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SS「クリスマスの呪い」

※収載書籍『プラトニックチェーン(上)』→クリック
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「今日寒いよ。マック行こマック」
「ここでなきゃ相談できないことなの。ラッキー、ベンチあいてた。ねえ、この公園、ナンパのメッカって言われてること知ってた? 特にこのベンチ、座ってると必ず超かっこいい男の子から声かけられるってヒソかに有名なんだよ」
「前にあんたから聞いたよ」
「それだけじゃないの、このベンチには、もうひとつ伝説があるの。何年か前のクリスマスのこと。ここでカレシからプレゼントされた指輪をはめようとした瞬間、心臓麻痺で死んじゃった女の子がいたって」
「あ、聞いたことあるかも。ええと、その子の呪いで、何かが起こるんだっけ」
「左手の薬指に指輪をつけてる女の子がここに座ると、指輪が消えてなくなっちゃう。ユーレイが嫉妬するんだって」
「あんた、それ信じてるの?」
「そう。あたしにも来ちゃったの。そのユーレイが。ねえ、ケンイチに指輪もらった話、したっけ」
「ああ、それなら100万回聞いたよ」
「それが、消えちゃったの。おととい『なんだつけてないのかよ』って言われて、初めて気がついた。その時は、忘れてきたってとぼけたんだけど。いつの間になくしたのか、ちっとも記憶がないのよ。今は似てる指輪見つけてほら、ダミーでつけてるけど、あれ裏にケンイチが自分でネーム彫ってくれてたんだよね。いつか絶対ばれちゃう」
「正直に言えばいいじゃん」
「言えっこないよ。大事な愛のしるしなくしたなんて」
「はいはい」
「ねえ、あたしマジで悩んでるんだから、ちゃんと聞いてよ」
「って言いながら目はどこ見てんの。そういえばこないだここ来た時も、あんたに誘われたんだよね。かっこいいダンサーがいつも練習してるから、見に行こうって。そんなことばっかりやってるから、あんたきっとバチが......」
「そうあの日のことよ。あたしの指輪が消えたのは」
「なんだ、覚えてるじゃん。さっきはおととい初めて気付いたって」
「だから、調べたの。てゆーか調べてもらった。例の人に」
「ああ、プラトニックチェーンね。ネットの女神サマ」
「そう。なくした指輪を探して下さいって。指輪つけてケンイチと撮った記念写真があったから、その薬指のところ使ってサーチしてもらうことにしたの」
「世界中を?」
「ううん、ポラだったから粗くて、全世界検索は無理だった。似た指輪がたくさん出てきてしまうからって。だから範囲を絞ったの。あたしの部屋の中に。こういうなくしモノって、たいてい身近なところにあるものだし」
「そういえばあんたの部屋、ゴミ箱みたいだもんな。そりゃ埋もれるわ」
「あたしの部屋、防犯カメラついてるから。この1カ月の映像をハッキングしてもらったの。部屋にいる時のあたしの姿を全部サーチしてもらった。自分では記憶ないけど、指輪を外して、それをどっかに置いたかしまったかした瞬間の映像ないかな、と思って」
「なるほどね。不精なコにはいい探し方だね」
「結局、指輪は部屋の中にはなかった。でもある日の映像でさあ、出かける時指輪つけてて、帰ってきた時につけてなかったの。それが、こないだあんたとここに来た日。やっぱり、ここで指輪が消えてたのよ」
「ふうん」
「もっと驚いてよ。チョージョーケッセンだよ」
「チョージョーゲンショーでしょ。あの日ねぇ。あ、確かこんな感じでここに座ってだべってたら、ダンサーの男の子が寄ってきて」
「そうそう、めっちゃかわいい子だった」
「あんた超舞い上がってたよね」
「おっ」
「あの子、こっち来る。デジャブーってやつ?」
「こないだのよりかっこいいかも!?」

「あーあ。大失敗。逃がした魚は超大きいよ。それにしても、いきなりラーメンに誘わないでくれる?」
「だって寒いから思わず。あんたこそ、えーカレシなんかいませんよう、なんて白々しく」
「そんなのテッパンじゃん」
「手ぇ見ればバレバレだって。たとえダミーの指輪でも、左手の薬指につけてるんでしょ......あっ」
「どうしたの」
「あんたの薬指」
「はっ。指輪が消えてる。うそー。やっぱりクリスマスの呪いは本当だったんだ。きゃー」
「ね、ねえ、その、あんたの脇の木、見て。ひ、光ってない? クリスマスツリーみたいに」

「ひええ本当だ。こ、これも呪いの影響?」
「ちょっと待って。なんか変。枝のあちこちにキラキラしたものがくっついている。何だろう。ゆさぶってみるか......うわっ」
「な、何か落ちてくる。雪みたい。何これ」
「これ......指輪だ。全部指輪。すごいまだ落ちてくる。何百個もある。そうだ、わかった!」
「どういうこと。これも呪い?」
「あんた自分でやっててわかんないの。左手の薬指に指輪はめてる女の子がここに座ってる時、イケメンにナンパされたら。女の子、カレシいないフリしたくて、無意識のうちに指輪を外してぽい、って」
「投げちゃうのか。それがちょうどこの木にひっかかる。げー。なんてこと。あたし知らないうちに2度もやってたのかー」
「そして同じことをしてたのはあんただけじゃないってことね」

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