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2023年振り返りと2024年の目標

例年の習慣にて、振り返りを。


2023年振り返り

『黒博物館 館報 ヴィクトリア朝・闇のアーカイヴ』の仕事

2022年6月に、藤田和日郎先生の『黒博物館』シリーズ4作品「スプリンガルド」「マザア・グウス」「ゴーストアンドレディ」「三日月よ、怪物と踊れ」を歴史観点で解説する作品ガイド本『黒博物館 館報 ヴィクトリア朝・闇のアーカイヴ』を出版しました。

こちら2022年6月末ぐらいに企画を講談社からいただき、「藤田先生の作品ならば!」と即決して引き受けました。2022年内は調べ物を中心に原稿を書いて送りつつ、年明けからはレイアウトに当てはめる形で文字数調整を行いました。

私の研究に対するスタンスは「好きなことしかしない」なのですが、今回は「好きを超えるエネルギー」で取り組みました。なぜならば「最初の『スプリンガルド』から好きだった『黒博物館』シリーズ」だったことに加え、中学生の時に『週刊少年サンデー』を読み始め、『うしおととら』も『からくりサーカス』も「ご飯と味噌汁」ぐらいに自分の血肉として摂取してきた立場として、藤田先生の作品に関われるのは光栄以外の何物でもなかったからです。

藤田先生のために、そして藤田先生の読者のために、喜んでいただける、捧げられる本に仕上げたい。作品の魅力を伝えたい、作品に尽くしたいと、時間を度外視して作りました。

ナイチンゲールに夢中

私は基本的に調べる対象を好きになり、自分なりの魅力を見つけていくスタンスで研究をしています。

今回の本でも、たとえば『黒博物館 スプリンガルド』では日本での資料が非常に少なかったので英語資料をかなり読み、都市化における「幽霊」伝承変化の歴史や、モデルとなった貴族ウォーターフォード侯爵の人生に興味を持つなど、「100調べて1しか使わない」というような作り方をしていました(「スプリンガルド」も、もっともっと語れることが多いです)。

『黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ』でも「フランケンシュタインの死体蘇生」は「生命創造」として描かれながらも、後の世には「死者の復活」となっていることの整理や、「復活に用いられたとされる『電気』は原作で直接的描写もなく、また『電気』は現代の私たちが思うような物理的電気ではなく、それ以上の生命原理を含めたものだったのではないか」という点や、作品に散りばめられた魔術的要素(これは関わったソシャゲ『咲う アルスノトリア』のおかげで)をある程度正確に理解することができたように思いますし、その観点で楽しめました。

作品のテーマの一つとして描かれている「フェミニズム」についても、実は上記のフランケンシュタインが読んだ魔術書『オカルト哲学』の著者ハインリヒ・コルネリウス・アグリッパが、女性を尊重するテキストを書いており、それがフェミニズムの本に出てくるなど、様々な連なりを持ちました。

当然、『黒博物館 ゴーストアンドレディ』でも同じ取り組みをしたのですが、フロレンス・ナイチンゲールの存在が、私には際立っていました。藤田先生の描かれていたフローの解決能力はほぼ史実であり、彼女の伝記や資料を通じて、実際の彼女が残していた手紙や報告書を読むと、その視点や能力があまりに卓越していて、「看護」というのは彼女の人生のわずかな一部でしかないと知りました。

むしろ「看護」に限定した伝え方は、彼女の真価を伝えきれていないのです。

また彼女を取り巻く環境を理解することが当時のヴィクトリア朝社会を知るきっかけになると思い、いろいろと記事を書いていました。本に載せられなかった情報を、彼女の魅力を伝えたいと思ったからですし、彼女が置かれていた状況を自分なりに理解したかったからです。

上記は代表的なものですが、著名なはずの彼女の業績についての理解も実は様々で、かつ誤解や誤りが多く伝わっており、そうした点を正確に伝えたいというような気持ちも出てきました。

気づけば、上記を含めて年内で9本の記事を書いていました。


研究活動

さて、メイド研究です。

多くのリソースを『黒博物館』を通じたヴィクトリア朝に向けている中で、メンバーシップの方では継続して資料本の公開を続けていました。

2023年については執事ウィリアム・ランスリーの自伝の翻訳を着手しつつ、家事使用人問題をめぐる最大級の歴史資料『DOMESTIC SERVICE』の翻訳に着手し、夏コミの同人誌で仕上げることができました。

あわせて、「使用人問題」の必須資料である、復興省による「(第一次世界大)戦」後に向けた復興課題の中のレポートも公開しました。

こうした「1910〜20年代の当時の認識・声」を集約した本の翻訳を進めつつ、2023年冬コミに向けては、2007年に作成した『MAID HACKS』の改訂版を作りました。

つぶやきに書いたとおりなのですが、実はこの2023年に製作した同人誌は、「同じ時代」を扱いながらも、全く異なるアプローチのものであり、『MAID HACKS』を作った当時からの私の研究領域の変化を端的に物語るものとなっていました。


『MAID HACKS』を2007年に製作したときはまだ「使用人問題」に対する理解も乏しく、当時読み込んでいた家事使用人の自伝を中心に、彼らの声を集め、使用人の世界をある種の編集を通じて「光」「ノスタルジー」で語る方向を意図的に選んでいました。

特に、上記に記したように元にした資料の多くは1970年代に出されており、実際に使用人を経験した人々が使用人職を肯定する、あるいは否定する言葉を多く残した時期でした。共通するのは「それは終わった時代の出来事」でした。

しかし、2021年から私が公開を続けている「使用人問題」の資料はすべて「その問題が起こっている時期」に書かれたもので、従事者たちの「生の声」なのです。それは「社会問題」「労働問題」として「解決されるべき」ものとして語られている点で、『MAID HACKS』的なアプローチとはまったく異なっているのです。

どちらも同じテーマを扱いつつ、優劣はないのですが、この両方を実現する形となった点で、私のメイド研究も一定の段階を迎えたのかなと思った次第です。

同人イベント参加

これは別で振り返ります。意外と参加していました。

2月 コミティア
8月 夏コミ
9月 コミティア
10月 メイド博
11月 技術書展
12月 冬コミ

2023年取り組みたいことのレビュー

  • 商業出版を春までに行う。

    • 達成:『黒博物館 館報 ヴィクトリア朝・闇のアーカイヴ』出版

  • 誰でも気軽に読めるエピソード集同人誌『MAID HACKS』と、執事のマネジメント本『英国執事の流儀』をリブートする。

    • 達成:『MAID HACKS』改訂版同人誌を作る。

  • ゲストにお声がけして作る、同人誌的なものを。人と何かを作りたい

    • 未達:エネルギーがなかった。

  • 執事セバスチャン研究:取材とアンケートで追跡記事を書く。

    • 未達:これは2024年の同人誌の最大目標にします。

  • 『日本のメイドカルチャー史』『日本の執事イメージ史』など日本固有の文化を語る本の翻訳公開を進めたい。

    • 未達:保留で。電子書籍化を進める。

  • 表現機会(同人誌以外)を増やしたい。音声か、動画か、何か。

    • 未達:忙しかったので。Vtuberに関わりたいところです。

  • メンバーシップで引き続き、資料本を翻訳する。

    • 達成:2024年前半はナイチンゲールフォーカスなので、メイド研究はメンバーシップを中心としていく所存です。

  • 東京メイド博覧会に参加する。

    • 達成:参加しました。2024年は横浜開催に。

  • 執事自伝をもう一冊。他にいろいろと翻訳したい。

    • 未達:手が回らず。

2023年予定しなかった取り組んだこと

  • 4年ぶりに英国旅行を実現。旅行記はいくつか書いていきます。

  • ナイチンゲールへの研究意欲の高まり。資料と出会ってしまい、「英軍倉庫襲撃」の逸話の検証も始めてしまう。

2024年の目標

商業出版

  • フロレンス・ナイチンゲールの本を、2024年上半期を目処に、星海社から出版することが決まっています。今、絶賛読書中です。

  • 他に2冊、出版社と合意を得ている企画がありますが、ナイチンゲール本が仕上がってから、具体的に進めていくことになります。これは2年以内ぐらいです。

  • 絶版になった『日本のメイドカルチャー史』については、電子書籍化検討を進めることで決まり、ナイチンゲール本出版の時期にと思っています。

時代考証・作品の設定協力

2023年は、「作品が発表された後に、歴史解説を行うガイド本」を作る機会を得ました。ただ、最初から入っていれば楽だったことも当然多くありましたので、時代考証や作品の設定協力の機会があれば、行いたいというところです。作品を作るために調べるということは、自分のレベルアップにもつながりますので。

あと、ガチ目の英国メイドVtuberを作り出したいところです。

同人誌・執事セバスチャン全解明

私のnoteで最も読まれている記事が、このセバスチャン源流探しです。こちらアンケートを取って明確にすると言いながら6年が経過してしまったので、今年の夏コミ同人誌はこの本を作ります。

執事同人誌の表紙をどうしようか、ということに悩みつつ、明日ぐらいに計画をつくろうかと思います。

あと、ゲストを迎える同人誌も作りたいです。

メイドの日宿題

2022年に書いたものの、それ以降の情報をアップデートとしていないので。イーロン・マスクの影響でトレンドの仕様もだいぶ変わったと思うので、どうなるかはわかりませんが。

あと、ジャージメイド。


仕事に再度フォーカス

昨年は以下のように書きました。

前の会社を辞めた際に1年ぐらい自主的にサバティカルして、また会社員に戻るつもりでいたのですが、前述した時代考証の仕事に関わって続けることで、その判断を先延ばししてきました。

時代考証の仕事が終わった現在、時代考証・創作系で案件を引き続き探すか、会社員として積み重ねてきた仕事を続けるかを考えました。この時、研究を積み重ねてきたように、仕事で積み重ねてきた経験や実績もあるので、2023年は再び会社で仕事をする環境を選びました。

一方で課題もあります。今回、仕事を探す中で気づいたのが、前職で8年半働いている中、市場価値を高く評価される経験を積みつつ、市場では需要が高いスキルの経験がなかったりする範囲が明確になりました。

研究のアウトプットや方法論の確立はメンバーシップや同人誌で十分にできたので、それらをベースに研究・出版を続けつつ、本業の方のスキルセットの見直しと勉強の時間を増やして適応していく予定です。

その後、会社勤めを再開して、GA4やBigQueryやLooker Studioなどを使う仕事をしております。忙しいです。

まとめ

いろいろ書きましたが、今年もよろしくお願いします。

必達目標は以下。

  • ナイチンゲール本出版。

  • 執事セバスチャン同人誌を作る。

  • 英国旅行にまた行く。

【関連】過去の振り返り



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