輪廻の風 (18)
「お、おい金髪…ここで何してんだ?」
男の声は震えていた。
この4人はマフィアというだけあって、中々の強面だった。体格もがっちりしている。
しかし、カインに対して得体の知れない恐怖感を抱き、まるで蛇に睨まれた蛙の如く畏怖し体が硬直してしまっている。
「ちょっと、何の騒ぎ!?」
大きな声でそう言いながら、少女がずかずかと部屋に入ってきた。
「ジェシカさん!こいつらここで暴れてたみたいで、一体どこから入ってきたのか…。」
大の男4人がへこへこしている様子を見て、この少女が密猟船のボスなんだとカインは直感した。
ジェシカは後ろ髪をオレンジ色に染めたポニーテールの髪型で、つんけんしていて気の強そうな少女だった。
「よう三下のチンピラども、お前らの顔は何度か見かけたことがあるぜ?よく島で動物どもを狩っていたよな。まさかお前らの頭がこんなガキだとは驚いたわ。」
「ガキって、私と歳が変わらなそうに見えるけど?あなたもあの無人島で密猟をしていたの?」
ジェシカはガキ呼ばわりされてムッとしていた。取り巻きの4人も小馬鹿にした言い方に腹を立てている様子だった。
「オレはあの島に住んでたからな。回りくどい事とかめんどくせえから率直に言う、お前らミルドニアに向かってんだろ?俺たちも連れていけ。」
「なっ、てめえ何とぼけたこと抜かしてやがる…!」
男の1人が怒りを堪え切れない様子でカインに掴み掛かろうとしたが、ジェシカに牽制されるとすぐに引き下がった。
「いいわ。事情は知らないけど、乗せて行ってあげる。」
ジェシカはカインの目をジーッと見て少し考えた後、あっさりと承諾した。
「なに!?ジェシカさん正気ですか??こんな訳わかんねえガキ共の言うことなんか聞く必要ないでしょ!」
「あら、私に意見するの?この2人、私たちに危害を加える気はなさそうだし別に良いんじゃない?」
「いやでも、こんな危なっかしいガキ共を送り込んだ事があいつらにバレたら大変ですぜ。せっかく武器の取引も順調なのに…。」
「そんなの心配ないわ。私たちとあいつらは利害関係が一致しているから関わり合っているだけで、別に敵対勢力から身を守ってあげる義理はないでしょ?目的は知らないけど、この2人がミルドニアで何をしようが私たちの知った事じゃないわ。」
ジェシカは一気に言ってのけた。
「話のわかる女で助かった、じゃあお言葉に甘えさせてもらうぜ。ただし、見返りは求めるなよ?」
カインはニヤリと笑いながら言った。
「ふん、分かったわよ。そのかわりくれぐれも大人しくしていてよね?今別室に案内させるわ。」
カインはエンディを担いだまま部屋を出た。
男の1人が恐る恐るカインに近づき、部屋へと案内しようとしている。
「あーあーこんなに散らかしやがって、それにしても珍しいですね。ジェシカさんほどの人がこんなにツッコミどころだらけの状況を放棄して、あんな若造の言うことを簡単に聞き入れちまうなんて。」
納得のいかない様子の男の1人が、ジェシカの決定に対して遠回しに異を唱えた。
「おもしろいことになりそうな気がしてね。」
いつもつんつんしているジェシカが珍しく笑っていた。
しかし、その顔はすぐに曇った。
「あの金髪の男は、あまり刺激しない方がよさそうね。」
「そ、そうですね…。ミレドニアまで後1時間ちょっと、気引き締めていきます!」
エンディとカイン、マフィア、バレラルク王国の軍隊と保安隊の連合体。
それぞれの思惑は違えど、3つの勢力がミレドニアに向かっていた。
これから起こる戦いなど、いずれ巻き起こる大型ハリケーンのような一大旋風に比べたら、ほんのそよ風みたいなものだった。
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