渡辺浩弐
※完結しました! 全7話です。 全部読むよ、という方はこのマガジンをご購入ください。
※この作品は2024年1月に開催される ニュー新橋ビル商店街・秋葉原駅前商店街振興組合主催のイベント 「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」のために書き下ろしたものです。 ----------------------------------------------- 営業で一日歩き回り、疲れ果てていた。軽く一杯飲んでいこうと思った。ネクタイを緩め、なじみのビルに立ち寄った。 細い通路を歩いていると、ふと古めかしい木製ドアが目に
※この作品は2024年1月に開催される ニュー新橋ビル商店街・秋葉原駅前商店街振興組合主催のイベント 「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」のために書き下ろしたものです。 ----------------------------------------------- 父親は多趣味の人だった。機械いじりや音楽・映画鑑賞などいろいろなことを嗜み、休みの日にはよく秋葉原に出かけていた。 「あの街には、図書館にもインターネットにもないも
※この作品は2024年1月に開催される ニュー新橋ビル商店街・秋葉原駅前商店街振興組合主催のイベント 「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」のために書き下ろしたものです。 ----------------------------------------------- ビルに入ると、いつものようにジューススタンドに向かった。野菜や果物をその場で絞ってくれる。僕のオアシスだ。 フレッシュジュースの店は最近では珍しくなくなっているが
※この作品は2024年1月に開催される ニュー新橋ビル商店街・秋葉原駅前商店街振興組合主催のイベント 「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」のために書き下ろしたものです。 ----------------------------------------------- 原色に原色を重ね塗りした油絵のように、様々な店舗が、そして様々な商品がひしめきあっている。家電、パソコン。ゲーム、コミック、同人誌。フィギュア、カード、アイドルグッ
※この作品は2024年1月に開催される ニュー新橋ビル商店街・秋葉原駅前商店街振興組合主催のイベント 「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」のために書き下ろしたものです。 ----------------------------------------------- 「あのオムライスをもう一度食べたい」 病床の老人の、それが最後の望みだった。 彼はその人生で巨億の富を築き上げていた。だけでなく、多くの人々を助け、育て、尊敬と信
※この作品は2024年1月に開催される ニュー新橋ビル商店街・秋葉原駅前商店街振興組合主催のイベント 「しんばし×アキバ カコ↓イマ↑ミライ展〜過去を知って、今を感じて、未来を描く〜」のために書き下ろしたものです。 ----------------------------------------------- おじいさんのラジオを、修理してみようと思った。 それはプレステ5より大きくて、海賊の宝箱みたいな代物だった。中身は、部品を一つ一つハンダ付けして作ったものだと言っ
※収載書籍『プラトニックチェーン(上)』→クリック ------------------------------------------------ 「もしもし! お母さん? お母さんだよね!」 「そうよ、待っててくれたの?」 「もちろん! 朝からずっと待ってたんだよ。あのね、あたし、今度クラス代表で弁論大会に出ることになったの、それとね、お父さんがこないだ青い自転車買ってくれて、それでええと」 「うふふ、時間はたくさんあるから、ゆっくり話しましょう」 「だって、1年に1度
※収載書籍『令和元年のゲーム・キッズ』→クリック ----------------------------------------------- 「IDも無し宿も無しの生活はなかなか過酷です。逃亡者は必ずそのうち家族のところに戻ってくるものです。家族ならわかってくれる、かばってくれるんじゃないかなんて甘い考えでね」 捜査官はそう言い残して帰っていった。その直後のことだ。 「ただいま」 おどおどしながら、両手をすりあわせていた。 「お父さん......」 ヒゲが伸び、顔
※収載書籍『プラトニックチェーン(上)』→クリック ----------------------------------------------- 「今日寒いよ。マック行こマック」 「ここでなきゃ相談できないことなの。ラッキー、ベンチあいてた。ねえ、この公園、ナンパのメッカって言われてること知ってた? 特にこのベンチ、座ってると必ず超かっこいい男の子から声かけられるってヒソかに有名なんだよ」 「前にあんたから聞いたよ」 「それだけじゃないの、このベンチには、もうひとつ伝説が
※収載書籍『2013年のゲーム・キッズ』→クリック ----------------------------------------------- 突然の事故で妻を亡くした。駆けつけた病院で遺体を目の前にしても、悲しみすら湧いてこなかった。あまりにも突然のことで、事実を受け入れられなかったのだ。 呆然と突っ立っているところに、男が声をかけてきた。最初は葬儀屋の名刺を出し、儀礼的な言葉を並べた。 ところが霊安室で二人だけになると、彼は小声で、本来の目的を告げてきた。葬儀
※収載書籍『1999年のゲーム・キッズ(上)』→クリック ----------------------------------------------- 「ただいま。寂しくはなかったかい?」 勉強机の上に立っているミニチュア少女に僕は、話しかけた。 彼女の身長は、25センチメートル。 「寂しいわけないわ。だって私、人形だもん」 「いや、君はただの人形じゃないよ。たしかに、生きてるんだ。少なくとも、僕にとってはね」 「あら、ありがとうウフフフフ!」 彼女は小さな小さな白
※収載書籍『1999年のゲーム・キッズ(下)』→クリック ----------------------------------------------- 「こんばんは、『ニュース・ゼロワン』の時間です。さて、あの大震災からちょうど一週間が経過しました。今日は『大地震で原発はどうなったのか?......その真相にずばり迫る!』と、題しまして特集をお送りします。政府にも、専門の学者たちにも、地震くらいで壊れるはずがない絶対に大丈夫、と言われていた鉄筋のビルディングや高速道路の高
※収載書籍『2000年のゲーム・キッズ(上)』→クリック ----------------------------------------------- 極上のコニャックを舌のうえで転がしながらリモコンを手に取る。画面のなかに、別世界が映し出される。アジアの片隅にある発展途上国の、農村風景だ。道ばたに、泥の色の子供がへたり込んでいる。7〜8歳くらいの、あどけない顔をした少年。服は強い日差しに焼き焦がされたかのようにぼろぼろだ。カメラは少年の姿を大写しにする。その瞳がじっと
※収載書籍『1999年のゲーム・キッズ(上)』→クリック ----------------------------------------------- 「渡辺さん、もう少し派手な、明るいハナシを書いてくださいよ」 「............」 「ワクワクするような学園モノとか、いや宇宙戦争モノでもいいんすけど、どっちにしてもピチピチの美少女が出てこなきゃダメですよ。最近はそーいうのじゃなくちゃ〝熱中率〟取れないんですよ」 「熱中率?」 「そう、熱中率。熱中率を調査するよう
※収載書籍『1999年のゲーム・キッズ(下)』→クリック ----------------------------------------------- 君はいま、家に帰り着いたところだ。もう夜も遅い。君はくたくただ。 「お帰り。ご飯できてるわよ」 母親は、台所にいる。 「そういえば、ゲームボーイ忘れていったでしょ。だめよ、行き帰りの時間も無駄にしないで、ちゃんとゲーム練習しなくちゃ」 君はそれには応えない。うつむいて、もくもくと箸を口に運んでいる。 「ちゃんとゲーム
※収載書籍『1999年のゲーム・キッズ(上)』→クリック ----------------------------------------------- 「お母さん、ごはん作っといたから食べてね」 「いつもすまないねえ」 「うん。今日は日曜日だからおじいちゃんのお墓参りに行ってくるよ」 出かけていく息子のうしろ姿を寝床から見送りながら、私は心のなかでもう一度わびた。 けなげな子。私がこんな身体だから、何ひとつ楽しい思いをさせてあげられないことが不憫でたまらない。 ずっ