショップのスタッフ。こうしてオーイという名のセキセイインコは里美のゲージから移された。

ーーーーーー

「ねえ、無事に居候がもとに戻ったわね」帰り際、里美が抱えている1羽だけになったオカメインコを気にしている美里
「うん、ちょっと寂しそうな気も」と里美。
「でも里美。この仔からしたら突然わけのわからないのが入ってきて餌を食らいついて威張られてたんだから、内心ほっとしていると思うわ」「そうだ。この仔の名前、まだ決めてなかったんだ」
「何しているの里美早く決めないと」「そうね美里どうしようかしら」
「オカメインコだからオカメちゃんでいいんじゃない」「そうねオカメちゃんにしよう」とあっけなく名前を決めたふたりであった。



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