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つくってみた 第998話・10.19

「これからはノートを活用した方が良いな」などと思いながら、窓の外を眺めていると、目の前の公園で小さな子供たちが何かをしている。「あんな時代は無邪気でよかったなあ」と考えていたが、その様子を見ていると子供たちが真剣に何かをしているのが伝わった。
「気になるなあ、何か作っているのかな?」そう思いつつも、目の前の仕事があるのでそれ以降は気にせずに視線を窓の外からずらす。

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「今日はとりあえず終わりだな」夜遅くなり仕事が終わった。帰り支度をしてオフィスを後にする。ここでいつもならそのまま帰路に向かうのだが、ふと昼間見たことを思い出した。「何作ってたんだろうねえ」
 場所はわかっている。オフィスのあるビルの目の前、児童公園内にある砂場であることを。
 別に砂場だから作ったものは、子供たちが勢いよくつぶしていそうなものだが、なぜかこのときはその作っているものが残っているような気がしたのだ。

 それは正解である。砂場に来ると、形あるものが残っていった。「なんだろう」と思ってみていると、山のようなものが見える。
 最初は単なる山をみんなで作っていただけだろうと思っていたが、近づいていくとそうではないらしい。
「ずいぶん手が込んでいるな」山のように見えたのは塔のようだ。いやその周りに建物っぽく作られていて、西洋あたりの城かもしれない。

「ずいぶん手が込んでいるな。砂でこんなに作れるのか」と思って触ってみようと思ったが、寸前でやめた。もし砂でできていたのなら。触れば簡単に壊れる。それは怖い。単なる子供の遊びであるなら、夜になれば破壊しているはず。なのにあえて夜になっても保存しているのはどういうことか?

「まさか、宗教的なもの?」これだけ精巧に見えるのが残されていれば、この建物に意味があるのではと感じ始めている。だとすればもっと触れられないだろう。
 もしかしたら砂場にあるから地面にある砂で作っていると思っているが、実際には違う粘土質の土をどこからか見つけてきてそれで作っている可能性すらある。とはいえ暗くてはっきりとは見えないから実際のところはわからないのだ。

「触るのはやめよう」ここで取り出したのはスマートフォン。それで撮影してみることにした。撮影自体には何の問題もない。目の前の子供たちが作ったであろう。建物を撮影したにすぎない。そこまでやると、ようやく納得したのか、家に向かって帰ることができた。

翌日オフィスに向かう際にいつもより10分予定を早める。だから10分早くオフィスの前に来た。なぜ10分早めたのか、それは昨夜同様に砂場にある建物がどうなっているかを確かめに来たのだ。

「明るいからもっとよく見えるだろう」そうおもって砂場に来た。ところがよるとは晃に違う光景を前に思わず目を見開く。
「こ、壊れている、というか無い!」と叫んだとおりである。砂場は単なる砂場であり、何も特定の塊はない。つまり昨夜子供たちにより「つくってみた」ものそのものが、全く見当たらないのだ。

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「うーん」目の前の何の変哲もない砂場に来て思わずうなる。もしあの後に、誰か別の存在により破壊されたのであれば、多少その痕跡が残っていそうなもの。だが、実際には何も残ってはいない。
「昨夜の者は夢幻か?」これも現実性が乏しかった。もし夢を見てみたものであればと仮定したとはいえ、確実に昨夜はこの場所にいる。それすらも夢というなら致し方がないが、とてもそうとは思えない。

「いったいどういうこと?」思わず頭を抱えて悩んだ。悩んだところで何も解決しないが、自分自身の気持ちを整理するために何らかの結論がないか考えだす。

 考えたところで何も浮かばない。ただ昨日の夜は確かにあった気がした。でも今、現実的にみて何もなかい。ただそれだけ。
「ないのか、元々ないというのか、ではあの時窓越しから見えた子供たちは何者だ?」

 ふと変なことを考えた。もしかしたら何かをつくっていた子どもたちというのは現実的に存在しない霊的な存在ではと。つまり幻を見ていたのではないだろうか?別にオカルトやスピリチャルのことを肯定しているわけではないが、そうであればつじつまが付くような気がした。だけどもう昨夜見た子供たちが「つくってみた」ものは存在しない。

「代わりにつくってみたらどうだろう」今日は定時、昨日と比べてはまだ日が明るい。特に夜の予定がないので、砂場の前に来た。そして子供のように砂場の砂に手を付けると、ピュアな気持ちで土から建物を作り出す。
「あの時見たものほど精巧ではないが、とりあえずこれでいっか」と思って、砂場の半分以上のエリアを使って色々つくってみた。そして完成したが、近隣の人の反応はどうだろう。
 とりあえず、周りから何も言われないから、つくってみた。結局一睡もできなかったが、新たに作ったものは、朝になろうが昼になろうが健在であるのだ。


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シリーズ 日々掌編短編小説 998/1000

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