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地下道の秘密 第1050話・12.14

「これは気になるな」というわけで地下に続く階段を下りてみた。
 ここは3年ぶりに来た町である。3年たてば変わるもの変わらないものがあるが、この日は恐らく初めての場所に来たようだ。だから緑に囲まれながらときおり物珍しい建物が並んでいるが、やがて下に続く階段を見つける。 

 当初は地下街に通ずる道ではと考えた。この街は地下街が非常に発達している。一説には町中に張り巡らされていて有事の際の巨大防空壕のような役目を果たすと聞いたことがあった。
 3年前にもこことは違う中心部エリアで地下街を歩いてみて、きっかけがないか探してみたことがある。結局他の町にもありそうな地下街に過ぎなかった。「有事の際に」というのは、ガセネタか都市伝説のような類の物だろう。

 だが1か月前に知人から、「あれは本当のようだ。中心部ではなく別のエリアに行けばわかる」というようなことを聞いた。となれば確かめたくなるもの。というわけでこの町に3年ぶりに来た理由はズバリ、この町の地下街を探索に来たのだ。

 入口には何も書いていない地下に向かう道。ただここは6車線もある広いハイウェイに面していて、よく見ると反対側にも同じような地下への入り口がある。つまりこのハイウェイの反対側を渡るために作られたもののようだ。
 それでもこの地下道で立ち止まったのには訳がある。それは知人の一言だ。「その秘密を探るのは難しい。一見普通にある地下道の中に秘密の入り口がある。その先をたどれば見えてくるはず」というのだ。
 ひとつの可能性として、この地下道を歩けば、その入り口があるのかもしれない。このときそう直観した。なんだろう、第6感のようなものと言えばいいのだろうか?説明ができないが、無性にそこにある気がしてならないのだ。

 こうして階段を下りていく。階段の真ん中は坂のようになっていて、恐らく自転車を押して上り下りできるようにしているのだろう。10メートルくらいを降りたところで階段が終わり、平坦な地下道になった。地下道は塗装もされていない無機質なコンクリートむき出しの灰色の壁。すでに6車線の道路の反対側の壁が見える。そして予想通りだが、落書きが散見された。夜中に若者たちが、その瞬間の感情を元にアートを楽しんでいるのだろう。

 そのまま通路を歩く。何かヒントになりそうなものはないか探してみた。
落書きに隠れるようにして扉があるかもしれない。だが壁には落書き以外は何もない。では床はどうだ?中心付近に大きなマンホールはひとつあったが、恐らくどこにでもありそうのもの。
 この町のシンボルである絵やマークが浮き彫りになっているくらいなものだろう。

「天井には、あるわけないわな」念のため天井も見てみた。あるのは蛍光灯。このおかげでこの地下道に何もなくて歩けるわけだ。こうして10分近く地下道を見渡したが、結局手掛かりは見つからなかった。
「ち、何もなかったか。やっぱり都市伝説だったのかな。どうもここのような気がしたんだが...…」こうして道路の反対方向に通ずる地下道を、靴音を鳴らして歩いて行った。

「ふう、危うくばれるところだったなあ」しばらくすると地下道のマンホールの下から男たちの声がする。
「ここは有事の際の大事な場所。そうたやすく知られるとよくないと当局の上司も言っていた。何を目的に探りに来たのかわからないが、まあ都市伝説のままでいてもらいたいものだ」
 マンホールの下には秘密がある。そこに複数の男がいて見張りをしていたようだ。やはりその下には何かがある。
「聞きましたよ!」あえて下に聞こえるように大声をだす。瞬時に「あ、なぜ!」とマンホールの下からわ慌てふためいた声がする。
「わざと出口方向に歩くふりをして、密かに戻って待っていましてね。いやご安心、私はこの町の住民ではありませんが、同じ国民です。怪しいものではありません。何なら証明書も持ってますよ。ただどうしても秘密の地下街が気になりましたので、よろしければと思い」

 もし、この間に誰かほかの人が地下道を歩いていたら変人と思われるような行動だと思う。だが誰も通過しない。そもそも町の中でも緑が多いため住んでいる人が少ないと言われているし、その中でもこの地下道はほとんど使われていない。使われていないのになぜあるのか、それが答えのようだ。

 ここでマンホールの下の人、開き直ったかのように落ち着いた口調に代わる。「ほほう、これはこれは中々鋭い人ですな。わかりました。当局からはそういう人に対しては口外しないことを条件に、案内の許可が出ていますので、本当に見たいのならマンホールから中に入ってみてください。ただあまり期待はしない方が良いでしょうな」

 こうして許可を得たので、マンホールのふたを開けて中に入った。ちなみにこの先の事については口外しない条件がついたので、ここで終わりにする。


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