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不思議な一日 第1057話・12.21

「今日も楽しく幸せに過ごせた」と、内心喜んでいる。ちょうど1日が終わりベッドに入った瞬間だ。今だからこんなことが言えるのかもしれない。これが数時間前ならとてもそんな状況ではなかった。それは大きなミスをしたかもしれない恐れていたからだ。

 異変は朝から起こった。朝目が覚めたときに何か気持ちの上で違和感があった。あったが致命的な何かではなかったので、首をかしげながらも気にせずに起きあがる。そのままいつも通りの朝の支度をしていく。
 こうしていつも通りに家を出る。ここまでは何の問題はない。だがここからが違った。

「あ、今日は休みだった」と気づいたのは電車に乗って会社へ移動している最中だ。今日はてっきりシフトが入っていると思っていて、早起きして出かける準備をした後、朝の通勤電車に揺られていた。通勤の途中、あるターミナル駅に到着すると一斉に客が降りていく。その際にドア際に立っていたから、いったん外に出る。後で乗り込むつもりだった。ところがこのとき急いでいる人がいたのか、後ろから力強く突き上げられる何かを感じた。
 少しよろけながらいつもより遠くに飛ばされるように駅のホームに出る。その際、勢いよく歩いたためかポケットから紙が落ちたので、慌てて拾う。それは大切な紙、何しろ一か月のシフト表が書いてあるものだから。

 慌てて拾ったのは良かったが、このときふとシフト表の中身に視線が向かう。そのときに気づいた。「あ、一日ずれてるの」と。
 改めてよく見る。確かにそうだ。シフト表によれば今日は休み。明日が朝からのシフトだったのだ。

 気がついたら乗っていた電車はもう走りだした。本来ならこれを見て「ち、ちょっと」と慌てるだろう。だがシフトでは休み。つまり職場に行く必要がなくなった。だから電車のドアが閉まって動き出してもなんとも思わなくなっている。

「さて、どうしよう」ふと湧いて出てきた休日だ。どうしようか迷った。幸いにもスーツを着るような仕事ではなく、私服で出勤することができる仕事場である。だから極端な話、わざわざ家に帰らずにこのまま遊びにも行けるのだ。
「起きちゃったし、いまさら家帰って寝直すのもなぁ」
 思わずできた丸一日の休み。せっかくだからこのまま、お出かけをすることにした。急に決まったことなので特に予定も決まっていないが、行きたいところは山ほどある。

 こうしてお休みモードを楽しむ。気が付けばお昼が過ぎ、午後が過ぎ、やがて夕方になった。気が付けば西の方が赤く染まっている。
 丸一日お出かけをして存分に楽しんだので、あとは家に帰るだけ。でもこのときから次の日の仕事のことが頭をよぎる。本来なら今日は仕事と思い込んでいたのに、まさかの休日となり、今日は一日楽しんだはず。確かに楽しんだが、明日も早起きして出かけなければいけないと思うと、急に気分がブルーになるのだ。

 このとき手に持っていたスマホから着信を確認した。見ると職場からメールが来たではないか。このとき一瞬非常に嫌な予感がした。
「え、まさかシフト間違えて、今日出勤だったとか!」そう考えた瞬間、体が固まったのは言うまでもない。もしかして朝思いこんでいたことが正しいことで、途中からの認識が間違えているのではと。
「ど、どうしよう」とはいえ、着信したメールを放置するわけにもいかないから、恐る恐るメールを開ける。思わず心臓からの鼓動音が耳元で聞こえてくるようだ。こうして中身を見る。

 タイトルは「業務連絡」としか書いていなかった。それはいつものことだが、今の心境は余計に気になる。一瞬中身を見ることをためらうがそうはいかない。視線をゆっくりと本文に向ける。こうして一文字ずつ内容の確認を開始した。それから数秒後、全身から電気のようなものが走り、それから少しづつ力が抜けてく。
 通達として書かれていたこと。仕事上の諸事情が起こり、明日も休みとなったという。つまり次の仕事は明後日となる。
「うわあぁい、一日得した!」思わず心の中でそう叫んだ。

 すでに町は暗くなろうとしていて、一足早く町に照らされているイルミネーション。そのまま家路に急ぐ。
だがふと「これって、もしかして今年のクリスマスプレゼントだったら...…」瞬時に微妙な気持ちになった。だけど明日も休みだからゆっくり眠れる。その方の喜びが先行した。

 こうしてベッドに横たわり今日一日の出来事を思い出す。良くも悪くも不思議な日。明日はどうなるのかと思いつつ眠るのだった。

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