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みらいの校則 第1025話・11.17

「タイトルはともかく、サブタイトルは、まあそんなものはいらないな」校長は1枚の紙に書いてある文章を何度もじっくり眺めたあと、大きく息を吐く。
「私が校長となって3年、いや私が教師になり始めたとき、いやいやその前だ。まだ私がいま元気に学校生活を送っている生徒諸君と同じ若者だったときのこと。あの日から思い浮かべていた新たなる校則が、今から私が行うこのサインで確定する」

 頭の中でつぶやいた校長は、いよいよサインをしようとしたとき、かつて生徒時代に思った校則への疑問を湧いた若き時代を思い出す。
 思わずペンを横に置き、右側にある窓を見た。校長室からは近くの山が見える。ちょうど紅葉の季節だからだろうか?山肌の半分近くが赤く染まっているのだ。
「あの山は、あの時から全く変わらない」校長は思わず心の中が、自らの若き時代にタイプトリップした。

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「おいおい、こんな校則何なんだ。いったい何の意味があるんだ?」若き日の校長は決してグレている訳でも不良でもなかった。
 後に教師となり校長にまで上り詰める人物である。むしろ真面目という言葉に近いだろう。だが真面目であるがゆえに、真剣に今通っている学校が指定している校則に対して大きな疑問を持つ。
「学校というのは、授業で学問を学びながら勉強し、そして優秀な社会人になるための場所。それなのに学問とは無縁な、大人たちが勝手に理想的がものとして押し付けている校則に、いったい何の意味があるんだ!」

 若き日の校長はいつもその疑問を持っていた。だが校則にいちゃもんをつければ、不良のような存在と思われるだろうし、そもそも教師に対してたてつくほどの器量もない。ただ当時から教師の道を考えていた若き校長は密かに「いつかもしその時が来れば、絶対に校則を変えてやる。今は無力な生徒、ただその地位になるために学ぶのみ」と考えていた。

 やがて大学を出て教員免許を取り教師となった若き校長。配属されたのは母校とは違うが、当然ながらそこにも校則があり、生徒たちを縛っている。
「ばかばかしい、って言いたいが。所詮は新人教師。いまはまだ校則に対して異議を唱えることはできない。いまは末端の教師として生徒たちから愛されながら、しっかり担当している教科を教え、みんなに理解してもらうように努力するしかない。校則のことは、いつか教頭や校長への道が開けた時、その時だ」

 教師として過ごすの年月が過ぎ、ついに教頭を経て校長の地位を手に入れた。そして校長として赴任した学校は、かつて生徒として日々学んだ母校である。当時とは少し変わってはいるが、やはり校則が細かく規定されており、生徒たちを圧迫しているように感じた。
「いや、まだだ。今即座に動けば恐らく上層部である教育委員会からの反発があるに違いない。そう、まずは味方をつけよう。それから教育委員会への根回しも忘れてはいけない。私は校長としてこの学校の総責任者であり、将来の校則変更のために、政治的に動かなくてはならないのだ」

 こうして校長としての日常業務をこなしながら、校則変更のための同志、それから上層部への根回しが始まった。

 校長となってから3年が経過、すでに校則変更への賛同者は、教頭をはじめ全教師たちが同意している。
 そして教育委員会からも「非常に斬新だが、ひとつくらい実験的な学校があってもおもしろいと思っている。すでに自治体の長からもお墨付きをいただいた。というわけだ校長、すぐに新しい校則を提出しなさい。そうすれば新学期から校長が思う新しい校則を学校に導入しようではないか」

 ついに教育委員会からも了承を得た。それはちょうど先月の話である。

ーーーーー
「校長先生、そろそろサインは終わりましたか」校長が我に戻ったとき、目の前に教頭がいた。
「お、おおそうだ。今からだ。教頭先生、すまん、すまん」校長はそう言いながら慌ててペンをとりサインをする。こうして校長のサインが終わり、新しい拘束がほぼ確定した。あとは書類上の手続きの関係で教育委員会に提出などをするが、根回しが終わった今、書類上の不備がない限り問題なく新しい校則は確定する。

「これで、いよいよ校長先生の目指していた学校になりましたね」サインを見ながら教頭は口元が緩む。教頭自身校長の考えに大いに賛同しているからだ。
「うむ、そうだ教頭先生、君も良くついてきてくれたな。問題なければ来年の新学期から新しい校則が発動する。私が若き日から考えていた校則だ」「はい、では校長先生が発案した未来の校則を、私に発表させてください」
 教頭が校長に代わって発表する。
「新しい校則は国の法律および市の条例にすべて従うものであり、追加要綱は無し。つまり事実上の校則全面廃止ですね」
 教頭の発表に、校長は満足げにうなづいた。

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