〜香りの短編小説〜

香りの短編小説書いてます。香りをこよなく愛する人。

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最近の記事

お日様の香り

「今日もいい天気」 朝の6時過ぎ。カーテンから差し込むお日様の気配を感じて私は察した。 朝早く起きて散歩に行くのが私の日課だ。だから天気はすごく大切。 「いい天気でありますように」 そうやって願いながら、毎朝ドキドキしながらカーテンを開ける。ドキドキというと、発表会の前の緊張感とかを思い出しそうだけど、そんな大袈裟なものではない。半熟に茹でた卵を食べる時に成功しているか不安になるのと同じくらいのドキドキ。 今日の空は雲が2割くらい。文句なしのいい天気だ。空気は少し冷

    • 白いラナンキュラス

      「なんでこんな目に合わないといけないんだろう」 使い古したビニール傘の上を、大粒の空の涙がゆらゆらと流れるのを眺めながら僕はそう心で唱えた。 まぁそんな予感は1週間前からしていたから覚悟はできていた。でも、やっぱりその言葉は、まるで鉄球を飲み込んだかのように胸にグッと重くのしかかる。その日は彼女の薬指に光っていたはずの物までなくなっていた。 **** 僕はセルジュルタンスのフルールドランジェを持っている。オレンジブロッサムやジャスミンが薫る香水だ。この香水は彼女のため

      • 香水をつける人は非現実的で非効率的だ

        香水の存在価値はなんだろう。 そもそも香水なんてものはこの世に必要なのだろうか。 ヨーロッパでは香水の文化が根付いているらしいが、ここは日本だ。 日本人のほとんどは香水が嫌いだ。 その理由は、温泉という文化にあるとかないとか。 ヨーロッパの人々は香水を自分の体臭を消すために使うらしい。(だから香水がキツいのね) その一方で、入浴の文化が根付いている日本人は無臭を好む人種であると言われている。 もちろん日本人にも香水をつけている人はいる。 そのほとんどはモテたい

        • タバコは嫌い、でもタバコは好き

          僕はビリヤードが大好きだ。 昔は毎日ビリヤード場に通って球を突いていた。 ビリヤードはマイナーなスポーツで、周りからは「チャラい」などと言われ、そんなに評判はよくなかった。何故、ビリヤードに夢中になっていたのかは自分でも分からない。それなりにやっていたため、もちろん上手くなった。 僕が通っていたビリヤード場は、緑色の台が7台。電気は真っ白。壁は薄黄色で、椅子やテーブルはブラウンの木で作られたレトロな雰囲気だ。毎日19時ごろには全ての台がお客さんで埋まる。 ビリヤード場

          母と父の香り

          ゲランのミツコ。これは私の母親が使っていた香水の名前だ。 少しだけこの香水のお話をさせて欲しい。ミツコのボトルの形はハートを反対にしたような形。スペードと言ったほうがわかりやすいかもしれない。色は黄色。香りは大まかに言うとシプレー調なのだけれど、その中にはベルガモット、ジャスミン、ローズ、ベチパーの4つがキーノートになっていると言われている。ネットには色々な口コミがあるが、私にとっては母の香り以外のなんでもない。 私の母はとにかくファッションにうるさかった。ネイビーとかブ

          薔薇と彼と私

          私は花が好き。それも花言葉が好き。 友達と遊ぶより、好きなテレビを観るより、ゲームをするよりも好き。 でも、それと同じくらい好きな人がいる。私が花言葉を好きになったのは少なからず「その人」が影響している。 彼との初めてのデートは郊外のバラ園だった。それもすっごく大きなバラ園だった。入り口を通ると辺り一面に真っ赤なバラが咲いている。バラ園といってもバラだけじゃない。パンジーとかシクラメンとか、小さい花もたっくさん咲いていた。 私はそこで彼が花言葉に詳しいことを知った。花

          大好きだった人の香り

          彼女の香りが変わった。 それも突然。僕になんの相談も無く。 彼女が今まで使っていたのはシャネルのNo.5。 これは僕が一番好きな香水だ。 彼女は香水なんて全く興味がない女の子なのに対し、僕は日頃から香水をつけない日はないといった具合に香水が好きだ。 そんな僕を見てか、彼女がある時僕に言ったのだ。 「私にも香水選んでよ」 僕は嬉しかった。 彼女に香水の良さを知ってもらいたいと常々思っていたからだ。 「いいよ!今度一緒に買いに行こうね!」 そう言って彼女と一緒に買いに行

          大好きだった人の香り

          今年の春はミモザに決めた

          最近暖かくなってきた。 季節は4月。私の苦手な冬も終わり、大好きな春が近づいてきている。 なんで春が好きかって? 答えは一つじゃない。でもこれと言った答えもない。 まぁあえて一つだけ答えるならば花がたくさん咲くから。 そういえば最近ミモザの花をよく見かける。 お店のディスプレイだったりお花屋さんだったり。 ミモザは黄色くて、小さくて、可愛い花だ。 イタリアでは男性から女性にミモザの花をプレゼントする日があるらしい。 そんなの私には無縁の行事だ。 今までの28年間の人生

          今年の春はミモザに決めた

          初めてのデート

          「なんか今日いい香りするね」 そんな褒められ方初めてだった。 それもそのはず。 だって、今日は人生で初めて香水をつけた日だから。 彼とは学校で出会った。 彼と同じクラスになって数ヶ月がたった。 彼と私は同じ高校に通っている。 彼は部活で忙しい毎日を送っているのに、 私ときたら毎日家に帰っては、スマホをいじるか眠るかの二択しかない。 私たちはある種、正反対の二人なのだ。 問題はそれだけじゃない。 彼はクラスの人気者で顔もわりといい(まぁ顔面偏差値60といったところか)の

          初めてのデート