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私のアイする漫画を読んで

マツモトトモ / 『インヘルノ』

個人的にすべての美的感覚は、(淘汰の末の)余白だと思っている私でございまして、マツモトトモさんのこの作品は2000年以降に出版された少女漫画で一番、物語から何からセンスでしかないと思ってる。(そんなに数多く漫画を読んでないから偉そうなことは言えないけども)。

内容は兄弟愛なんだけど、ほれたはれたとか、身体の関係にはどうやらとか、そういう次元での話ではない。ちなみに、血が実は繋がってませんでしたオチもない。まごうことなき近親相姦。

という設定そのものがどうしても受け入れられない方に勧められないのは致し方ないけれど、そうでなかったら猛烈にオススメする。

5巻で完結というのが、またいい。無駄な話数が一つもない。あと普通に集めやすい。白泉社のノーマルな形式の漫画なので、一冊、文庫本くらいの値段。


高校時代、たまたま本屋さんで一巻を見つけ、何故かものすごく気になると同時に「買え」という直感がくだり買ってみたら。モノローグ、セリフ、すべての言葉が素晴らしい上に、コマ使いの、空間の美しさ。

一瞬にして、魂を奪われた。

それから同作者の『キス』『美女が野獣』と集め出して、どれも大好きなんだけど、やっぱりこの作品が一番好き。もともと、コマの使い方やら作品の内容やら、持って生まれたセンスみたいなのが卓越していると、勝手に大好きだけど、この作品はそんな作品たちの中でも群を抜いて、雑味の無駄はないのに、ゆとりのある無駄がシリアスな物語をうまくブレンドさせていて、作中の細かいジョークが、物語の邪魔をせずに面白くって素敵。

すべての構成において、とどのつまりが卓越しすぎている。

この作品の空間をとにかく忠実に再現できる脚本と役者さんとでドラマができたらきっと、最高のものになるんだろうなと勝手に思う。同時にそうでなければ絶対に、漫画以上のことをしないでほしいなと思う。
傲慢な言い方をして申し訳ないけれど、それぐらいこの作品の保つバランスが大好きで大好きで、仕方ないのだ。

ちなみに絶っっっ対に、紙の書籍で買うべき。
見開きで空間を使われている場合が多いから。


この作者の作品は、電子で買うと、多少、日本画の余白を、無駄って言いながら切って額に飾ったような残念な感じになると思う。あと、帯のデザインも作者自身が手がけているらしい上に、やはりまた抜群に素敵なので、ぜひ書籍をオススメする。


ただ、主人公の姉弟二人ともが、作品以前に容姿、性格ともに、現実ではあり得ないレベルの高さという設定なので、漫画でなきゃ無理なことが度々起きる。なので、そういうの意味での現実性のなさが好きでなかったり、「主人公と自分(読者)をリンクさせたい」という人には向かないかもしれない。

私は、作品の雰囲気から、絶対に「私」という無関係な存在を入り込ませたくないと思っていたから好きだったけれども。
主人公のための物語というよりは、物語のための主人公、だけど結局主人公たちの物語という感じ。(私は好み)


この作品は白泉社の「AneLaLa」という2カ月に一回の連載雑誌に掲載されていたが、『インヘルノ』連載当初に刊行され、最終話の直前に休刊してしまった雑誌だから、多分、元々のマツモトトモさんのファンか、白泉社少女漫画のファンか、はたまた私みたいに偶然知った人とかじゃないと、手にする機会そのものがあまりないんじゃないかと思う。(『インヘルノ』は単行本にて打ち切りでなく、完結している。)

私もそもそもは「花とゆめ」が好きだったから、白泉社を知っていたから、出会えたわけで。そうじゃなかったら売り場にも行かなかったし、絶対に出会えてなかった。


だから少しでも、マツモトトモさんを知らない人に、
この漫画を手に取ったことのない人に、この素晴らしい作品を読んでほしいと、微微力ながらに、猛烈に宣伝したい。もし少しだけでも気になったと思ってくださった方は、リンクを貼っておくのでぜひ、一巻だけでも読んでみてほしい。

この作品は、ある意味で、文学作品でもあるから。

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