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ユーザーテストガイドラインをバージョンアップ!~都庁で「サービスデザイン」を徹底するために~

すべての行政手続のデジタル化など、都政のDXの推進にあたり、私たちが目指すのは、単なるデジタル化ではなく、QOS(Quality of Service)の高い、すなわち、誰もが使いやすく、品質の高いデジタルサービスの提供です。

そうしたより良いサービスを創るには、利用者(ユーザー)中心でサービスを設計する「サービスデザイン」の取組を徹底することが大切です。

そのため都庁では、職員が遵守すべき共通の価値観である「デジタル10か条」の1番目に「顧客視点でデザインしよう」を掲げており、先日公表した「シン・トセイ3」では、都庁としてはじめて「サービスデザイン」を戦略の柱に位置づけました。

そうした「サービスデザイン」の取組の核となるのが、利用者の声をサービスに反映させる「ユーザーテスト」です。2021年9月、都庁職員向けの「ユーザーテストガイドライン」を公開し、「テストしないものはリリースしない」を合言葉に、2022年度は年間100件、2023年度は新たに150件の目標を立て、ユーザーテストを実践しています。

こうしたユーザーテストをサービスの企画段階から都庁内で行っていくため、2023年1月、「上流工程からサービスデザインを徹底する」を掲げ、「ユーザーテストガイドライン」をVERSION 2.0に改訂しました。

追記:ユーザーテストガイドラインは、2024年3月に「サービスデザインガイドラインVERSION2.0.0」に統合されました。

今回のnoteでは、ユーザーテストガイドラインの改訂を支援したデジタルサービス局のデジタル人材、近藤さんと田村さんにお話をうかがいました。


■ガイドラインの改訂について

―――ガイドラインを改訂した背景について教えてください。

【近藤さん】
従来の「ユーザーテストガイドライン」は、「ユーザーテスト」という概念自体が都庁内でまだほとんど知られていなかったときに作られたもので、ひとまず職員同士でリリース前や後にユーザーテストをやってみよう、という「ファーストステップ」として作られたものでした。

ガイドラインの策定から1年が経ち、都庁内でもユーザーテストの実践が少しずつ進んできました。

そこで、次のステップとして、構造改革推進チームのユーザーテスト担当から支援依頼を受け、仕様・要件が固まった段階だけでなく、サービス開発の「上流工程」からユーザーとの対話を進めることへ挑戦することにしました。

―――ガイドラインの改訂のポイントを教えてください。

今回の改訂では、これまで実施してきた「ユーザビリティテスト」に加え、開発の上流工程で行う「ユーザーリサーチ」「プロトタイピング」を新たに都庁が実施するユーザーテストとして位置づけ、企画工程、開発工程、確認工程のそれぞれでユーザーの声を聞くことで、手戻りをなくし、トータルコストを減らしつつ、満足度の高いサービスを実現することを目的としています。

また、これまで職員のみを対象としていたテスターを原則として「都民」へ拡大することでより良いサービスにつなげることとしました。

ガイドラインより(※都庁の実態に則して整理しています)

―――ユーザーリサーチとプロトタイピングとは、どんなものでどのように実践すればいいのでしょうか。

【田村さん】
今回、ガイドラインの内容を詳しく説明する「ユーザーテスト実施手順書」をあわせて作成しました。手順書は「リサーチ」「プロトタイピング」「ユーザビリティテスト」の3つそれぞれについてご用意し、実施にあたっての具体的な留意点などを示しています。

【近藤さん】
都庁に在籍する非常勤専門職員にガイドライン自体のデザイン校正に参加してもらうなど、私たち自身も都庁職員という「利用者」の視点に立ってガイドラインを作成しました。


■ユーザーの「インサイト」をつかむ「リサーチ」

―――では、ガイドラインと実施手順書に従って内容をお聞きしていきます。まず、今回新たに盛り込んだ「リサーチ」について教えてください。

【近藤さん】
「ユーザーリサーチ」は、サービスの「企画工程」で行うユーザーへのインタビューやアンケートのことで、ユーザーの特徴や行動、抱えている課題やニーズなどを深く知り、解決策に生かすことを目的として実施します。

―――リサーチはどのように実践すればいいのでしょうか

【近藤さん】
まず「ニーズ」と「インサイト」の違いから説明しましょう。

私たちが取り組む事業では、サービスの利用者自身がはっきりと自覚していないニーズや課題に取り組むことがしばしばあります。そのような潜在的なニーズや真の課題のさらに深いところにある、本人ですらはっきりと言語化できてない動機や洞察を、「ニーズ」と区別して「インサイト」と呼びます。これを把握することが根幹的な課題解決のためには極めて重要です。

そうしたインサイトを抽出するために行うのが「ユーザーリサーチ」です。利用者中心でサービスをデザインしていくにあたって非常に重要となる工程で、ユーザーへのインタビュー・アンケートを通じていかに正しくインサイトを抽出できるかで、選択すべき解決策やその精度が変わります。

―――ニーズとインサイトの違い、もう少し詳しく教えてください。

【近藤さん】
一例をあげましょう。たとえば、あるWebページの検索機能が使いにくく、「こういう条件で絞り込みができればいいのに」というユーザーの要望があったとします。こうしたニーズに応える直接的な解決策としては、検索機能への「絞り込み条件」の追加が考えられます。

しかし、「ユーザーリサーチ」で深堀りをした結果、ユーザーがそもそも絞り込み作業自体を面倒と感じている場合、絞り込み条件を追加したところで課題は解決できません。その場合、自動でよく見られているコンテンツを優先的に表示してほしい、というところに真の要望=「インサイト」があり、「アクセス数の高いコンテンツを上位に表示する」ことや「行動履歴を元に検索結果をフィルタリングする」ことが本質的な解決策となります。

こうしたギャップを解消し、真にユーザーに寄り添ったサービスを生み出すために「リサーチ」が重要となるわけです。

―――「インサイト」抽出のために気を付けることはありますか

【田村さん】
リサーチでインサイトを抽出するにあたっては、インタビューしたテスターの「個人の意見」と「事実=ファクト」を区別して受けとることが重要で、ユーザーの率直な発言を引き出すためには、事前説明は最小限にし、誘導型質問は避けることが必要です。

リサーチの実施手順書では、そうしたユーザーへインタビュー・アンケートを実施する際の留意点を「10項目」にまとめました。

※ユーザーリサーチ実施手順書は2024年3月に改訂したため、リンク先を修正しています。

■「プロトタイピング」は委託先とともにサービスを作り上げる意識で

―――では、次に「プロトタイピング」について教えてください。

【近藤さん】
「プロトタイピング」は、本格実装前に「プロトタイプ(試作品)」を作成し、具体的なビジュアルイメージや、実際の手触り感を事前に確認し、サービスの最終イメージを早い段階からすり合わせることで、ユーザー視点から満足度の高い具体的な要件・仕様に落とし込む重要な工程です。

―――プロトタイピングはどのように実施すればいいのでしょうか

【田村さん】
実施手順書では、プロトタイピング実施にあたって「5つの心構え」を掲げました。

まず、サービスの「コアとなる部分」を見極め、その提供品質を決して妥協しないようにすることが重要です。特に、サービスの満足度に大きな影響を与える、ユーザーの期待値との差異が表れやすい「入口」サービス利用後の印象を形作る「出口」には注意を払うことが必要だと考えています。

また、実施して終わりということではなく、見つかった課題に対して優先順位をつけて対応することが必要です。そのためにプロトタイピングでは、次のアクションを見据え、必ず「良し悪しの判断」ができるよう、問題意識を明確にしてテストを設計することが必要です。

【近藤さん】
ガイドラインではプロトタイピングを開発工程に位置付け、委託先事業者が実施するものとして定義していますが、それは、受託者に丸投げすればいい、ということを意味しません。むしろ、委託元である都庁の職員自身がその実施内容に強く関与し、受託者を「ビジネスパートナー」として意識して、責任をもって共にサービスを作り上げてほしいと考えています。

※プロトタイピング実施手順書は2024年3月に改訂したため、リンク先を修正しています。

■「ユーザビリティテスト」で品質を保証する

―――では最後に「ユーザビリティテスト」について教えてください。

【近藤さん】
これまで都庁で実施していたユーザーテストは「ユーザビリティテスト」と呼ばれるもので、サービスのリリース前に使い勝手等に問題がないか、実際にユーザーに使ってもらうことで確認する工程です。ここでプロトタイピングで確認したポイントがサービスに反映されているかを確認します。

ガイドラインではリリース後の改善サイクルについても記載し、定期的にサービスの見直しを行い、「作りっぱなし」にしないことを明記しています。陳腐化して機能が実態に合わなくなり、使われなくなる事態を避けることも重要です。

とはいえ、確認工程でのユーザビリティテストでサービスのコア部分の問題が発覚したとしても、企画工程にまでさかのぼることはできません。ですので、上流工程で「リサーチ」や「プロトタイピング」を確実に実施し、ユーザーの声を聞いておくことが何よりも重要なのです。それが今回のガイドライン改訂のポイントです。

※ユーザビリティテスト実施手順書は2024年3月に改訂したため、リンク先を修正しています。

■都庁でユーザーテストを実践していく

―――このガイドラインを都庁でどのように実践していきますか

【田村さん】
「ユーザーテストをやろう」と言っても都庁内では誰もその意味を理解できなかった状況から少しずつ浸透してきた途上にある現在、いきなり専門的な経験が求められる工程を職員だけで実践するのは難しいのが実態です。

ですので、まずはこういう工程があることを「知って」いただき、実施の際には専門人材である私たちに声をかけていただいて、ともに実践しながら「理解して」いただき、その後、少しずつ都庁職員が自分自身で「できる」ようになっていただけるよう、「知る」「理解する」「できる」の3ステップで実践していけないかと考えています。

そのため、「シン・トセイ3」では、新たに都庁で「サービスデザインチーム」を結成し、各局の実践をサポートしていくことが盛り込まれました。

【近藤さん】
すべての都庁職員がこのガイドラインを完璧に理解して実践できるのはひとつの理想です。しかし、そこまで至らなくても、まずはニーズ/インサイトの違いの理解や、委託先に丸投げしないなど、それぞれの心構えを心にとめていただくだけで、サービスの満足度は向上すると確信しています。まずは第一歩を踏み出すことが重要なのです。

なお、ユーザーテストはサービスデザインの一つの工程にすぎません。サービスを設計する際には、誰をターゲットとして、どんな価値を提供するのか、といった前提条件を企画段階で整理しておくことがまずもって重要です。こうしたサービスデザインの根本に関する事項は別途ガイドラインを策定する予定です。

ユーザーからのフィードバックは時に耳の痛いものになりますが、過度に恐れる必要はありません。ユーザーに向き合い、開発に携わるすべての関係者で一丸となって、より良い行政サービスを作りあげていきたいと思います。

―――近藤さん、田村さん、ありがとうございました。

* * *

東京都では「サービスデザイン」を徹底していくため、2023年度は「サービスデザインチーム」を結成して各局の実践をサポートするとともに、ユーザーテストの結果を踏まえてサービスのUI/UXを改善するために確保している「アジャイル型改善予算」を1.5億円から2.5億円に拡充し、年間150件を目標にユーザーテストを実践していきます。

「ユーザーテストガイドラインVERSION2.0」はこちらからご覧ください。

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