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ゴールドラッシュ

「ジョン、いつもありがとう」
「いやあ、心配いらないよ。だっておめぇさん、合衆国とメキシコとの戦争に志願して従軍している間に、土地も家畜も全部失ったっていうじゃないか」

 ジェームス・マーシャルを励ましたのは、19世紀半ば、後にカリフォルニア州となる地域でヨーロッパ入植者用の砦を築いたジョン・サッター。
 この当時はヨーロッパの入植者たちは、ネイティブアメリカンからの攻撃を防ぎつつ砦を作った。ジョンは、この場所を新スイスと命名して多くの人を雇用する。ジェームスもそのひとりであった。

「製材工場か、やったことないけど、いちから出直しだからな。よし、うまくやれば一儲けできるかもしれない」ジェームスは、独り言をつぶやき夢を見る。
  1810年生まれのジェームスは、ジョンと知り合い、土地を与えられた。だが36歳のときに米墨戦争への従軍に志願し、戦地に向かった隙に財産を失ってしまう。だがチャンスは残されていた。だからジェームスは工場の統括者として頑張る。最初に彼が行ったのは、サッター砦から40マイルほど上流ににあるコロマというところで工場を建築したこと。

 しかしここで、ジェームスを悩ますことがあった。
「工場ができたが... ...」工場そのものには問題がない。ただ問題がひとつあった。それは工場を稼働するための水車から排出する水の溝である。
「これだけ狭いと影響が出る。切削しよう」ジェームスは溝を掘削することに決めた。
その際、手や道具を使って掘るのではない。水力で掘ることを考え付いたのだ。この場所に流れているアメリカン川の流れを利用することを思いついた。

 そして水力を使って、掘削を開始。「さてどの程度掘られているか楽しみだ」責任者であるジェームスは、毎朝溝がどの程度掘削されているのかを見るのが日課となっていった。

 そして1848年1月24日の朝、この日もいつものように掘削具合を確認することにしたジェームスは、流れていく水の放水路を見ていた。「ん? 何だあれは」見ると金属の欠片があるが、それが光り輝いている。
 ジェームスはさっそくジョンに連絡し、その光輝く金属の正体を突き止めることにした。「おまえ、これは、金だ。相当純度が高いぞ」と、ジョンは、砂金であることを突き止める。

 ところがジョンは、意外なことを言い出した。「だが、ジェームス、これは内密にしよう」「え? ジョン、何でですか?」
「俺にとってこの地は農業で栄えさせる夢がある。もし金の存在がわかればロクな奴が現れない。そんな奴らにこの地が荒らされてたまるか」

 だが「金の発見」は、何者かによりうわさとして広がっていった。そしてついに大々的に宣伝されてしまう。

 その結果アメリカ全土や遠く海外から30万人という多くの人が集まってくる。こうしてゴールドラッシュが始まった。そしてジェームスは、この流れに巻き込まれて、追い出されてしまう。その上、ジョンでさえも、この騒動て恩恵を享受することなく、押し寄せてくる人たちに土地のいろんなものが破壊されたという。

 ちなみにゴールドラッシュは1848年から55年までの7年間で、1000人程度の人口しかいなかった当時のサンフランシスコが25000人までに膨れ上がった。しかし金はあっという間に取りつくされてしまう。その結果、外国人排除をしたり、ネイティブアメリカン(インディアン)の部族の一部が絶滅させられたりしてしまう悲劇が続くのである。

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「ゴールドラッシュって、一見夢のある楽しい話題に見えて、意外に不幸な出来事のようだな」

 カリフォルニアのゴールドラッシュを取り上げている物語の動画を見終えた黒田。
 バンコクの駐在員である彼は、動画を見たあと、衝動的に家を出た。そのまま現地の公共交通を乗り継いでいく。そしてあるところに向かった。
 それはバンコクの中華街ヤワラー通り。ここに行けば「金行」と銘打った看板が並ぶエリアがある。これは貴金属店。安定相場の金を財産にすることで、為替の混乱による通貨の危機を防ぐ狙いがある。

「俺もそろそろ金を持ってもいいかな」金行の看板を見ながら黒田はひとり呟くのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 369

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