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メイド研究20周年 2010年代の振り返りとこれからについて

2020年初夏ぐらいに研究生活20周年を迎えます。そこで、英国メイドや執事、屋敷の研究を何のためにやっているか、この機会に書いておきます。

※2020/03/01追記 なお、このテキストは最初に2020年年初に書きましたが、その後、2月末で会社を辞めて、ここに書いていることを少しでも実現できるように年内を費やすことにしました。文中、一部で補足します

目的

私の目的は「英国メイドイメージの作品流通を増やし、読者も増やし、読者が増えると作品流通も増える」という正の循環を作ることでした。2010年代は『英国メイドの世界』という英国メイドや執事やガーデーナーやフットマンなどの家事使用人を解説する本を通じて、以下を実現しようとしました。

1. 英国メイド表現を増やす。日本で流通する資料を多く提供し、創作者がメイド作品を作るきっかけのひとつになること。


2. 英国メイドや執事の知られざる魅力や、それらを伝える魅力的な作品を紹介することでメイドに興味を持つ人を増やす。


3. メイドや執事などに興味がない人にも、「興味がある領域と接点があるよ」と伝えることで、身近に思ってもらうこと。


4. 資料が増えすぎて自分で使いきれないものも多いため、アクセス可能な私設図書館を作ること。散逸を防ぐアーカイブ化もしたい。


ゴールとして目指したもの

上記の目的を果たした結果、どういう良いことがあるかと言えば、次のように考えていました。

1. 自分が好きなものと同じものを好きな人が増えて欲しい。一緒に語りたい。

2. 自分が好き作品を創る人に増えて欲しい。読者として楽しみたい。何か絵を描こうと思った時、メイドが選択肢に入る。

3. 『英国メイドの世界』が売れて、研究時間を確保する足場が生まれることで、より研究に没頭・無償公開する仕組みを作って加速する。

4. 英国メイド関連知識が広がり、英文翻訳で「ハウスキーパー」「フットマン」「ゲームキーパー」などが直訳されるようになる。

そのためにしようとしたこと

1. 出版活動・同人活動を行い、情報を発信する。

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2. 興味を持ってもらう軸を広げる 

 A. 『英国メイドの世界』で語り得るネタを広くする「執事とマネジメント」「業務定義」「労働環境」「転職事情」など。


 B. 同人誌・出版の体験をブログで書く。


 C. メイド喫茶でのコラボイベント(講演、本棚展示、常設本棚)

 D. 読者との勉強会


 E. メディア露出



3. 接点の拡大
 A. メイドオンリー同人誌即売会の実施(主催か、支援)

 →アクションのみ、結果出ず。

 B. メディア運営(新資料、美術展、新作などのニュースサイト)
 C. 作品データベースの作成

 →一部実施。

 
4. 日本独自のメイドブーム研究
 A. 数多くの作品を入り口に、メイドに興味を持ってもらう入り口を作る。
 B. かつてのメイドブームのいずれかが好きだった人に「好きを思い出す」機会を作る。



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C. 副次的に執事ブーム研究。


5. メイド作品を増やす試み
 A. メイド大賞を創設する。投票を行うことでメイド作品が自発的に集まる仕組みを作る。
 B. 図書館化して納本制度も作る。

明確に達成できたこと

1. 『英国メイドの世界』第7版まで増刷、8200部(2019年12月で増刷未定・実質的絶版)

2. 『日本のメイドカルチャー史』出版&武内崇さんのメイド帯絵(家宝)、『日本の執事イメージ史』出版

3. メディア露出(2011年水樹奈々さんのFM-TOKYO、2017壇蜜さんのNHK-FM、『ミステリマガジン』3回寄稿)

4. メイド喫茶イベントの実施(2010年/2014年シャッツキステ、2012-2014年月夜のサアカス&勉強会)

5. 横浜市立大学の市民講座全5回の1回として講演

6. メイド喫茶コラボ(ワンダーパーラーと、メイド写真集+短編集、1920年代のメイド服製作の実現)

7. 英国旅行・行きたかった屋敷へ行けた(2016年、2018年、2019年)

反省点

達成できたことが多くありつつも、自分の構想にリソースが伴わず、やりきれなかったことが多い10年間でもありました。

1. 出版後の2011年に転職をして慌ただしすぎたことで、英国メイドの可能性を広げる・育てる時間を十分に取れなかった。

2. メイドブーム研究で資料が広がりすぎて時間が足りず、かつ商業出版でも膨大なリソースがかかる。

3. 執事ブーム本も出版することになる。

4. ここ数年、研究フォーカスしすぎて自分を疎かにしていたら体調悪化。仕事も環境変化が重なり、2年ほど心身不調へ。昔ほど若くない。

5. 執着・提案不足で実現できなかった案件(メイド史出版記念コラボイベント、同人誌即売会企画)

6. 案件が多い割に、計画が短期的で実現できていないものが多い。アクションリストと期日設定不足。

体調については2019年後半にかけてようやく復調しつつありますが、いずれにせよ「個人で続けるには限界がある」のが見えながらも、「人を巻き込むには、持続的にパートナーへ提供できるメリットがクリアではない」というところが反省材料になっています。

実現を優先したいこと

列挙してきた反省点をクリアするには「自分の時間を作る」ための時間を作るための足場作りと、返せる価値の最大化、そしてパートナー探しになると思います。

1. アウトプットを増やすための自分の時間を作る仕組み作り
会社を辞めて研究に専念できれば良いのですが、残念ながら、働かないと生きていけない立場です。とはいえ、そのおかげで資料を不自由なく買えます。現状では仕事で得られる報酬が安定して、研究活動を上回っているため、この比率を変えていく「時間を作るための活動」をしたいと思います。

 A. 出版(電子書籍含む、同人イベントは趣味なので)
 B. ネットメディア化(アフィリエイト。きんどうさんを見習う)
 C. 会員的なもの(noteの有料化や、クラウドファンディングを含む)
 D. スポンサード(あまりイメージがない)


※2020/03/01追記 複合的理由で、会社を辞めて時間を作ることにしました。40代が次の転職先を決めずに辞めるのはリスクしかないのですが、限られた人生の中での挑戦ということで。


2. 返せる価値の最大化
支援していただく方を増やした場合に返せる価値は、以下のようなものを描いています。後者になるほど、難易度が高いです。

私にお金が集まると、メイドイメージに価値が返っていくよ、という流れを作りたいと思います。それこそ、得られる印税以上の代価が得られれば、講談社版『英国メイドの世界』や、絶版にしている同人誌を全て公開しても問題はありません。

A. ネットで、デジタル無償公開(著作権切れのメイド関連の英書の翻訳)
 →翻訳者の方への報酬

B. 会員限定のコラム・創作
→読者向けに研究成果の報告・創作の発表

C. メディア運営(同人誌込み+上記のコラムに追加)
→お声がけしたい作家・漫画家・イラストレーターの方への原稿依頼と報酬

D. 創作者向け資料データベース
→ネット上にある資料のリスト化+私が撮影・解説する屋敷の写真と部屋ごとの解説など。

E. メイドアワードの実施
→メイドクリエイターへの賞金、実績。

F. 屋敷の地図を語りまくる
→屋敷のフロアマップを見て、動線を語り、部屋の特徴を語る。

G.蔵書へのアクセス(私設図書館構想)
→研究で集めた資料を読みにくることができる実際の場所を作り、たまに私がいて、話をできるような環境。シャッツキステや月夜のサアカスでの取り組みを広げられる可能性の模索。

F. 同人誌即売会・メイド展
→メイドオンリーの即売会や、メイドに関する展示の実施。リアルの場所で、ファンと創作者の交流の場を。メイド喫茶も併設したい。

ここで列挙したものは「How」の事例です。ただ、多くのものは私個人では実現できないので、パートナーが必要です。そのためには「一緒にやっても良いと思える夢」の提示と、「関わることで持続的なメリット(お金や時間や集客)」を得られるプラットフォームを作ることが必要だと思います。

それを伝えるために、本テキストを書きました。

「ブーム」から「日常化」した「メイド」という現在

年末年始に英国メイドの新しい資料を探していると、学ぶべき領域が出てくるわ出てくるわで、焦りしかありませんでした。私がメイドイメージ研究をしている間も、英国のメイド研究や屋敷の研究のエリアは広がっていました。あるいは、私が今まで興味を持っていなかった領域に目を向けたことで調べることが山ほどでできました。

またメイドブームについても、『日本のメイドカルチャー史』で書いたように、「ブームが終わり、日常化」したと思います。これはコミケで体験したことと重なります。

かつてコミケには「メイドを描くためのサークル」が数を多くあり、最大時は100を超えたと思います。しかし、メイドの制服化・コスプレ化・日常化が進むことで、メイドを描くための作品を作る必要性は減り、自分が描きたいジャンル・テーマ(二次創作を含めて)にメイドを出せばよくなっていきました。

たとえば、「なろう小説」ではメイドが主題の作品がありつつ、多くの作品に脇役としてのメイドが出現しています。同様に、ここ数年熱い「悪役令嬢」でも「令嬢のそばにはメイドがいる」ことから、メイドの存在は珍しいものではありません。これが、「日常化」です。


リアルの場を舞台とする「メイド喫茶」も、この「日常化」の影響を受けたと思います。元々は「メイド喫茶」で体験できるメイドが、ブームによるコスプレ衣装の流通により、「文化祭」「学園祭」でも再現しやすく、さらに2010年代にはハロウィンや各地のイベント(マラソン大会など)でのコスプレとしても使われるようになりました。高価なメイド服を入手する難易度が下がっていき、世の中でのメイドの許容度も上がっていったからでしょう。

メイド喫茶自体は雑誌やテレビメディアが中心にブームとして取り上げましたが、メディアは「新奇性がある」場合に取り上げるため、必ずニュース報道は減ります。しかし、この「メイド」のキーワードを新聞記事で検索していくと明確に変化があります。ブームの時は「開店情報」だったものが、2010年を過ぎていくと前述した「各地のイベント」でのメイド服コスプレがメインになっているのです。

さらに、Twitterでは毎年5/10が #メイドの日 として、膨大なポストが投稿されて、ここ数年、日本のトレンド1位になっています。その多くはメイドイラストや、メイドコスプレです。なかには、数万RTされる規模の作品もあり、いかにメイドが受容されているかを物語っています。

私は、この「日常化」を好ましいと思っています。

再び「英国メイドイメージ」強化への取り組み

それでも、私は元々のフィールドが「英国メイド」だったこともあり、「英国メイド」の普及を、もっともっと目指したいと思います。

「英国メイドの比率を上げていく」あるいは、「今までメイドに興味を持っていない人にも、接点を見つけて、メイドや執事や屋敷に関心を持ってもらうことができないか」という「夢」です。

それを実現するためにここに列挙したような活動をしてきましたし、今後はより具体的にイメージ増加を加速する情報発信や機会創出に寄与したいと思います。

というところで、お正月の間にいくつかアクションプランを作ります。


あと、創作。元々、創作をするために資料研究をしていたので、描きたいシーンだけメイドを書く創作を再開します。

というところで、本年も活動を応援していただければ幸いです。

年始は実験的に、絶版同人誌を画像化した体裁のものを、期間限定で無償配布しています。こちらも超オススメなので、この機会にぜひ。

もっともっと英国メイド(『まぶらほ メイドの巻』のMMMをオマージュして)を。世の中に、こういうことに情熱や時間を費やす人がいた方が平和であり、楽しいと思うのです。

あとはメモです。年始の勢いを忘れないように。


いただいたサポートは、英国メイド研究や、そのイメージを広げる創作の支援情報の発信、同一領域の方への依頼などに使っていきます。