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令和6年読書の記録 安部公房『砂の女』

 砂丘へ昆虫採集に出かけた男が、砂穴の底に埋もれていく一軒家に閉じ込められる。考えつく限りの方法で脱出を試みる男。家を守るために、男を穴の中にひきとめておこうとする女。そして、穴の上から男の逃亡を妨害し、二人の生活を眺める部落の人々。ドキュメンタルな手法、サスペンスあふれる展開のなかに人間存在の象徴的姿を追求した書下ろし長編。20数カ国に翻訳された名作。

↑文庫版裏表紙の解説引用

 とりあえず、安部公房はアー写(っていうんですかね?)の雰囲気に親近感があるんです。

うーん、親近感

最近、以前買って読んだ『題未定』という作品が文庫化されたのを機にもう一度、それを読み返してみようかと思ったんですが、どうせ読み返すならまず『砂の女』からやろう、ということをどういうわけか思いまして。明確な理由がないのに「どういうわけか」そうしたいと思うときって、どういうわけか、それが正解なんですよね。だから改めて読んでみました。

 コロナ初年頃、朝の番組を担当しており、週に一冊、書籍を紹介するコーナーがあり、新刊旧刊関係なく「いま読むべし!」という本を紹介しており、紹介するにあたり私も読んでいたのですが、そのとき、紹介する用に読んだのが『砂の女』との出合い。どうしてあの頃、「いま読むべし!」と思ったのかは忘れましたが、たぶん、放送日がちょうど安部公房の誕生日だったとか、そういうこじつけでしかなかったと思います。

 当時は週に一冊読むのが課題となっており、時間に追われながら漫然と読書していたようで、今回改めて読み返してみて、こんな描写があったのか?とまるで初めて読むかのごとき感動がありました。
 砂穴に埋もれゆく一軒家に閉じ込められ、脱出を試みる男の姿が、なんとなくブラック企業で働く会社員に見えてしまったり、砂穴に埋もれゆく一軒家が日本という国そのものに思えてしまったりしました。
 こんなことではいけないと、男はもがきにもがいて外の世界へ戻ろうとするのですが、やがて砂穴の中の暮らしに慣れてしまう。その「慣れてしまい方」がこれはまるでブラック企業そのものやないか、と。ありえない環境に身を置くことになっても人間ってその苦痛を和らげるために迎合しようとしてしまうんですよね。慣れてしまえばどうということもなく、これはこれで暮らしやすいではないか、と思い込んでしまうあの地獄。
 砂の上に住む部落の人々は気味が悪いくらい顔が見えない個性のない連中ばかりで、その没個性もまた、ブラック企業における、決して責任を取ろうとしない重役たちの身の処し方と重なるような気がして、まあ、それは砂穴の一軒家をブラック企業に見立ててしまったが故に顕れてしまった見方ではあるのですが、なんにせよ、以前読んだときにはこんな風なことは考えもしなかったから、読書というのは一度読んで終わりなのではなく、幾度も読み返すことで新たな発見があり、それがある作品こそが名作というのだろうと思いました。真似したくなる文体だから日常的に読むことで体内に入れてしまいたい。

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