短編小説『幸枝は諦めている』
今朝の朝方新聞は阿武政権時代の公文書改竄問題について切り込んでいた。もう5年も前の話であるが今思い返してみても腹立たしい。あぶちゃんこと阿武真介首相の妻のたきえもんこと滝枝夫人が食べ残したとされる盛そば問題。たきえもんが公費で盛そばを食いまくった挙句、注文しすぎて食べ残した事実が明るみに出たが、事実は揉み消された。あぶちゃんが盛そば代を公費で立て替えていたのだが、その事実が記された公文書が改竄されていたのである。
世論の主だった意見はといえば「まだそんなことやってるから朝方新聞はつまらないんだ」「だいたい盛そばくらいのことで大袈裟なんだよ」「コロナ禍にもっと大事なことがあるだろう」まぁ、だいたいこのような論調が主流であるがいやいやちょっと待てと奥井は思う。
「こんな人の道にもとるようなことを平然と行ったうえ開き直る政権やさかいに何をやっても信頼されへんのやんけ」奥井は焼酎ハイボールをぐびぐび飲みながら妻の幸枝に向けてくだを巻いている。
「あー、ほんまにー」
こうなった奥井に何を言っても効かないことは十年来の付き合いである幸枝はよくわかっているから生返事しかしない。奥井もその生返事の意味は深く考えない。
「だいたい盛そば問題だけと違うんやで。かけそば問題もあったし佐倉オミールの会の一件かてなんにも解決しとらん。あぶちゃんは息吸うみたいに公文書を平気で改竄しよる。あれは未来の国民に対する冒涜でしかない。公文書を改竄するっちゅうのは歴史を捻じ曲げるっちゅうことや。こんなこと許されたらあかんのや!」
「あー、ほんまにー」
幸枝はもう諦めている。生返事をしているとさっきからつけっぱなしにしてあったテレビでは3年ほど前に人気を博した映画が始まった。昭和のファッション業界が舞台らしく、デザイナーたちがやたらタバコを吸う。最近タバコをやめた奥井は喫煙シーンを観ていると吸いたくて吸いたくてたまらなくなる。それでなくともタバコが健康を著しく害することが明らかになった現代においてこのような喫煙シーンを民放とはいえ、誰もが無料で気軽に観ることができてしまうテレビにおいて、深夜枠でもあるまいし、そのまま垂れ流すというのは果たしていかがなものであろうか!
焼酎ハイボールをぐびくび飲みながら奥井は幸枝に向かって「けしからん!」と言い放った。「昭和のファッション業界の舞台裏を見せるんかなんなんか知らんけどタバコ吸うシーンをわざわざ入れなくてもええやろ。いまは令和やぞ。映画館も電車も自宅でさえ換気扇回しても吸うたらあかん言われてる令和の時代にあんなにスパスパタバコ吸いまくってる映画を放送したらあかんやろ。そこはちゃんと今の常識に合わせてタバコなんか無かったことにして撮らんかったらこんなもん、あかんやろ!」
「あー、ほんまにー」
幸枝はもう諦めている。
#令和4年1月25日 #コラム #エッセイ #日記
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