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「#メイドの日」考察 日常化した日本のメイドブーム


はじめに

ここ数年、5/10に日本のTwitterのハッシュタグ #メイドの日 がトレンド1位を取ることが続いています。5/10が「メイドの日」とされるのは、「5月=May=メイ」、「10日=とう=ド」と読むことに由来するとされています。

2017年には、盛り上がりがネットメディアのねとらぼで記事化されました。

それから毎年、メイドの日はトレンドに入り続けています。

5/10の「メイドの日」に向けて、メイドの日の由来や流れ、そして私が観測してきたここ数年のトレンドを取り上げることで、かつて「メイドブーム」として存在したものが、いかに日本の中で日常化していったかを本テキストで考察します。

補足

本テキストの著者・久我真樹はメイド研究者です。主に英国や日本の歴史的家事使用人、そして現代の世界の家事使用人、日本のメイドカルチャーなどを研究対象としております。

メイドの日関係では、このようなものも書きました。

また、基本的にある程度、主観・記憶がたりにもなりますので、「自分が見ていた世界はこんなだよ」という方がいれば、適宜、表現いただければと思います。

私が見た最初の「5月とメイド」の関係

5月はメイド月間

私が初めて「5月はメイド」と認識したのは、2005年のことでした。当時、個人サイトで「5月はメイド月間」として、5月限定でメイドに関連するサイト・イラスト・記事を紹介する、かつてのニュースサイト的なアクションをしている方がいました。

活動は2006年にも続きました。

この試みが良かったのは、メイドの広がりをメイドスキーに伝えたことにあると思います。当時のメイドジャンルは、制服萌えから、「日本のメイドさん」を軸にした作品群(特に2000年前半はメイド主役アニメが大量に存在)や、秋葉原を中心にメイド喫茶がブームとして広がっていく時期でありつつ、『エマ』に代表される英国メイドの領域も含め、広くなっていました。

その辺りのことは『日本のメイドカルチャー史』にまとめています。

反面、ジャンル傾向があまりに異なり、「メイド」として同じ世界を見ているようでありながら、複数のメイドジャンルすべてを楽しむということを実践されている方はあまりいなかったように記憶しています。もちろん、同人イベントはこうした多様性を取り込むので、メイドオンリー即売会『帝國メイド倶楽部』はジャンル横断的でありました。

ネット軸でのニュースサイトとして越境的に全体を俯瞰するサイトは、私の記憶する限りでは「電脳メイドしづ子20GB」だけだったと思います。今でこそ「日本のメイドブーム」を広く見ている私も、この2005年ぐらいの時期は「英国メイド研究以外に時間を使いたくない」として、他ジャンルへの関心は非常に低いものでした。

そうした「全体を俯瞰する」「緩くメイドの広がりを示す」ことを行う「5月はメイド月間」は、定点観測的に当時のメイドのジャンルを示しつつ、「観測することは観測者の存在を伝える」(アクセスログに流入経路が残るので)というネットの特性を反映し、私のように他ジャンルへ関心が低かった人間も、サイトで取り上げてもらうことでこのサイトを見に行き、他のジャンルのページも見ることがありました。

5月=May=メイド認識の強化

「5月とメイド」の結びつきを、私の中で強化したものは、他に2つあります。

ひとつは前述のメイドオンリー同人誌即売会『帝國メイド倶楽部』です。制服ジャンルオンリーの即売会『コスチュームカフェ』から派生した1999年1月開始のイベントで、それが2000年5月にはメイド単独での開催に至っています。だいたい自分の中で5月のGW中の同人イベントといえば『帝國メイド倶楽部』か、オリジナルオンリーの『コミティア』でした。

もうひとつ、英国メイドを主役とした『エマ』も、メイド=5月のイメージを私に植え付けました。2007年刊行の『エマ』8巻限定版の表紙は、5月を祝う「メイポール」を、メイドたちが行う「メイドポール」が描かれているのです。

「May」と「メイド」を語呂合わせすること自体はもっと前からあったとお思いますが、私が観測できる範囲では、この辺りが最初となります。

余談ですが、「5月はメイド月間」の企画自体は2年で終わりましたが、2010年にpixivの方で、かつて主催されていた方が開催をしています。

「メイドの日」の起源探し

私が初めてTwitterのハッシュタグで #メイドの日 を認識したのは、2016年のことでした。

そこで、このハッシュタグ #メイドの日 がいつから使われているかを、Twitterの検索機能で遡ってみました。2013年より前で絞り込むと、2012年5月10日に、呟かれている方を見つけられます。

ただ、この方のコメントを拝見する限り、「伝聞」として「メイドの日」を聞いているようなニュアンスがあります。そこでもう少し幅広く、ハッシュタグではない「メイドの日」で検索しました。

すると、2009年まで遡ります。

最古のつぶやきの方は、メイド喫茶巡りをしており、それで「今日はメイドの日」と用いており、記念日的な使い方としては異なっています。2番目に古い方は、そうした「記念日的なメイドの日」がないことに触れています。

そして、2009年5月8日のこちらのつぶやきのリンク先を確認したところ、今も通じる「Mayで10でメイドの日」の情報が出てきています。

これは毎日新聞の記事で、大阪の通天閣に臨時オープンしたメイド喫茶の報道記事で、そのお店が「メイ(5月)とド(10日)でメイドの日と名づけた」となっています。

手元の新聞記事では、次のような記事になっています。メディアは初出は、こちらになると思います。

雑記帳:大阪市浪速区の通天閣3階に…
大阪市浪速区の通天閣3階に10日、メイド喫茶「メイド イン 通天閣」が臨時オープンする。英語のメイ(5月)とド(10日)で、「メイドの日」と名づけた。
通天閣と日本橋周辺で営業するメイド喫茶が共催して初めて実施する。エプロン姿のメイドがこのほどPRした=写真。営業は10、16日の2日間のみとなる。
10~16日は展望台にある幸運の神の像、ビリケンさんも萌(も)え系のメイド姿に。「お帰りなさいませ、ご主人様」。この時ばかりは“神様”がへりくだってお出迎え?【土本匡孝】

2009.05.08 毎日新聞大阪朝刊25ページ/社会面より引用

朝日新聞でも、同様に報じていました。

(青鉛筆)メイド姿のビリケン 大阪・通天閣でメイド喫茶 【大阪】
大阪・新世界の通天閣が5月(英語でメイ)10日を「メイドの日」と名づけ、10、16両日、メイド服の店員が接客する喫茶店を館内で開く。
近くの電気街・日本橋かいわいにはメイド喫茶が次々とできており、「新旧様々な文化を知り、大阪の奥深さを味わってもらおう」と企画した。
店員だけでなく、展望台に鎮座する幸運の神ビリケンさんも10~16日はメイド姿で客を迎える=写真。「神様から『ご主人様』と呼ばれる気分も味わって」と担当者。

2009.05.02 朝日新聞大阪朝刊31ページ/社会面

では、ここが起源かといえば違います。該当記事が遡れなくてTwitterアカウントも消えてしまったのですが、アキバ日報を運営していたまいくさんが、2007年には記念日申請をしようとしていたがしなかったとTwitterでやりとりされており、当時、そのブログを見に行った記憶があります。

2022/05/04追記:情報をいただき、まいくさんのブログを確認できました。日付は2007年3月16日で、確認できる範囲で最古のものです。



この「メイドの日」という概念をハッシュタグとしてTwitterにポストしていったのは、先述した2013年の方が最初であり、その後、しばらくはその方が属していた「着ぐるみ」界隈での写真の投稿が多く続きました。

2013年から2015年5月11日までのハッシュタグ #メイドの日 での検索。

#メイドの日 ハッシュタグの定点観測

こうした流れが急変したのが、私が #メイドの日 を観測し始めた2016年からと思います。そこで #メイドの日 がどれぐらいの規模なのか、定点観測した記録を示しておきます。

2016年(Twitterで検索:5/9-5/11+#メイドの日

2016年には、最終的に1日で12万ツイートを数える規模になっていました。そしてこんな感想も呟いていますので、2016年から顕著だったように思います。

その上で少し気になった過去のメモが、以下のものです。芸能人・当時ももクロのメンバーだった有安杏果さんが、「今日はメイドの日なんだ」とメイドの日を認識しており、飲料の紅茶花伝のCMでももクロメンバーがメイド服を着ている写真をアップしていました(今、ブログはリンク切れです)。

2017年(Twitterで検索:5/9-5/11+#メイドの日

2017年はあまり記録できていないのですが、芸能人や企業公式などが参加してくるようになるのが目立つように感じました。

前述のねとらぼでメイドの日が記事になったのも2017年です。

ただ、2017年は個人的な記録に失敗し、ハッシュタグをランキング化した外部サイトで1位になっているのを確認しました。

あと、2017年は「メイドの比較・系譜」を扱ったイラストで数万RTされるものが並んで登場しました。

2018年(Twitterで検索:5/9-5/11+#メイドの日

2018年は、『日本のメイドカルチャー史』を前年に出していたので、自分の方でもメイドブームの可視化をしたということで、連続ポストをしました。

そして、トレンドも1位で、25万ツイートに。

あと、当日に間に合わなかった方たちが翌日以降も投稿するので、タグは増え続けており、5/11に観測した際には、30万を超えていました。

2019年(Twitterで検索:5/9-5/11+#メイドの日

補足しておきますと、上記でFGOに言及しているのは、ちょうどこの年は、FGOのピックアップ召喚と重なっていたことで、1位にならない可能性もあったためです。FGOの方は18時から開始だったことと、クラス別召喚でキャラクター名が分散したからかもしれません。FGOは、2017年に伝説を作っているので、興味がある方は以下の記事を。

こちらについては、記事がほとんどなくなっていたと記憶しています。

ねとらぼの2018年記事はこちら。


2020年(Twitterで検索:5/9-5/11+#メイドの日

2020年はあまり記憶がなくなっています。ただ、記事ではないのですが、ライブドアニュースが #メイドの日 を取り上げたのは印象的でした。

自分のポストも、久しぶりに混ぜ込みます。

定点観測では以下の通りです。この年は日曜日で、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』のハッシュタグが猛烈に強かったです。集計時間が短いトレンドの場合、テレビ番組との相性が抜群に良いので。

ただ、2019年が30万ツイート近かったのに対して、2020年は23.1万と大きく減少しているのが気になるところです。ある意味、ブームが過ぎると新しさを失い、定番・日常化していく側面もあります。あと、前年にはなかったコロナの影響もわずかにあるかもしれません。

個人的に気になったのはこのポストです。すごい技術。

2021年(Twitterで検索:5/9-5/11+#メイドの日

2021年も記録しております。

あと、この年からでしょうか、Twitterのトレンドの上位表示をする計測ロジックが変更され、「1日での累積ポスト数」から「(多分1時間ぐらい)での風速的なトレンド数」になり、「今日」ではなく「今」を見るものに切り替わりました。このため、数が多いだけでは1位であり続けるには、定期的にハッシュタグがポストされ続ける必要がありました。

この年は、トレンドの方に「メイド服」も入っていて、見せ方の変化がありつつ、そこで取り上げられるものの変化も感じられるものでした。そして件数も、過去最大だった2019年の30万件に近づきます。

そして気づけば、過去最大数字の45.5万件に。あまりに多いので、ロジック変更で拾える範囲が増えていたのかもしれませんし、ちょっと気になっていたのですが、Vtuberや海外のイラストレーターの参加も増えているようでもあります。

あと、#メイドさんの日 (May-10-3)もあるとのこと。

Googleトレンドで見るメイドの日

こうしたいわゆる「流行・トレンド」は、Googleの検索キーワードの数量に反映されます。ピークを100として数値化したもので、関心が低くなれば減って0へと近づいていきます。それらを可視化するツールがGoogleトレンドです。「メイドの日」のトレンドを見てみましょう。

Googleトレンドで見た2004-現在までのメイドの日トレンド

このデータのうち、ピーク(山・検索需要の一時的な増大)を、仮に35以上として抽出した場合、以下も数字になります。

・2004年1月:40
・2004年4月:49
・2006年1月:53
・2006年7月:49
・2011年8月:50
・2014年5月:38
・2015年5月:21(比較用に追記)、2015年6月:29(同左)
・2016年5月:76
・2017年5月:53
・2018年5月:65
・2019年5月:53
・2020年5月:90
・2021年5月:100

ここから考えられることは、以下になります。

  1. 「メイドの日」ハッシュタグは流行する以前から、「メイドの日」の検索需要は存在していた。しかし、当時の内容はGoogleで期間指定をしても明確なものは出てこない(宿題)。Twitterの日本版開始は2008年4月。

  2. 2014年以降、「メイドの日」でのピークは5月となるが、2015年5月は閾値に満たない。また2015年の場合は6月の方が高く、この段階では「メイドの日」の検索需要が5月だけ顕著に高まるとはまだ言いにくい。

  3. 2016年に、2015年の2倍となる76となり、その時点で過去最高値を記録。この2016年に一気に広まったと考えられる。これは、上記、私がこの「#メイドの日」を認識して観測を開始した2016年と一致する。

  4. 定点観測した数字では2019年のみ前年30%ぐらいツイート数が減少していたが、この減少はGoogleトレンドでも観測(20%程度)。要因不明だが、3と4、次の5の結果から、GoogleトレンドとTwitterのトレンドは類似した傾向を示すといえる。

  5. 2020年、2021年と連続して数字を伸ばし、過去最大を更新中。この点から、現時点で「#メイドの日」はピーク、もしくはまだ勢いを増して増大しており、一定の定着を見せていると考えられる。

1000fav以上のポストのトレンド

以下、考察しようと思いますが、明日ぐらいに更新します。

5/9-5/11のメイドの日を含む期間で、#メイドの日 タグでかつfav1000以上のポストの数を数えることで、「favされているポスト」の絶対数と傾向を見てみようと思います。

・期間がメイドの日5/10の前後1日なのは、早い/遅い投稿もあるからです。
・fav1000の閾値は適当です。500にするともっと顕著かもしれません。
・「メイドの日」というハッシュタグなしでの投稿も散見するため、「メイドの日」での検索件数も載せておきます。見たところ、「メイドの日」は「#メイドの日」を含むようです。
・目測や設定などで数字が微妙にずれている場合もあります。

※人によってはセンシティブと感じるイラスト・写真がリンク先には含まれますので、ご注意ください。

2015年:#メイドの日:0件 メイドの日:0件
2016年:#メイドの日:11件 メイドの日:16件
2017年:#メイドの日:26件 メイドの日:35件
2018年:#メイドの日:81件 メイドの日:101件
2019年:#メイドの日:72件 メイドの日:92件
2020年:#メイドの日:124件 メイドの日:145件
2021年:#メイドの日:87件 メイドの日:125件

まとめ

明日以降に更新します。

もうひとつ、個人の体感値として「そもそも、メイドイラストなどメイド作品て普段からバズっていないか?」という疑問もあるので、これも調べたい。

おまけ

今年の予測:ウマ娘のメイド

追記:2022年以降の定点観測


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