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中国現代小説「長恨歌」、原書で「キム・ジヨン」、「リサーチのはじめかた」 -読書記録10月 

  • 10月に読んだ本を読んだ順に記録


1.「長恨歌」

王安憶 著、飯塚容 訳  2023/9/1発行

余華の「活きる」を読んだことがきっかけで中国現代小説にはまり、余華、閻連科を立て続けに読み、最近は作家が誰であれ書店で新刊を見かければ出来るだけ読んでいる。
「塞翁が馬」みたいなストーリーが多くて、一方的に辛かったり楽しかったりすることが無い。そこがおもしろい。

「長恨歌」は1940年代の上海で主人公の王琦瑶(ワン・チーヤオ)が美人であるがゆえに出会う幸運と悲劇に翻弄される生涯を40年にわたって描いた長編小説。

物語はハトの視点という俯瞰の風景描写からはじまる。
第一章では、弄堂(ロンタン)という上海の伝統家屋の街並みや人々の様子について、においや手触りが感じられるほど高精細な描写がずっと続く。物語の導入として長すぎるような気もするが、ここでしっかり時代感や背景が描写されるからこそ後に続くドラマに没入してしまう。

40年が経ち、美女としてもてはやされた王琦瑶の栄光の日々は過ぎ去り、華やかだった頃の面影は探せないが、ハトの子孫たちは変わらず弄堂から飛び立つ。

600頁を超える長編なので、年末年始にまとめて休みが取れたら一気読みをおすすめ。栄枯盛衰物語の余韻からしばらく抜け出せないこと間違いなし。

2.「リサーチのはじめかた」

トーマス・S・マラニー、 クリストファー・レア 著、安原和見 訳 2023/8/30発行

研究の進め方ではなく、「何を」研究するのかに着目した本。

いつも気になって頭から離れないこと、なぜそれが気になるのか「自分証拠」を集め、そこから「問い」みつけブラッシュアップし、研究に値する問題に育てていく方法がわかる。

読んでみて、これは大学生や研究者でなくても、何かしら事業やプロジェクトをはじめたいと思っている人には有益な本だなあと思った。

「これ一冊でわかるヨ」的な「さるわか本」ではなく、読んだ後は、あくまでも真剣に自分自身の興味を探っていかなければならない。そんな真面目さが良いと思った。

3.「素晴らしい映画を書くためにあなたに必要なワークブック シド・フィールドの脚本術2 」

シド・フィールド 著 2012/3/15発行

フィルムアート社が55周年を迎えたということで、池袋ジュンク堂に特設コーナーが出来ていた時に見つけた。
脚本ってどうやって作るのか、どんな構造なのか前から知りたかった。

例えば、奥行きのある登場人物を作る方法。
人物の年表をつくる、どんな仕事をしているのか、個人的な人間関係はどうなっているか、一人の時に何をしているか、登場人物がアクションを起こすその一日前は何をしていたか等、画面(脚本に書かない)に現れない部分まで作っておくこと、など興味深かった。

映画やドラマを見るときに、なるほど~と思うポイントが見えてくる。脚本を書きたい人じゃなくても、読んでみると発見があっておもしろいはず。

4.「82년생 김지영(82年生まれ キム・ジヨン)」

 조남주(チョ・ナムジュ)  著

女性が経験する社会的な圧迫、不利益、不平等、恐怖をキム・ジヨンという、ある平均的な女性の体験として描き、日本でもベストセラーになった本書。

初めて「キム・ジヨン」を読んだ頃の私といえば、男性社会に順応した生き方をしていたせいか、あんまりピンとくるところがなかった。さらーっと読んだ記憶。
ところが読後「なんか変」と思うことがじわじわと増えてフェミニズム関連本を読み始め、いつしか数十冊になり、私の世界が変わった。

日本版と原書
どちらも女性の顔が見えない

改めて原書で「キム・ジヨン」を読むと、言語を直に吸収しているからなのか、ジヨンにふりかかる理不尽な出来事を自分ごとのように感じて怒りがこみあげ、本がアンダーラインだらけになってしまった。

「キム・ジヨン」にはほとんど救いがなく暗い。
現実はここまで極端ではない、という否定的な感想もあるようだ。が、女性が直面する現実を効果的に社会に訴えるためには、練られたコンセプトと簡潔なストーリーが必要だったのだと思う。問題はすぐに矮小化され曖昧になってしまうものだから。
付け加えていうならば、ジヨン本人は女性を狙った犯罪に巻き込まれたりしていないので、むしろ現実よりマイルドだとさえ言える。

2023年1月13日発行 94刷!

ちなみに映画版は原作と違い希望があるラストになっている。映画しか観たことがない方には、ぜひ小説も読んで欲しい。

5.「くもをさがす」

西加奈子 著  2023/4/30 発行

著者がコロナ禍のカナダで乳がんを治療し完治するまでの記録。

語学が完全ではない状態で治療の説明を聞いたり、病院と行き違いがあっても何が原因かはっきりわからない、コロナ禍で医療のリソースがひっ迫したり、大変困難な状況だったことがよくわかる。

適切な治療を受けるためには他人任せにせず、自分が納得するまで食い下がる根性が必要。病気の身で根性を発揮するのは本当に大変だったろう。

人間は「分からない」という状態が一番不安なもの。
家族や自分にそんなことがいつ起きてもおかしくない。
読んでおくと予備知識として、きっと支えになってくれるのではないかと思えた。
貴重な体験を共有してくださったことに感謝したい。


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