輪廻の風 (20)


エンディとカインは瞬く間に岩山の頂上までたどり着いた。

下を見下ろすと、ダルマインの部下と同じ戦闘服を身につけた兵隊達が数十人、両手で機関銃を支えながら徘徊していた。

そして島の中心にそびえ立つ白い塔をジーッと見つめた。

「あの無機質な建物が奴らの根城だろうな、ラーミアって女もあそこにあるはずだ。」

「あの中にラーミアが…。」

「思ったより警備はザルだな。あの物騒ななりの兵隊どもから戦闘服を拝借して変装でもするか?そうすれば怪しまれることなく建物に侵入できるぜ?」

カインはとりあえず一つの案を出し、それをどのように行動に移していくか、これから2人で作戦を練ろうと考えた。

が、そんなカインの提案は虚しく終わった。
気がついたらエンディの姿がなく、カインは唖然とした。

まさかと思い岩山の絶壁から下を覗くと、エンディは岩山から飛び降りて、既に地上にいた。

「チッ、あのバカっ!」
カインは呆れ果て、苛立っていた。

「痛えっ!」
50メートルほどの高さから飛び降りたため、エンディは足を痛めた。

そして、塔に向かって一直線に走り出した。

「あ?なんだあいつ?」
「おいマジかよ、侵入者か?」

警報が鳴った。嫌な音だった。
兵隊達は一斉に、エンディに向かって乱射したが1発も当たらない。

いかに訓練を受けた兵士でも、暗闇の中を猛スピードで走る的に命中させるのは至難の技のようだ。

「なんだよ、うるせえなぁ。」

塔の入り口のすぐ近くに、懲罰房がある。
一階建ての錆びた鉄筋コンクリートで建てられたこの懲罰房も、また無機質な建物だった。

埃まみれでゴキブリが巣食う劣悪な房の一室に、ダルマインが収監されていた。

どうやら外の騒ぎに気がついたようだ。

「オレ様をこんな所に閉じ込めやがって…!どうせバレラルクに侵攻する時だけオレに指揮をとらせて、後はもう用済みってか?チキショウ…!」
酷く嘆いている様子だ。
窓もなく、光が一切差し込まない独居に長時間隔離され、かなり精神的苦痛を味わっているようだ。

すると、突然鉄格子が開き兵隊が3人入ってきた。

「あぁ?何の用だよ?」

「提督、俺ですよ!」

「お、おめぇら…!」

よく見ると見覚えのある顔ぶれだった。
彼らはインダス艦の乗組員で、ラーミア誘拐の時も行動を共にしていた兵隊達の中でも特にダルマインを慕っている3人だった。

「おめえら、助けに来てくれたのかぁ!?」
嬉し涙をグッと堪えながら言った。

「はい、どうやら侵入者が現れたらしくて、みんなそいつの迎撃に手一杯のようです。その隙に救出に参りました!」

「ありがとなあ。お前ら頼りねえからよう、助けに来てくれるなんて思わなかったぜ。とりあえずタバコ一本くれや。」

部下からタバコを受け取り火を付けさせた。

「提督、のんびりしてないで逃げましょうよ。俺もうあんな奴らの言いなりになるのはうんざりですよ!」
幸せそうな顔で一服しているダルマインを急かすようにして言った。

「逃げるったって、どこへ?ラーミアを誘拐した上にあいつらまで裏切ったらどうなると思う?オレはバレラルクからも旧ドアル軍からも追われる身になっちまうぜ?」
ダルマインはいつになく深刻そうだった。

「たしかに…。でもこのまんまじゃ死ぬまで奴らに利用され続ける…。」

そんな会話をしていると、外から大きな声が聞こえた。

「ラーミアー!助けに来たぞー!」

たしかにそう聞こえてダルマインは驚愕し、ある事を閃いた。

「え?今の声ってエンディじゃねえか?」
「まさか生きてやがったのか…どうやってここまで?」

「落ち着けおめえら、どうやら天はオレ様に味方したようだぜ?」

「と、言いますと?」

「ラーミアを人質にとって逃げりゃあいいんだよ、そうすりゃ誰もオレらに迂闊に手は出せねえ筈だ。」

この上なく極悪な表情でニヤリと笑いながら言った。まるで勝利を確信したような笑みだった。

「なるほど!でも人質にとるって、どうやって?」

「あのエンディとかいうバカな小僧を利用するのさ。そうと決まったら行くぞおめえら!反逆の狼煙をあげろ!」

「へいっ!」

ダルマイン一行は懲罰房を出て、エンディの声のする方向へと向かった。













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