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777を見たらラッキーな日なのか? 第777話・3.11

「へえ、777円か。これはラッキーなことがあるかもよ」スーパーのレシートを見て喜んでいるのは霜月もみじ。急に気持ちが楽しくなる帰り道である。
さすがにスキップこそしていないが、気持ちの上では飛び跳ねながら家に急ぐ。
「さてと、ただいま」元気よく、もみじが帰ってくると「どうした、急にそんな声を出して」と、この日は会社がお休みの夫・秋夫がいた。

 おかげでふたりの子、3歳の楓の面倒をもみじは秋夫に見てもらえたということである。
「楓ちゃんは」「ああ、お昼寝しているぞ」秋夫はテレビを見ながらつぶやく。
「そうか、でもさ、今日はいいことがあるかも。へへへへ」と、もみじは相変わらずやけにテンションが高い。秋夫は思わず咳払い。
「おい、今日は何の日か知っているのか?今テレビでもやっていたが3月11日は東日本大震災の日だぞ」

「あ、あああ」我に返ったようにもみじは一瞬にして固まる。「そ、そうね。私たち運よく東北には知り合いとかいないから、その辺の大変さがわかっていないけど」
「うん、わかればいい。そうか、あれからもう11年経つんだな。まあこの事実を忘れなければ良いだろう。で、さっきから何がうれしかったんだ?」

「え、あああ、いや、ああ、大したことがないんだけどね」もみじはテンションが下がり、先ほどの事はもうどうでもよくなっていた。
「なんだ、さっきまであんなにうれしそうだったのに?」今度は秋夫が気になるらしい。いったいもみじは、何がうれしかったのかと。
「いや、ホントべつに」「おいおい、余計に気になるじゃないか、なんでもいいから教えてくれないか」
 しつこくせまる秋夫。もみじは仕方なくスーパーのレシートを見せる。「合計金額が777円だったの。ただそれだけ...…」
 帰ってきたときのテンションの高さとは正反対に非常にテンション低めのもみじ、秋夫はレシートを見る。
「なるほど、確かに777とはラッキーかもな。あまりはしゃぐのはよくないが、今日はラッキーデーかもしれん。だったら」

 秋夫はそういうと立ち上がる。そのままキッチンの方に向かった。「え?ちょっと、何?急にどうしたの」
 秋夫が突然キッチンに入るので、少し不安になるもみじ。「今日は休日だ。ラッキーな日なら昼からでもよいだろう」と秋夫はワインのボトルを持ってきた。

「ち、ちょっと、待って! まだ日が明るいわ」「何を言うか、今日は休みだぞ。せっかく777の数字を見た。これは良い日に違いない。仕事をする前に飲むとそりゃまずいが、休みの日だから明るいうちから飲んで、早く寝たほうが明日のためにも良いんだ」
「うーん」もみじは何か、秋夫の言葉の使い方ででだまされた気分になったが、ここでもみじも開き直る。「なら何かつまみになりそうなものは」とキッチンの中で何か探し出す。

「とりあえずこれでいいかな」と持ってきたのは、チーズやチョコレートなど。そしてふたつのワイングラスにワインが注がれると「カンパーイ」と、昼間からワインをふたりで飲み始めた。
「ほう、これ、形が面白いな」ワインを口に含みながら秋夫はおつまみから何かを見つける。「なに、あ、これってパンダ?かしら」すでに少し酔っているもみじは、その名前のように顔を紅葉のように赤らめている。
「パンダを発見したってとこか、ハハハハハ!やっぱり今日はラッキーだな!」もみじに負けじと顔が紅葉になっている秋夫の笑顔。こちらも名前の通りと言えばそれまでだが...…。

 こうして夕方前にはワインのボトルを2本も空にしたふたり。酔いが最高潮になってすっかり上機嫌。「おい、もう1本飲むか!」
「え、そうする。いいわ。ラッキーデーね。ボトル3本目はあったかしら」ふらつきながら起き上がるもみじ。だが起き上がった直後、もみじの酔いが吹っ飛んだ。それは楓が昼寝から起きてきたのだが、もみじをみると鼻を押さえ「ママクチャイ!」といったから。

「おう、楓か、起きてきたのか」今度は秋夫が楓に近づくが、やはり同じ態度で「パパもクチャイ!」と大声を出すと、ふたりの下から小走りに逃げてしまった。
「...…」「...…」
「もう一本はやめるか」「そ。そうね。今から夕ご飯作れるかな」酔いは覚めた気がしたが、やはりアルコールが残っているのか、ふらつくもみじ。「いいよ、お前酔ってるだろ。そこで寝てろ。俺が代わりに何か作る」と秋夫も立ち上がったが、やはり酔っているのか全体の動きがおかしい。

 ふたりは結局何も作らないまま座り込み夜を迎える。「おにゃか、ちゅいた!」と突然楓がふたりの前に来たが「いやあ、クチャイ!」とまた言われて鼻を押さえながら部屋に戻った。
「あ、楓ちゃん。あなた。これどうしたらいいの」「うーん、実はアンラッキーデーかな?少なくともこの紅葉顔が収まるまで待つか」と鏡を見ながらつぶやく秋夫。こうして複雑なときを過ごすふたりであった。





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シリーズ 日々掌編短編小説 777/1000

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