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7月1日 ~1年の折り返しを前に~ 第526話・7.1

銀行の残高はチェックした。ちゃんと振り込まれている。これでクレジットは無事に引き落とされるな」今日は1年の折り返しを前にした7月1日の朝。弁理士カナダ人ルーカスは、安心した表情でATMから出てきた。
「さてと」ルーカスは友達のソマリア人、アブド ゥライからのメッセージをチェック。
「ふっあいつも忙しそうに頑張ってるなぁ」ルーカスはカナダ人外交官の子供。日本で生まれ育ったこともあり日本語が達者である。大学生のときにはカナダの大学で過ごした。そして現地で留学生のアブドゥライと知り合うのだ。そして現在彼は祖国に戻って国際弁護士をしているという。
ルワンダブルンジに出張だって、大変だな」近況を確認したルーカスは、事務所に入った。

 事務所のポストには封書が入っている。「郵便番号がこれか。うん、ずいぶん遠くから来ているな」ルーカスはさっそく封筒を開けてみるが中に入っているものを一瞥するとすぐにゴミ箱に入れる。「ケ、単なるチラシだよ。さしみこんにゃくじゅんさいの通販なんて関係ないってんだ」

「さて仕事の前に」とルーカスは今日の昼まで所長が出張で戻ってこないことをいいことにテレビをつける。ちょうどニュースを行っていて、中国共産党の話題を報じていた。
「中国ね。おととし言った香港特別行政区だっけ、今はどうなってるんだろう」ルーカスはひとりでつぶやきながら大あくび。
 つまらないとチャンネルを切り替えると、井村屋あずきバーのCMが流れたが、そのあとはテレビ時代劇の再放送。再度チャンネルを変えたルーカス。今度は突然大空を舞う戦闘機の姿。「航空自衛隊のショーか、うんこっちのほうが良いな」数機の飛行機は隊列を乱すことなく宙返りなどを行っている。

「おい、何リラックスしてるんだ!」突然大きな声が事務所に響き渡る。「あれ西川所長! 早いですね。まだ名神高速道路を走行しているのかと」
「うん、メッセージみてなかったのか? 函館港の案件キャンセルになったと」「あ、そうですね」ルーカスは慌ててスマホをチェックした。「だから全体のスケジュールが前倒し。そのあとの山形の予定もスムーズだった。おかげで山形新幹線に乗ってからの東京都政での打ち合わせも順調。あっという間に東海道本線への移動もスムーズだった。それで最後の案件も終わったんだ。
「そしたら」「ああ、そのまま昨夜新幹線で戻ってきた。だから深夜の高速バスは使わずじまい。バスに揺られながら聴こうかと愛用のウォークマンを持って行ったが、ほどんど出番無かったな」
 所長は今回の長期出張が比較的早く終わったことがよほどうれしかったのか? こころ躍っている。挙句の果てには鼻歌で童謡を歌う始末。

「あの、所長」ルーカスが止めてようやく我に帰る西川。「おう、そうだ、ルーカスお前飲めるだろう」「はい、それが何か?」
「実は、山形では建築士の依頼を受けたんだが、何か壱岐焼酎が余っているからって一本俺にくれたんだ。ま、俺は蒸留酒は苦手。新醸造した日本酒が好きなんだ。だからお前にやるわ」そう言って西川は黒いバックから、焼酎の便を取り出した。
「あ、ありがとうございます。で、いき? えっとどこだっけ、琵琶湖の近くでした?」ルーカスが頓珍漢なことを言うので、西川は思わず吹きかけるのをこらえる。「お、おいルーカスそれワザとか? 琵琶湖は滋賀県で壱岐は九州だぞ」
「あ、あれ? あ、俺、地理苦手なんだ......」ルーカスは恥ずかしさのあまり穴があったら入りたくなり顔が赤い。
「さて、仕事しましょう」ルーカスは、ごまかすように自分のデスクに座るとパソコンの電源を入れる。

「おい、ルーカスチラシ捨てたのか?」西川はゴミ箱をあさりながら先ほどのちらしを取り出していた。「所長、そんな広告ゴミでしょう」
 しかし西川は首を左右に振り「勝手なことするな。俺はここでアマタケサラダチキンをいつも注文しているんだ。そしたらしっかりたまるんだ」「たまるとは」「ポイントだよ。これでもポイ活が楽しみでね」西川は嬉しそう。ルーカスが丸めたチラシを広げている。「鉄スクラップみたいにくちゃくちゃなってる。あーあ、ナビのコーナーがはげ落ちてるわ」
 西川は残念そうにつぶやく。ルーカスは気まずい雰囲気を察知したのか、慌ててパソコンからブラウザを開く。そして適当なページを探して、その話題を振ることで西川の気をそらそうとしたのだ。

「えっと」ところが何気ない時にはいくらでも面白いページが見つかったのに、意識するとうまくいかない。「この前は、JUNETとかいうインターネットの起源のモノとか出てきて面白かったのに」ルーカスは必死にマウスを動かす。しかしうまくいかない。「国民安全、何だよこれは」ルーカスは苛立ち始め思わず声を張り上げる。ああっ更生保護じゃねえよ!」

「どうした?」ルーカスは返って西川の意識を向けさせてしまった。
「あ、所長、言え何も?」ルーカスは思わず西川の視線を避ける。だが焦りのあまり額から汗をかき始めてしまった。

「なんだルーカス。急に汗をかいてそんな体調が悪いのか? もっと健康に気を使え。昨日6月30日は『夏越の祓』その次の日は人生百年時代。健康独立宣言で行くんだぞ」
「今日の所長ご機嫌だ」これを聞いたルーカスは胸をなでおろした。「ありゃ」ページは無意識に、エロサイトを開いている。
「健康大切ですね。所長は健康に何か」「ああ、俺は山登りが好きだな。そうそう、今日は山開きだよ。ルーカスは山は好きか?」「いえ、ぼ、僕は海派。サーフィンとか好きなんです。あ、今日は海開きですね。ハハハハ」と言って上ずった声で笑う。
 ところがこのルーカスの態度が西川の機嫌を180度変えてしまった。
「ん? お前何笑ってんだ。まさか事務所で変なページ見てんじゃねえだろうな」「え!」ルーカスは慌ててマウスを動かしてエロサイトから逃れようとする。

「おい、何、マウス、ちょっと見せろ!」小走りでルーカスの席の前に来た西川。ルーカスは思わずマウスを持つ手が震える。ところが西川映し出されたパソコンの画面を見ると、また態度が変わり口元が緩む。「え?」ルーカスは一緒になって画面を見た。そこには難病で苦しみながら入院している小さな子供たちの姿。そして彼らを励ましている優しそうなファシリティドッグが映し出されていたのだった。


※7月1日にあるというこちらの記念日をすべて入れて創作してみました。

国民安全の日 更生保護の日 こころの日 童謡の日 銀行の日 クレジットの日 ポイ活の日 弁理士の日 建築士の日 郵便番号記念日 東京都政記念日 東海道本線全通記念日 山形新幹線開業記念日 名神高速道路全通記念日 函館港開港記念日 ファシリティドッグの日 ウォークマンの日 鉄スクラップの日 健康独立宣言の日 航空自衛隊安全の日 アマタケサラダチキンの日 さしみこんにゃくの日 壱岐焼酎の日 琵琶湖の日 テレビ時代劇の日 JUNET記念日 井村屋あずきバーの日 ナビの日 じゅんさいの日 カナダ・デー 中国共産党創立記念日 香港特別行政府設立記念日 ルワンダ・ブルンジ独立記念日 ソマリア共和国記念日
山開き 海開き 新醸造年度


「画像で創作」6月分にとらみな(寅三奈)さんが参加してくださいました。

甘酒、途中からお茶を呑みながらの日記。味わいある手書きのグラフを用いて自らの過去を振り返る。そして「あきらめ力」の大切さについての記述もありました。ちなみに「画像で創作」ではサムネイルとして登場。こちらの仔も、読んだらさぞかし楽しめる日記のような気がしました。ぜひご覧ください。

こちらから「旅野そよかぜ」の電子書籍が選べます。

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シリーズ 日々掌編短編小説 526/1000

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