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読書の記録 高浜虚子『俳句への道』

 岩波文庫はちょっとページを開いただけでも文化レベルが上がったような気になる。読書が好きな人のなかには、こういう読み方を好ましくないと思っている方も多いと思うが、こういう読書の仕方で読書を好きになってきたんだから仕方がない。

 齢八十を超えたおじいちゃんだった高浜虚子が、次女の星野立子が主宰する『玉藻』に連載していた俳句に関するお話をまとめたもの。おそらく私のような俳句初心者を俳句の道へと導く書物だと思う。
 とんでもない頑固じじいが難解な俳句論をぶちかます不愉快極まりない書かと思いきや、意外に筆致は優しく易しい。俳句を愛するがゆえに俳句の裾野を広げたい一心から俳句初心者に俳句の心得を諭しているようなところがある。

 二百ページくらいあるが、書いてあることはほぼ「客観写生」「花鳥諷詠」の二点のみ。延々とこの二点についてしつこく繰り返しているという印象が読後には残る。これぞ初心者への教育といえる。反復に反復を重ねさせるうちにそれが身体に細胞レベルまでしみこんで自分のものとなる。そこに合理的とか量より質とかそういう概念はない。初心者にはとにかく同じことを繰り返し教え込まないとならないのだ。この段を飛ばしてしまうと、まっとうなことを言っていそうな割に心の通っていないしょーもない大人になってしまう。俳句論としても人生論としても読める。

 「客観写生」とは客観を観る目を養い、感ずる心を養い、かつ描写表現する技を練ること。これをあほほど繰り返すうちに花でも鳥でも対象となるものに自分の心象が溶け込んでいくものらしい。ここにも反復の大切さが説かれている。反復の大切さを反復して伝えているのだ。
 「花鳥諷詠」の花鳥は自然のこと。諷詠は詩歌をうたい作ること。季語のある俳句は花鳥諷詠の文学なのだ、ということであり、これを作るためには「客観写生」が重要だというわけだ。読みやすくて面白かった。

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