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私は溢れる涙を止めることが出来なかった。息子は、私よりずっと大人だった。

その日、
私はあまりにも悔しくて
悲しくて
家族の目も気にせずに
声を上げて
おいおい泣いたのでした。

感情をむき出しに
泣き叫ぶその姿は
大人として
親として
決してふさわしいとは
言えない姿でした。

息子に
こんな姿を見せたのは
初めてでした。

私の中にあった
どろどろしたものが
どんどん出てきて
それでも怒りと悲しみは
止まることがなくて…。

泣いても泣いても
次から次へと
涙が溢れてきて
止まりませんでした。

顔を洗って、また泣き、
お風呂に入って、また泣き、
布団に入ってからも、また泣き、
翌日の顔は悲惨なものでした。

翌朝も、
いつものように体操をしながら泣き、
ご飯の用意をしながら泣き、
いつまでも涙が止まりませんでした。

出勤途中の車の中でも泣き
もう、これ以上は
泣いてはいられない…
小学校の駐車場で気持ちを整え
仕事に向かいました。

涙の理由…それは…


中学3年生の息子は
ソフトテニス部に所属しています。

引退までのあと2~3ヶ月、
息子には、
最低一日2時間の練習時間が
確保されているはずでした。

学校の部活動の時間は
意外に短く、
時間にして30分程しかありません。
(週に1回、5時間授業の日は
 1時間半程あります)

練習時間を補う形で
部活動の後に引き続き
父母会練習という時間が設けられ
当番の父母が見守る中
1時間半程練習をし
部活動と父母会練習合わせて
平日2時間、休日3時間
という学校の決まりの中で
練習をしています。

正式には、していました。

部活動とは別に
この地域には
ソフトテニスのクラブチームがあり
あくまでもそちらは
任意加入でしたが
入部と共に
そのクラブチームに加入するというのが
暗黙のルールとなっていました。

もれなく息子も
クラブチームに入会しましたが、
自分のやりたいことが
何一つ出来ない生活に
ストレスを感じ
ついに1年後に
クラブチームを辞めました。

それは
前代未聞のことでした。
「13歳の決断」https://note.com/kudokouhei/n/n88fdde0bc002

それでも一日2時間
部活動と父母会練習の時間に
仲間と共に練習を続けてきました。

土曜日の午前中3時間は部活動、
土曜日の午後と日曜日はオフ。

しかし、クラブチームに
休みはほとんどありません。
息子がオフの間も
仲間たちはずっと練習をしています。

仲間たちに
どんどん追い抜かれ、順位は降格。
でも、それは承知の上でのことでした。

不安や怖れ、諦め
様々な感情に襲われながらも、
腐ることなくここまで
やってきた息子を
私はずっと誇らしく思っていました。

「13歳の孤独」https://note.com/kudokouhei/n/n7b77704fcf81

「本当に大切なことは何か
 ~息子の部活動を通して感じたこと~」
https://note.com/kudokouhei/n/n8b2ff81c93f5


それなのに…。

5月の予定表を見て驚きました。
父母会練習が無くなり
部活動後は、
クラブチーム練習とありました。

息子の練習時間が突然消えました。

息子以外のメンバーにとっては
父母会練習が
クラブチーム練習に変わった、
ただそれだけのこと。

もっと練習したい
強くなりたいと言う子にとっては
時間制限のないクラブチーム練習の方が
むしろ都合が良いのでしょう。

今回の突然の変更で困るのは
言ってみれば息子だけなのです。

3年生最後のこの時期に
息子の練習時間は
部活動の30分だけになりました。

これでは
ウォーミングアップで終わってしまう…

突然の変更により
父母会当番も出来なくなった私は
変更になった理由を
父母会のラインで
それとなくたずねてみました。

その日は何の連絡もなく
翌日長文での返答がありました。

何とか理由を
捻り出そうとしたのかもしれませんが
長々と書かれた文面の中から
これが変更理由と言えるものを
見つけることはできませんでした。
ただ最後に
「コーチと話し合って
 今月は、お試しでこのようにしました」
とありました。

これまで
活動の在り方などについて
学校側と父母会役員との間で
揉めることが多かったようですが、
この春に
校長先生が退職、顧問の先生も異動し
それぞれ
新しく赴任してきた先生に変わりました。

4月の父母会当番で
初めて顧問の先生にお会いした時
忙しくて
なかなか部活動にも
顔を出せていないと話していました。

子どもたちの名前と顔も
まだ覚え切れていないと。
息子だけがクラブチームに
所属していないことも
もちろん知りませんでした。

おそらく
今回のことで
息子の練習時間が
なくなったことに
先生は気付いていないのでしょう。

そして、
もっと子どもたちを強くしたい
結果を残したいと
思っている
コーチや父母たちにとって
クラブチームを辞めてしまった
息子のことなど
もうすでに眼中にないのでしょう…。

でも…

息子は
れっきとしたソフトテニス部員。
仲間と練習する権利が息子にだって…。

そう、それが
私の涙の理由でした。

それでも…
泣きじゃくる私に
息子は言いました。

「おれはね、
 皆みたいにテニスがしたくてしたくて
 やってる訳じゃやないんだ。
 あいつらに会いに行くのが楽しいから
 行ってるんだ。
 だからいいんだよ」

でも…お母さんは知っているよ…。

本当はテニスが好きなこと。

真面目に練習を続けてきたこと。

みんながしたがらない
ボールの空気入れを
コツコツとやっていたこと。

それなのに…
どうして…

「一生懸命練習してきたのに…
 突然こんなこと…
 ゆるせないよ…
 強いことがそんなに偉い?
 試合に勝つためなら
 どんなことをしてもいいの?」

そう言いながら
私は、また
びょうびょうと泣きました。

私の中から
どろどろしたものが溢れて溢れて
止まりませんでした。

この時の私には
ゆるすということが
途方もなく難しいことに
思えました。

より強くなるために
試合に勝つために
息子は本当に見捨てられた…

でも…
振り返ってみれば
チームメートはずっと温かかった…

クラブチームを辞めた後も
息子は居心地が悪くなることなく
みんなと共に楽しく練習してきました。

「◯◯(息子の名前)、一緒にやろうぜ」
そう言って
声をかけてくれる仲間が必ずいて
和気あいあいと練習する姿は
何とも微笑ましく
有難いなあと
いつも感謝の気持ちで見ていました。

私はこんなにも
怒りと悲しみでいっぱいなのに
息子はこれでいいと納得している…

今、息子が大切にしたいことは
残された時間を
チームメートと共に楽しむこと。

テニスの練習時間は
ほとんどなくなってしまったけれど、
自分が今置かれた場所で
出来る事を精一杯やる。
ただそれだけ。

クラブチームを辞め
ひたすら
自分のやりたいことに
没頭出来たこの1年間に
息子は満足していました。

自分の下した決断に
後悔はないようです。

そして、これからも
一番大切にしたいことは
自分が本当にやりたいこと。

練習時間が失われたことに
一瞬戸惑った様子は見せたものの
すぐに現実を受け入れられたのは
今、自分が一番大切にしたいことが何かを
ちゃんと分かっているからなのでしょう。

息子の方がずっと大人…

私は今でも
時折涙がこぼれると言うのに…。

私ももう少し大人になろう…。

大切なのは
私がどう在りたいか。

このどろどろとしたものを全て出し切って
私の在り方をしっかり見つめていきたい。

息子が教えてくれた…
本当に大切なことは何か…。

私は、また、
鍵穴から世界を見ていたんだな…

「小さな鍵穴から見える世界は
 思い込みや偏見に満ちている」
https://note.com/kudokouhei/n/nfc0ccf0c69f4

生きていると
本当に色んなことがあります。

こんな風に
理不尽であったり
不公平に思えたりすることも。

でも一見ネガティブに思える
このような出来事にも
ちゃんと意味があるのですね。

私は
息子が入部した時から
このクラブチームの在り方や
考え方に
違和感を感じていました。

それでも
息子が退会し
直接かかわることは無くなったのだから
あれこれ考えるのは
やめようと思っていました。

でも
今回このようなことになり
私の中にずっとあったものが
溢れ出したのですね。

私は、ずっと、心の中で
クラブチームを批判し続けていたのです。
自分が正しい
相手は間違っていると。
それは、私の中に
ずっとあり続けた怒りでした。

そんな中
息子は、冷静に世界を見、
今自分が大切にしたいものを
しっかりと見つめていました。

自分のしたいことに
没頭できる時間があることが
今の息子にとって
何よりも幸せなこと。

その幸せのためなら
少々の辛いことは我慢していこう
そう腹を括ることが
出来ているのでしょう。

息子がこれでいい
と言っているのだから…
私も、この現実を
受け入れていかなければなりません。

周りの皆と違う道を選んだ息子。
やりたいことが出来る喜びの陰には
たくさんの孤独もありました。

光と影。
陰と陽。

それでも、
この1年で、息子は逞しく成長しました。

ある日、息子にこんな質問をしました。

「自分を動物にたとえたらなんだと思う?」

その答えは意外なものでした。

「熊。ツキノワグマかな」

理由を尋ねると

「たまに毒を吐くから
(自分の思いをはっきり主張するから)
 一見怖いと思われるかもしれないけど、
 本当は誰も傷つけていない。
 それに熊は雑食だしね。
 むやみやたらに命を奪わない(笑)」

適当に答えていたけれど
何だか深いな…と思いました。

野山を一頭で歩く
熊の姿を想像しました。

その逞しく堂々とした熊の姿が
息子と重なり
私は胸がいっぱいになりました。

引退まであと少し。

最後まで
息子の選んだ道を
全力で応援していきたいと思います。

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