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股関節と骨盤底筋の解剖的相互関係

こんにちは。理学療法士のこうやうです。

今回は

股関節と骨盤底筋

について書いていきたいと思います。

英語論文を今回も簡単に翻訳させていただきましたので

よろしくお願いいたします。

それでは始めます。


閉鎖筋膜を介した肛門挙筋による排便/排尿機能への内閉鎖筋による股関節運動の寄与の解剖学的基礎

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/joa.13810

はじめに

 下肢と骨盤底筋のリハビリテーションは別々に考えられて、実施されている。これは下肢と骨盤底筋の解剖・機能解剖が別々のフレームで議論されており、それらを関連付ける知識がほとんどないためである。下肢の筋の中でも、おそらく最も注目されていない筋が内閉鎖筋である。内閉鎖筋は股関節の深層外旋六筋の1つとして知られており、股関節外転と外旋の作用を有している。これらの筋は股関節の骨の中にあり、体の表面からその形状を把握することは困難である。興味深いことに内閉鎖筋は下肢の筋でもあり、骨盤壁を作る要素としても関与している。最近の報告では、内閉鎖筋と骨盤底筋の間の機能的関係が示唆されており、股関節運動と排便/排尿機能の関連性について今日まで議論されている。例を出すと、股関節外旋運動を行った女性の群と対照群とで比較し、股関節外旋運動群で骨盤底筋力が改善されることが報告されていたり、THAを実施した尿失禁患者を評価し、股関節治療が尿失禁の改善に寄与していることが報告されたりしている。臨床におけるこのような現象は、股関節と骨盤底筋間の構造的関係を示唆している。

股関節の回旋筋の1つである内閉鎖筋は、骨盤壁を構成し、骨盤底筋の中で最大の肛門挙筋と接触している。従来の教科書では、内閉鎖筋と肛門挙筋は、肛門挙筋の腱弓と呼ばれる線形構造を介して接触していると述べられている。しかしこのような限られた「直線的」接触では、上記の臨床現象を適切に説明することは困難である。したがって、内閉鎖筋と肛門挙筋は、従来述べられているよりも広い接触面積を持っていると仮定した。そこで本研究では、肛門挙筋の密着部位と起始部に着目し、内閉鎖筋と肛門挙筋の構造的関係を明らかにすることを目的とした。

研究方法

遺体標本の準備

23体(男性12人、女性11人、平均死亡年齢77.1歳 年齢範囲42~94歳)が本研究で提供された。


肉眼解剖学

 19体の遺体が肉眼的検査に使用された。内閉鎖筋と肛門挙筋を解剖するために、12体の遺体から半分に分断された骨盤14個(骨盤全体2つ、右骨盤半分4つ、左骨盤半分6つ)が選定された。これらの二つの筋と周囲の結合組織は、2つと関連する筋膜構造の関係に焦点を当てて、内側と後方の側面から観察された。解剖された骨盤の半分の1つは、3Dスキャナーを使用してキャプチャーされ、3次元画像で観察された。残り7つの遺体の骨盤は、肛門管に平行な斜めの冠状面で骨盤全体を切断した。肛門挙筋は肛門管を前上方に引っ張るので、このような面で切断すると、筋束に平行な断面が得られる。内閉鎖筋と肛門挙筋の切片を調べた。(1)内閉鎖筋と肛門挙筋の接触面積の広さ、(2)内閉鎖筋の最大厚、(3)肛門挙筋の最大厚、(4)坐骨肛門窩の幅、(5)坐骨肛門窩の深さを測定した。


組織学

 組織学的検査には4体の遺体が使用された。内閉鎖筋と肛門挙筋の間の接触領域を組織学的に観察するために、ダイヤモンドバンドパソロジーソー(EXAKT 312; EXAKT Advanced Technologies) を使用して、肛門挙筋の筋線維に平行な断面で組織体を収集した。


結果

 肛門挙筋は、骨盤腔の側壁および下壁を形成し、上は尾骨、下は外肛門括約筋と連続していた。肛門挙筋の外側には、閉鎖筋膜で覆われた内閉鎖筋が観察された。最も表面的な筋束のみが内側面から観察され、肛門挙筋の前部は恥骨から始まり(図1aの矢印線)、後部は閉鎖筋膜から始まっていた。図1aの矢印の付いた点線)。内閉鎖筋が肛門挙筋と重なる領域では、肛門挙筋の腱が閉鎖筋膜と接触していた(図1bの星印)。肛門挙筋を除去した後、内閉鎖筋全体が明瞭に確認できるようになった(図1c)。内閉鎖筋は、尾骨および梨状筋とともに、骨盤壁を構成する。内閉鎖筋と閉鎖膜を取り除いた後、恥骨、坐骨、閉鎖孔を調べた(図1d)。

図1


後面では、坐骨肛門窩はゆるい結合組織、主に脂肪組織で満たされていた。緩い結合組織と閉鎖筋膜を除去すると、内閉鎖筋と肛門挙筋がはっきり見えた(図 2a)。さらに、内閉鎖筋と肛門挙筋は、それぞれ坐骨肛門窩の外側と内側に位置していました。つまり、内閉鎖筋と肛門挙筋は、坐骨肛門窩を介して互いに相対的に位置していることが示される(図 2b)。

図2

肛門管を通る冠状断面では、坐骨肛門窩は緩い結合組織、主に脂肪組織で満たされ、内閉鎖筋と肛門挙筋はそれぞれ窩の外側と内側に位置していました(図3a)。閉鎖筋膜は内閉鎖筋の内側表面を覆い、肛門挙筋は坐骨肛門窩の上方の閉鎖筋膜に付着していた(図3b)。内閉鎖筋と肛門挙筋の間の接触領域は、上下方に広がっていた。このセクションでは、(1) 内閉鎖筋と肛門挙筋の間の接触領域の高さは24.6±9.1mm、(2) 内閉鎖筋の最大厚は16.1 ± 5.3 mm、(3)肛門挙筋の最大厚は16.1±5.3 mmだった。肛門挙筋は 3.2±1.0 mm、内閉鎖筋はより厚く、(4)坐骨肛門窩の幅は 19.3 ± 7.1 mm、(5)坐骨肛門窩の深さは 25.4 ± 7.1 mmだった。

図3

恥骨体、恥骨上枝および閉鎖管のレベルでの肛門挙筋の筋線維に平行な断面が組織学的に観察された(図4a)。恥骨体レベルのセクションでは、内閉鎖筋が恥骨の体の内側表面に付着し、肛門挙筋がさらに内側に位置していた(図4b)。内閉鎖筋の内側表面は閉鎖筋膜によって覆われていたが、肛門挙筋の内側表面は骨盤横隔膜の上筋膜によって覆われていた。肛門挙筋は、上部では恥骨に取り付けられていたが (図4bの黒い矢印)、下部では、肛門挙筋のいくつかの筋層が腱を介して閉鎖筋膜に取り付けられていた(図4bの空の矢印)。恥骨上枝レベルのセクションでは、内閉鎖筋が恥骨上枝と恥骨下枝の間に位置し、肛門挙筋がその内側に位置していた(図4c)。このセクションでは、肛門挙筋のすべての筋線維が腱を介して閉鎖筋膜に付着していました(図4cの空の矢印)。肛門挙筋の起始は、従来の「肛門挙筋の腱弓」とはまったく異なる位置である閉鎖筋膜の下部領域に観察された(図4dの「e」の空の矢印)。

図4

閉鎖管レベルでは、内閉鎖筋の内側表面は閉鎖筋膜によって覆われ、肛門挙筋の外側面は骨盤横隔膜の下部筋膜によって覆われ、肛門挙筋の内側表面は骨盤横隔膜の上部筋膜によって覆われていた(図4d)。坐骨肛門窩は、横方向は閉鎖筋膜に囲まれ、内側は骨盤横隔膜の下部筋膜に囲まれ、脂肪組織で満たされていた。陰部管の上方、閉鎖筋膜に隣接する骨盤隔膜の下部筋膜 (図4dの)およびそれより20~30mm上方、閉鎖筋膜に隣接する骨盤横隔膜の上部筋膜 (図4dの)。その結果、これらの合流点の間の広い領域で、肛門挙筋の外側面は、骨盤横隔膜の下部筋膜ではなく、閉鎖筋膜によって覆われていました。言い換えれば、内閉鎖筋と肛門挙筋は、この領域で閉鎖筋膜を共有しているといえる。さらに、肛門挙筋のいくつかの筋層は、この閉鎖筋膜に広く付着していた。

閉鎖筋膜への肛門挙筋のこれらの取り付け点は、図5aに高倍率で示されている。c.d.e は、図4の空の矢印 a、c、d、および e に対応している。しかし、閉鎖筋膜もコラーゲン線維で構成されており、コラーゲン線維の明確で厚い層として形成されていた。肛門挙筋腱のコラーゲン線維と閉鎖筋膜のコラーゲン線維は、肛門挙筋の起始部で合流して混ざり合っていた。


図5


結論

 内閉鎖筋と肛門挙筋は、閉鎖筋膜を介して広い平面接触を共有している。これらの解剖学的所見は、内閉鎖筋の動きがおそらく閉鎖筋膜を介して肛門挙筋に作用し、肛門挙筋の機能の基礎を作り、骨盤内臓の支持に寄与していることを示唆している。これは、バランスの取れた適切な動きを可能にすることで、排便/排尿機能を改善する股関節運動の有効性の解剖学的基礎を提供する可能性がある。


感想

 この論文から筋は個別ではなく、何かしらの連続性を有しているものだということを強く感じた。我々が体感している現象は実はまだ発見されていない解剖学の存在を示唆しているのかもしれない。解剖学は我々セラピストの治療のアイディアに大きく貢献している学問だと感じている。そしてその解剖学はシンプルな学問にも関わらず、このような新しい発見が生まれてきている。解剖学の学習はセラピストであれば日々学んでいくべき情報であると感じた。

 しかし余談であるが少し疑問に思うこともある。それは、我々が身体の関係性を「解剖学」に見出そうとすることである。私見ではあるが、生を受けているものの現象を生を全うしたものの情報で解釈するのはなにか無理を感じざるを得ない。ご遺体は構造物だが、生命は構造物ではない。実は我々の感じている症状といった現象をもっと別の視点から考えなければいけないのではないかとも思った。

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