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小説・友だちになりたかったあの子は #01

「昨日食べたパフェ美味しかったねぇ」
「めちゃうまだったーー!また行こー!」
「なんだっけ?安納芋?」
「安納芋って芋の状態見たことないー」
「え?あのデコボコで重心どこ?ってやつじゃない?」
「芋の重心とか考えたことないーウケる」

少し離れた席で、テレビで取り上げられそうな「いかにもな女子高生たち」が盛り上がっている。昨日買った辻村深月さんの「図書室で暮らしたい」に目を通しながら、なんとなく会話を聞いていた。どうやら昨日、安納芋を使ったパフェを食べたようだ。

私たちは、県内で上から数えて5番目くらいの、大きな駅が近いことで生徒が集まっているような「やや進学校」の2年生だ。もちろん、大学受験の話はまだ聞こえてこない。

チャイムが鳴り、一限目の「古文」が始まった。さっき彼女たちがしていた会話が頭の右上くらいに残った状態で、恋愛のことしか考えていない貴族がミミズのような字で綴った文章を眺めていた。恋文を知らん誰かに読まれるなんて恥ずかしいだろうな。死んだらプライバシーなんて関係なくなるのかな。

「今言ったことに注意しながら10分で、練習問題をやってください。」

亀のような見た目をしたおじいちゃん先生と目が合った。まずい。まったく聞いていなかった。当てられたらどうしよう。脇に少し汗をかきながら、練習問題に取り組んだ。

心配をよそに、先生は誰も当てることはなかった。先生が解説しながら練習問題の答えを黒板に書いていき、気づけば授業が終わっていた。


湿度が高く日陰に入っていても息苦しい。駐輪場で、自転車の鍵を開けながら「今日も何も起こらなかった」と思った。4月にクラス替えがあり、1年生で少し仲良くなった子とは離れてしまった。2ヶ月経った今でも、たまたま隣の席になった子と話すくらいで、私にはわざわざ約束をしてパフェを食べにいく友だちがいない。

「すみません」

振り返ると、気まずそうに男の子が立っていた。

「その・・隣で・・」

どうやら隣に自転車を停めていて、突っ立っている私が邪魔になっていたようだ。

「すみません、ぼーっとしてて」

「最近、暑くてぼーっとしちゃいますよね」

「あ、はぁ・・」

本当にぼーっとしていた私は、気を遣って一言会話してくれた優しい男の子に気の抜けた相槌しか打てず、よろよろと自転車に乗り学校を出た。

学校は商業施設がある駅に近く、ほとんどの生徒が電車通学で歩いて帰る。私の家は学校を挟んで駅と反対側にあるため、学校から家に帰るときは別の世界にいく気分だ。

「誰とも仲良くなれないのは、自分のせいなんだよなぁ」

坂道を下りながらプチ反省会を行った。そうだ。誰かと仲良くなることを頭の中で繰り返し繰り返し考えていても、その悶々としたオーラが怖くて近寄れない。いざ誰かに声をかけられても、考え事に必死でイマイチな返事しかできないから繋がらない。どうすれば、自然に明るく爽やかに、友だちになりたい!と思わせるオーラを出せるんだろう。


途中、坂を走りながら登ってくる野球部とすれ違った。みんな同じ格好をしていて、同じくらい日焼けしている。髪型もだいたい同じ。

クラスメイトから私はどう見えているのか。他の生徒と同じ制服を着て、ザ・帰宅部の色の白さ。髪型は、中学生からずっと同じロングヘア。みんなと同じ見た目だ。

「ただいまー」

家には誰もいないが、とりあえず癖で言ってしまう。夜になるまで両親は仕事でいないし、弟は私が数年前通っていた中学校でバスケットボールに夢中だ。

「図書室で暮らしたい」はすっかり読み終わっていた。帰宅部で成績が悪いと何も取り柄がないみたいで恥ずかしいので、塾の自習室に行って勉強することにした。服を着替え、自転車に跨り駅に向かって坂を登った。暑すぎる。やめておけばよかった。

塾の前の駐輪場にはギチギチに自転車が停められていて、部活の終わってないこの時間帯にこれだけ自転車があることが信じられない。向かいにあるパチンコ屋に来た人がこっそり停めているような気がする。

自習室に入るためのカードをもらいに受付に行くと、見たことのある姿があった。安納芋の重心を気にしていた椎木(しいき)さんだ。目が合った。

「あ、・・」

ユーモアがあり、人の悪口を言わず、いつも友だちの輪に自然と入っている椎木さんのことが一方的に好きだった。挨拶をしそうになり、声が出たが「あ」だけで終わってしまった。声が小さすぎておそらく聞こえなかった。

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この話はフィクションで、実在する人物や団体には一切関係ありません。

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