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短編小説『同じ速度の僕ら』

 十六時頃に壬生から烏丸へ、これは西から東へ歩いているんですが、やや不穏な色の雲はありながらも、東の空は気持ちいいくらい晴れていて、それを僕はサングラス越しに眺めていたのですが、どうやらツイッターの鳥が翔んでいそうな色の青空だったみたいです。
 
 時折、壬生団地のベンチに寝っ転がって真上の空に目を遣ると、地球が丸いんだということと、雲が動いているのだということが確認できるんですけど、今日みたいなお天気の日に歩いていると、逆に全く雲が動いていないように感じることがあります。
 あれはたぶん、僕の歩く速度と雲の動く速度がちょうど同じで、同じ具合に西から東へ動いているから全く動いていないように錯覚するのではないかと仮説を立ててみました。この仮説を立証する術を僕は持たないので、とりあえず、この仮説が正しいものとして話を進めます。

 同じ速度で同じ方向に進めば時は止まる。
 そういえば、どれだけ一緒に過ごしていても苦にならない、その人と一緒にいると時間が止まっているんじゃないかというくらい楽しい人がいます。時計を見ることも忘れ、そういえば、と思って確認してみたら、え?もう五時間経ってる?なんていう場合、たぶん、時計を確認するまでは時が止まっているんじゃないかと思う。なんてことを考えてしまうのは、つい最近、「シュレーディンガーの猫」のことを知ったからです。僕はそれを長男から聞きました。子どもって本当にどこで覚えるんだっていうことをどこからか覚えてくる。僕なんか、こうやって思い出しておきながら、もう「シュレーディンガーの猫」が何だったか忘れてしまっているというのに。

 今日の夕方の雲は僕と同じ速度すぎて止まって見えました。止まっていると絵みたいに見えるから不思議です。背景の青空と白い雲の境界には、くっきりと描線が入っているようでした。八月の青い空でした。

 描線が分かつ青と雲の峰

蠱惑暇(こわくいとま)

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