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クリスマスになってから 第702話・12.25

「昨日は会えなくて悪かったな」太田健太はそう言って、待ち合わせ場所で待っていた木島優花に謝った。「いいわよそんなの。本当は今日がクリスマス本番だしね」
 昨日のクリスマスイブは健太がバイトでデートができなかった。そのため今日ふたりでデートしようとなったのだ。

 こうしてあらかじめ予約していたレストランに入るふたり。カジュアルなイタリアンレストラン。「では乾杯」ふたりはビールで乾杯した。「でも、昨日まで大変だったでしょ。お疲れ様」
「ああ、サンタクロースのバイトな。内定もらっていよいよ来年から社会人。そのまえにこれ一度はやってみたかったが、いやいやこれは重労働だったよ」ビール片手に語る健太。12月1日から昨日まで休みなしで働いたことを思い出す。
「知らないだろう、あれ長時間着てたら結構大変なんだぜ。終わった後このクソ寒いのに全身汗だらけだったよ」
「太田君、普通に白いひげつけて赤い服着るところにすれば、もっと楽だったのに、なんでそんな着ぐるみの大変なところにしたの」

「ダメだって。そんなのは!」健太は出てきた料理を手にしたが、口を開けて食べる直前に否定した。「やっぱりサンタクロースというのは、みんながイメージしているものがあるだろう。優花はどういうイメージだ」
「え? うーん白い髪と白髭をした欧米人の爺さん」「ほらそうだろう。日本人がどんだけ頑張っても欧米人にはなれない。だから着ぐるみで隠して『中の人』として動くのがいいんだ」
 実は健太は、単純にサンタクロースのいでたちをひとまえで見られるのがはずかしいだけだったが、優花の前では見栄を張る。 

「でも今考えたら楽しかった。ただ着ぐるみ来てうろうろしているだけだったが、みんなが指さして『サンタ、サンタ』と言ってくれたしな」
「良かったわ。私も見ればよかった」
「見てもわからないって」「そうね。じゃあ太田君今日はどんどん食べてね」「ああ」優花は出てきた料理を健太の取り皿に入れて手渡した。

「ふう、私は明日からが本番ね」「百貨店の」「そう、デパ地下の年末要員」「1週間だけか短いな」「そう? 私はこのくらい短期でいいわ。31日まで頑張れるかな」優花はそう言ってビールを飲み干した。

 こうしてふたりだけののクリスマスは和やかに続く。

「今日はあそこのホテルを取っておいたんだ」レストランを出た健太は優花と手をつないだ。町は今日までクリスマスのイルミネーションモード。恐らく今日の夜中になればこれらが撤収されて急激に正月の純和風モードに変わるのだ。
「あのホテル!まあ素敵ね。でも私。明日は午後から仕事だから」「もう仕事の話はいいよ」「うん」
  いつも近いふたりの距離は、今日は特に近い気がした。

「でも優花が大学院に行くと思わなかったなあ」ホテルをチェックイン後、部屋に入ったふたり「そう、こう見えても私はひとつのことに没頭するのが好きだから」
 窓から見える夜景、やはりいつもより美しく見えるのはクリスマスだからか。
「来年大学を卒業してからは、お互い別々の道にいくけど、これからも」「もちろん」そそのあとふたりは見つめ合った。そして......」

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シリーズ 日々掌編短編小説 702/1000

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